放課後の屋上は最高に暑かった。その暑さゆえに、夏は近寄る人がほとんどいない。それを理由にこの場所を指定したのかと思うほど。
放課後の屋上は最高に暑かった。その暑さゆえに、夏は近寄る人がほとんどいない。それを理由にこの場所を指定したのかと思うほど。



天童さん?


先に来ていた天童さんは、わたしの声に顔を上げた。
彼女と同じく、わたしも比較的涼しい物影に入る。必然的に距離が近くなった。



……ああ、先輩、お待ちしてました。わざわざお呼び立てして、すみません





いいけど……用件は何かな?


すみませんと思うなら呼びつけるな、とは思う。



単刀直入に言いますけど、陸くんのことです。一体彼に何を言ったんですか? 急にあたしを避けて――





えっと……椎名くんのことなら、本人に聞いた方がいいんじゃないかな?





とぼけるのはいい加減にしてください! あたし、知ってます。陸くんは先輩のことが好きなんです!





……


そんな、泉でも知っているようなことを得意気に言われても困る。



それなのに、先輩は陸くんをふった上にいつまでも彼を振り回して……あなたに、彼を縛る権利なんて何もない!


わたしと陸が本当は付き合っているということを知らなければ、天童さんの言い分は至って正論だ。
だけど、それを何の関係もない部外者に言われる筋合いはない。
このまましらを切り続けても良い。
その方がどちらかといえば、わたしの対外的なイメージは守られる気がする。
穏やかで、控えめな、資産家の令嬢。
腹の底で渦巻く黒い感情を隠して、ここ数年わたしが作り上げてきた虚像。
壊すのは勿体ない……でも、
この子は邪魔だ。



どうしてそんなこと、天童さんに言われなくちゃならないのかな。わたしに命令する権利なんてあなたにないでしょ。ていうか、ふられたくせに図々しいのはそっち





なっ――……!





何年も近くにいたのに、何もなかった時点で諦めた方がいいんじゃないかな。陸言ってたよ? 無理矢理キスなんてされて迷惑だって


少々言いすぎな気はしたけど、これくらいは言っておかないと。
もともと、既に蹴落としたと思っていた女だ。
それがこうして、わたしの邪魔をしに来た。
今度はわたしに歯向かおうなんて気を起こさせないように、徹底的に潰しておかなければいけない。



陸がわたしのことを好きだって、気づいているんでしょう。だったら、天童さんの出る幕はないよ。みんなには内緒にしてたけど、わたしたち本当は付き合ってるの





え? で、でも……陸くんは





周りに気を遣われるのが嫌だから、黙っていただけ。これで納得した? わたし、陸を振り回してなんかいないし、彼もそう思ってないよ


そしてわたしは、最後に優しく諭すように言った。



わたしたちのことは、天童さんも内緒にしてね。そうすれば、あなたが陸にしたことは誰にも言わないし、忘れてあげるから





――っ


天童さんからは、その後生意気な言葉が出てくることはなかった。
酷く憔悴したような顔で立ち去って行く彼女の後ろ姿を見ながら、自然と笑みがこぼれる。
きっと彼女は、大いに傷ついていることだろう。



悪く、思わないでね


全てはわたしの復讐のためだから。そのためなら、わたしはなんだってできる。
わたしのような悪女より、本当はきっと彼女のような子の方が陸には相応しいだろう。
だから、全てが終わったその時は彼女に陸を譲ってあげてもいい。
もっとも――その時の陸が、今と同じとは限らないけれど、ね。



先輩、今日はなんだか機嫌がいいですね


陸が言ったのは、帰りの電車の中だった。
結局あの後、天童さんは部活に来なかった。その理由は明白だったが、何も知らないふりをしておくことにする。
個人的には、かなり気分が良い。



えー? 分かる? 夏休みの旅行、楽しみなんだ





次の旅行は泊まりなんですよね





そうそう





行き先はどこに決まりますかね……やっぱり、部長の案が有力かな……


夕方の電車は、帰宅するサラリーマンや学生で少し混雑していた。わたしたちは、離れないように手を握りながら、会話に花を咲かせる。



どこでもいいよ。椎名くんと一緒なら


不意に電車が傾いて、わたしは扉に寄りかかる陸に体重預ける。



……先輩


吐息が鼻にかかりそうなくらい、二人の顔が近づいた。
わたしは、周りの乗客に聞こえないように、陸の耳に口を寄せる。



……好きだよ


囁くように言えば、うぶな陸はすぐに顔を赤らめた。



俺も……です





ふふふ


わたしは穏やかに微笑んだ。
もう邪魔者もいなくなった。全て、上手くいっている。
そろそろかな、と思う。



ねぇ、椎名くん。お願いがあるんだけど





なんですか?


無邪気に首を傾げる陸に、わたしは言った。



今度、お家に遊びに行ってもいい?





え? うちですか? 別に構わないですけど……





本当? 嬉しいな。楽しみにしてるね


こうして寄り添っても、人の心なんて見えやしない。
そんな不確かなものを信じているなんて、本当に滑稽で笑える。



椎名くんの育った場所を、一度見てみたかったの


それはある意味、嘘偽りない本心だった。
退屈な茶番劇はもう終わり。
さあ、復讐を始めよう。

どんどん面白くなってきて次の更新が楽しみです
ドキドキ(゚∀゚*)(*゚∀゚)ドキドキ