想像してた場所と違う、というのがシャンスの正直な感想だった。
出かけるとか散歩だとか言っていたから、公園や緑が多い場所を想像していた。
辺りはとても静かで、波が穏やかに揺れるだけだ。
確かに、散歩には向いているかもしれないが、何故サジェスがここにシャンスを連れてきたのかが分からなかった。



大丈夫かい?もう少しだよ





だい……丈夫です





ところで、楽しみにしていたって、本当かい?





………………え?





さっき言ってたじゃないか。今日を楽しみにしてたって





い、言ったっけ?





言ったよ!いや~嬉しかったな~





…………………………





さあ、着いたよ!





浜辺?





どうだい?潮風が気持ちいいだろう?





確かに気持ちいいけど………………


想像してた場所と違う、というのがシャンスの正直な感想だった。
出かけるとか散歩だとか言っていたから、公園や緑が多い場所を想像していた。
辺りはとても静かで、波が穏やかに揺れるだけだ。
確かに、散歩には向いているかもしれないが、何故サジェスがここにシャンスを連れてきたのかが分からなかった。



シャンスさん、火花に興味を持ったことある?





火花…………?


首を振るシャンスに、サジェスは楽しそうに説明する。



火花ってね、金属が激しくぶつかったり、石をこすり合わせることで生じる火の粉なんだ。火打石ってものまであるし、大昔の人々は摩擦を利用して火を起こしていたからね





そのため、火花は発火魔法の根源とも呼ばれている





………………………





ではシャンスさんに問題です!火を起こすのに必要なものは何でしょう?





えっ!?





制限時間は30秒!スタート!





えっと………えっと………





可燃物と………酸素だっけ?





そうだね、概ね正解だよ。可燃物と酸素、つまりは空気だ





空気……………





ねえ、シャンスさん。ずっと疑問だったんだ。魔法って、結局元は一緒だったんじゃないかって


どういうことだろう?と首をかしげるシャンスを見て、サジェスは改めて続ける。



人は空気がないと生きていけない。火や水がなくても生きていけない。金属や電気がないとほとんどの人は満足に生きられない





同じなんだよ、それぞれの魔法の価値は変わらない。変わらないからこそ、ボクたちは手を取り合って人のために可能性を広げていかないといけないんだ





それに、さっきの問題で分かったと思うけど、火は酸素がないと発生できない。ボクに言わせれば、発火魔法そのものが「融合」なんだよ





………………………





つまりね、魔法の融合なんてそこら辺にいっぱいあるんだ。温かいコーヒーを飲むのだって、水魔法で綺麗にした水に発火魔法で沸騰させる。気球だって、発火魔法の熱で空気の動きをコントロールして、風魔法の負担を減らしているんだ





魔法の可能性……………………





すごい……………





だからね、シャンスさんにはまた感じてほしいんだ





魔法の可能性を





ようやく来たか





遅くなりました、フラッペ上官





…………………………!?


目の前に現れた男を見て、アルエットは足がすくんだ。
間違いなく、それは軍の上官――――しかも、自分やサジェスを執拗に軍に引き入れようとする、傲慢な騎士だった。
エクリールはすぐに気づくと、アルエットの手首をつかんでひっぱる。。
フラフラと前に出るアルエットの姿を見て、フラッペは歓喜の声を上げる。



おおお!!これがあのアルエット・コネッサンス殿か!!よくやったぞエクリール!!





いえ、これも仕事ですから





………………………………っ


彼女は、やっぱりサジェスの友達なんかではなかった。
私を売ろうとする――――「軍の狗」なんだ。
そう考えると、アルエットの心に、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。
いっそ、魔法で周りの花ごと吹き飛ばしてやろうか。
そんなことまで思ってしまう。
しかし、突然エクリールが再びアルエットの手首を握る。



………………………っ





………………………


エクリールをにらみつけるも、彼女は背中を向けたままだ。
しかし、アルエットは少しだけ逡巡する。
手首をつかむエクリールの手が、優しかったから。



でかしたぞ、エクリール!早速アルエット殿を城に連れていくとしよう





それより、彼女に仕える意思があるかどうか、聞いておかなくていいんですか?


エクリールは、そっとアルエットを背中でかばうように動く。
そして、連れていくのを先延ばしにするかのようにフラッペと会話をする。
だが――――



意思をここで聞く必要はない。城に帰ってからゆっくり聞いていこうじゃないか





しかし、それでは――――





分かっていないようだな、エクリール。全ては結果なのだよ





…………なんだと?


気づくと、エクリールとアルエットの周りを囲むように複数の騎士が集まってきていた。
軍に所属しているエクリールだから分かるが、皆魔法に秀でた者たちだ。
アルエットの魔法を見越してだろうか?



一人で来いと言ったはずだが?





そんな見え透いた誘い文句に騙されるわけがなかろう





簡単ではなかったぞ、なにせ相手は神童とまで言われた魔法使いだ。どれだけの兵力で制圧すればいいのか分からなかったのでな





制圧…………だと?





何を戸惑っているのだ?アルエット・コネッサンスは軍からの招致を無視して雲隠れまでする国への不敬者だ。どんな非情な行為に走るか分からないからな





最初から…………このために…………!





ところでエクリール、何故貴様がここにいる?





なっ…………!





貴様の任務はサジェス・エフォールの監視だろう。任務を無視するというのがどういうことなのか、分かっているであろうな?





貴っ様………………!


全てを悟ったエクリールが怒りを新たに前へ踏み込む。
しかし――――



かはっ…………!





っ!!





ふっふっふ……………


騎士の攻撃を受け、倒れこんでしまうエクリール。
アルエットが急いで駆け寄ると、腿から血が流れていた。
覚悟を決めて、魔法を使おうとするアルエットを、それでもエクリールが止めに入る。



ダメだ………魔法を使っては………………!





でも!





貴女が魔法で騎士を攻撃すれば、反逆罪としてその場で処刑されてしまう。奴らに………下手な餌を与えてはいけない…………………!





そんな…………っ





心配しなくても、アルエットは悪いようにはしないさ。もし殺してしまえば、サジェスの協力は永遠に受けられなくなる。殺傷力の高い発火魔法の天才はぜひともキープしておきたい





だが、貴様は別だエクリール。自分の任務すら満足にできない奴の代わりなどいくらでもいる。ここで果ててもらおう





……………





くっ…………!





そこまでだ!!


To be continued...
