セラータと共に最上階へ向かう途中、ルーチェがそんなことを言ってきた。



しかし、大きなお城ですね


セラータと共に最上階へ向かう途中、ルーチェがそんなことを言ってきた。



ここは、数百年前の貴族の屋敷の跡なんだ。まだアストレアがエリアに分けられてなかったころ、かなり栄えていたらしいが、貴族の権限の没落と同時に魔物に襲われて根絶してしまったらしい。





根絶・・・・・・ですか


ルーチェの声にため息が混じる。
前を歩くセラータには、彼がどんな表情をしているのか分からない。



一説には、貴族の生き残りが今の南エリアへ逃げ延び、再び政権を握っていたらしい。まあ、それも騎士ギルドが権力を握ったことで衰退してしまったようだが





そのようですね。おかげで、南エリアは内戦が絶えなかったとか


やはり、いつの時代も一緒だとルーチェは思った。
第三者からみれば、騎士ギルドが実験を握ったことでかなり南エリアの生活は楽になったと思われる。
それは魔本から流れてくる情報からも伝わってくる。
しかし、一度権力の甘い蜜を吸ったら、簡単に離れられるわけがない。
権力とは麻薬のようなものだと、昔の思想家は語っていた。
ルーチェも、それに関しては全く同意見だ。
おそらく、セラータもそうだろう。



まぁ、そんな状況下でも最近まで中央に異名持ちの騎士を派遣していたという意味では、南エリアは相当戦力が潤っているのでしょうね


・・・・・・皮肉に聞こえたのは気のせいだろうか。



・・・・・・これは





どうしたのだ、ルーチェ殿





いえ、あの隊長がこんなに本を所有しているとは





・・・・・・これは先代の隊長が残していったものだ。確かに、スクデリーア隊長は実践第一の方ではあったが





あぁ、なるほど。びっくりしました


なぜ、そこで笑顔になるのだろうか。
しかし、とセラータは改めて隊長室を見回す。
壁という壁には本棚が置かれ、中には本がびっしりと並べられている。
どれも背表紙がボロボロで、年季を感じさせる。



ところで、ルーチェ殿。何故ここに来たのか教えてもらえないあだろうか


今、階下では仲間の騎士達が犯人探しに奔走しているはずだ。
いくら自分が客人の護衛を任されているからとはいえ、セラータはどうも落ち着かない。
できることなら、今すぐ身をひるがえして仲間達と合流したい。
それをしないのは、騎士にとって命令が絶対であるということ、そしてルーチェに恩義があるからだ。
彼の計画が何なのか、未だ全く分からないが、彼に大志があるのなら力になりたいと思ったのも嘘ではない。
だからこそ、彼の計画が知りたいのだが・・・・・・



あのことは忘れてください





・・・・・・は?





おそらく、この状況下ではもう計画は無意味です。いくらなんでも、西エリアの隊長や騎士達が1日で死ぬなんて想定できるはずありません





だから、今は計画なんてありません





つまり、それはスクデリーア隊長ありきの計画だったのか?





ある意味、そうですね。なにせ、ティアマットに行くための計画でしたから





中央エリアに!?


それでセラータは察しがついた。
ルーチェの計画とは、西エリアの中央への援軍として侵入すること。
中央エリアに入るには、そのエリアの騎士隊長お許可が必要となる。
理由はもちろん、じぇたな騎士を派遣して無駄死にさせることをふせぐため。
ただでさえ、現在どんな状況なのか不明な以上、生存確率は少しでも高い方がいい。
それもあって、異名持ちの騎士が優先されて派遣の対象になる。
そして、隊長の許可が下りて初めて中央に派遣されることができる。
逆に言えば、隊長の許可さえ下りれば、階級関係なく中央に行くことができる。
勿論、相当な実力がなければ、異名を持たない騎士に許可が下りることはありえないが。
しかし、とセラータは思った。
もしかしたら、スクデリーア隊長が生きていたら。
もしかしたら、ルーチェほどの実力なら・・・・・・



!





何だ!?


突然、階下から悲鳴が聞こえた。セラータには、それがどうしようもなく嫌な予感に感じた。
もしかして、仲間達は・・・・・・



こうしてはおれん!!


剣の柄に手を置き、ドアへと突進する。
仲間が殺されているかもしれないのに、客人の護衛などやっている場合ではない。
すぐにも駆けつけなければ。
自分だけ生き残るなんて、そんなの騎士としてのプライドが許さない。



かはっ・・・・・・!!


後頭部に強烈な衝撃を感じた。
意識が遠のいていく。
床に倒れる寸前、ルーチェの姿が見えた。
重い本を片手に、こちらを見下ろしている。



なぜ・・・・・・だ・・・・・・


セラータは、そのまま気を失った。



やれやれ、ようやく自由に動ける。


ルーチェ・アルマはゆっくりと息を吐いた。
自分から望んだとはいえ、護衛を受けるというのはあまりいい気分ではなかった。



しかし、スクデリーア・マッサが亡き後の騎士団がこんなに弱小とは


結局騎士達の死因が魔法、しかも雷や電気による魔法だと気づけたのは自分だけだった。
触れただけですぐ分かるというのに、彼らは死んだという結果だけ把握して激昂していた。
なんと単純な思考なのだろう。
「何故」死んだのかということに注意を払わない。



まぁ、そこにいる彼だけは、なんとなく違和感に気づいてたようですけど


セラータは、耳が良い以上に、勘が良いのだろう。
それは、これからの戦いで非常に役立つものだ。
相手の出方を本有的に一瞬でも察知することができれば、圧倒的に有利になる。
だから、彼は殺させない。
自分の新たな「計画」に必要だから。



しばらくそこで横になっててください





その間に、すべて終わらせてきますから


静かにドアを開け、ルーチェは再び城の中へと躍り出た。
