瞬く間にフラッペが集めた軍の倍以上の騎士が花畑を取り囲んだ。
しかも、ただの騎士ではなく、皇太子親衛隊――皇太子が自ら率いる精鋭部隊である。
アナタは…………！
ペルラン皇太子…………！
フラッペ！！貴様、そこを動くな！！
………なんだと！
瞬く間にフラッペが集めた軍の倍以上の騎士が花畑を取り囲んだ。
しかも、ただの騎士ではなく、皇太子親衛隊――皇太子が自ら率いる精鋭部隊である。
バカな…………なぜこんなに早く…………！
情報があったんだ。キミがしたみたいにね
情報だと？
いや、情報というより依頼というべきかな
匿名の依頼だったけどね。「どうか友達を助けてほしい」と。その後でこの花畑の場所を教えてもらった
匿名のタレこみを真に受けて親衛隊を動かしたというのか！！
ああ
当然のことのように頷く皇太子に、上官殿はあんぐりと口を開ける。
狂っているとでも言いたげだ。
アルエットも、新たに現れた騎士を信じていいのかと、フラッペと皇太子の顔を見比べている。
なにせ、その声がとても必死だったのでね。とても震えていて、切なげな声だった
何かあると思った私は、すぐに親衛隊を率いてここに来たってわけさ
バカか貴殿は！そんな根拠もない情報だけで親衛隊を動かし自ら出向くなど！それが悪戯や敵国の間諜の罠だったらどうするんだ！
言っただろう、必死そうな声だったとね。これでも、嘘を見抜ける耳は養ってきたつもりさ
愚の骨頂だ！！貴様は自分の身分を何だと思っている！親衛隊や皇太子という身分は万事屋や悩み相談室ではないのだぞ！！
身もふたもない言い方だが、そうでありたいとは思っている
なっ…………！
フラッペよ、国というものは人々という土台があるからこそ成り立つ。彼らが幸せな生活を送っていれば、それだけで国も幸せとなれる
詭弁だ！！そんなもので国民は満足などしない！より領地を広げることで国民の生活を潤し、国としての力をつけることで諸外国を威圧して民を守る！それが繁栄の近道だ！
貴様は何も分かってはいない！過度な戦争を繰り返していては人々は疲弊し、国もやつれていく。戦争で幸せになるものなどいないのだ！
なに…………！
国を幸せにするのは戦争ではない！国民一人一人の幸せが集まって初めて国は本当の国力を得るのだ！！
…………………！
フラッペ！騎士を使ってアルエット殿の服従を強要したことは立派な脅迫だ！おとなしくついてきてもらおう！
何が脅迫だ！私は国のためを思って行っただけだ！それの何が悪いというのだ！！
連れていけ！！
放せ！無礼者！反逆罪でこの場で叩き斬るぞ！！
終わったか…………………
大丈夫！？
ああ…………大丈夫だ
口ではそう言っているが、無理をしているのは明らかである。
だんだん出血がひどくなっていく。
風魔法でなんとかできないか…………
そう考えていた時だ。
皇太子がこちらに近づいてきたのは。
やあエクリール嬢。久しぶりだね
覚えていただき………光栄です、陛下
それで、貴女が噂のアルエット・コネッサンス嬢か
は、はいっ！
心配するな。私はフラッペのように無理矢理軍役につかせるよう脅迫したりしないさ
貴女ともゆっくり話したいが、今はエクリール嬢を病院に連れて行かないと
待って…………ください
ん？
もうすぐ………サジェス様の研究が……発表されるんです。それまで……ここにいさせてください
貴女………知ってて…………！？
当然だ…………私は学園長に頼まれたんだ。今日だけ……サジェス様に軍を……近づけないでくれって
つまり、どういうことだ？もし法に触れる行為であれば、サジェス嬢といえども拘束することになるが
違います！サジェスは、シャンスという女の子の笑顔を取り戻すために………！
笑顔を………？
面白い、なら私もここで見させてもらおう。その天才の研究成果とやらをね
ねえ、サジェスさん
私は、魔法が嫌いだった
………うん
魔法の可能性なんて提示されたせいで、お母さんとお父さんは実験をして、亡くなった
魔法のせいで、私は独りになったの………………
シャンスの言葉が、静かな浜辺に広がる。
サジェスは何も言わずに聞いていた。
初めての、シャンスの本音を。
私は、誰とも関わりたくなかった。孤独になったらなったで、私は記憶の中のお母さんお父さんと一緒にいれればよかった。だけど、そんな私を心配してフェイールさんが連れてきてくれたのが、サジェスさんだった
最初はどうしようと思ったよ。だって、まさか魔法の可能性を広げた張本人が私の前に現れたんだから
殺意すら………覚えたほどだった
…………………………
でも、なんだろうね。私にとって、両親を奪った憎き存在なのに……………
貴女があまりに楽しそうに話すから、いつのまにか引き込まれてた
魔法について語る貴女の顔はすごく輝いていて、子供のようだった。何がそんなに楽しいのかってくらい弾んでて…………
それが、お母さんに重なったの
……………………………
それで、後でアルエットさんにも教えてもらって、ようやく気が付いたの
お願い、サジェスさん。私に魔法の可能性を見せて
…………………うん
サジェスは頷くと、ヒラリとシャンスの前に立つ。
シャンスを座らせ、まるで演劇の司会のようにニッコリと笑う。
お待たせしました！これより、サジェス・エフォールによる空中火花をご覧いただきます！
空中………火花…………？
なお、この火花は大変大きな音がしますので、ご覧いただく際には耳栓を着けることをオススメします！
そして、サジェスはさり気なくシャンスに耳栓を渡す。
エクリールが朝に使っていた特注品ではなく、普通の耳栓だが、だいぶ音をシャットアウトできる。
シャンスが耳栓をつけたのを確認すると、サジェスは遠くの方に向かって合図をするかのように指先に火を灯す。
周りが暗いおかげで、小さな火でもとても明るい。
それから数分待っても、何も起きない。
もしかして、失敗したのだろうか。
しかし、耳栓を取ろうとすると、サジェスに止められる。
仕方なくおとなしく座りながら待っていると――――
何か、風を切るヒュウウッという音が聞こえた。
周りを見渡しても、暗くてよく見えない。
そして、次の瞬間、サジェスが両手を広げ、そして――――
……………………！？
耳栓をしていても分かるほどの轟音と共に現れたのは、空中に咲いた火花の大輪。
赤、黄、青、緑、色とりどりの火花が目の前で咲いて、そして散っていく。
暗闇を一瞬で明るく照らすほど、強力な閃光。
こんなに美しい「魔法」を、シャンスは未だ見たことがない。
すごいっ………………！
あれ、実はただの発火魔法じゃないんだ
火に火の粉があるように、魔法にもそれぞれこぼれ火みたいなものが存在するんだ。それを発火魔法の発展で火花と結合させて色を変えたんだ！
これが、ボクの最高傑作さ！どうだい、綺麗だろうっ？
ええ………すごく
すごく、綺麗！！
そして、空中火花が終わるまで、サジェスとシャンスは、お互いに笑いあいながらそれを見上げていた。
どうだい、シャンスさん。これが、キミに提示できる、最大の魔法だよ
キミはこの火花に、可能性を感じられたかい？
ええ、サジェスさん………………
ありがとうっ！
少女の世界に、笑顔が戻った瞬間だった――――
To be continued...
