突然わけのわからないところに連れて来られて、結婚だとかなんだとかワケがわからない。



えっと……、全く意味がわからないんですけど……ココどこですか?
あなたたちは一体、誰なんですか?


突然わけのわからないところに連れて来られて、結婚だとかなんだとかワケがわからない。



ココは稲荷大明神さまの御神殿にございます。
わたくしたちはその使いのもの、そしてあちらにおわします御三方こそ、稲荷大明神さまのお孫さま方にございます





はっ、はぁ?


稲荷大明神? 更に頭が混乱してきてしまった。



さぁ姫様、御三方の中から結婚相手を!!





えっ? えっと?
本当にわからないんですけど、まさかと思いますが稲荷大明神って……
神様の……ですか?


その場にいた狐面が皆一斉に笑いはじめた。



ヤダ、恥ずかしいな


私がアホみたいな質問したから……。
そんな事あるわけないじゃない!!



そ、そうですよね、神様なんて
本当にいるワケ……





神様に決まっているじゃないですか!!





えっ……


一瞬にして、その場に妙な空気が流れる。



えっ!?
えぇ───────!!


冗談?
でも、そんな雰囲気じゃない。



神様の稲荷大明神ですよ


重々しい口調で、狐面が言った。
確かに、突然箱の中に吸い込まれて気が付いたらココにいた。
こんなの神様じゃなきゃ出来ない所業だ。



でも……


私はまだこの状況が信じられなくてその場で立ち上がり、頬を何度もつねってみた。



痛いっ! うそ!? もう一回!


何度もつねってみるが、痛みはこれが現実だという事を思い知らせるだけだった。



ナニ?
おまえそういう変な趣味があんの?


中央で偉そうに座るホスト風の男の人が、私に向かって言って来た。



違います。
アレは人間がこの状況が現実なのか夢なのか、判断する基準として行う行動の一つです


眼鏡の男の人は落ち着いた感じでそれを制する。



…………眠い


ダルそうな男の人はあくびを一つして、終始気怠そうだ。
しかし、こうして落ち着いてみると三人とも私が今まで会って来た、見て来た男の人の中でお目にかかった事が無い、ありえないほどの美形揃い!!
私は気恥ずかしくなり頬をつねる行為を止めて、その場に正座し直した。



も、もし本当に神様だとして、なんで私が神様のお孫さんと……その、結婚しないといけないんですか?


これが本当に夢でないのだとしたら、私の一番の疑問はそこだ。



姫様はご幼少のみぎり
お約束をされております





約束……?





はい。これこの通り、証文もございますゆえ……


狐面が私の眼前に一枚の紙をつきつける。
とても汚い字で書かれたそれには、確かに私の名前があった。



…………確かに、私の名前ですけど……
こんなもの──


そう言い掛けて、何かが頭の中で突然フラッシュバックした。



そういえば……


アレは確か、小学校1年生の頃……。
初めての運動会。
私はかけっこが苦手で男の子にバカにされ、運動会が憂鬱だった。



運動会なんてなくなっちゃえばいいのに……


その時も私はアノ神社で一人、そんな事を思って石段に座りぼーっとしていた。



そうだ、神様にお願いしてみよ!


私は、手を合わせて心の中で祈った。



運動会がなくなりますように!


そう、必死にお願いしていると──



ほうほう、その願い叶えてやろうか?


どこからともなく声が聞こえて来た。
声の方に振り向くと、私のすぐ後ろには男の人が立っていた。
知らない人だ。
凄く綺麗な人……。
思わず見惚れてしまう。
でも、ナゼかその人の頭には狐みたいな耳が生え、白い尻尾みたいなものまで見えた。



運動会を無くせばいいんだろ?





わ、私、声出してたっけ……?





はっはっはっ!
その願い叶えてやろうか?





えっ? ほんとに?





ああ。いいとも! おやすいご用だ!
……その代わり……


男の人は私の頭を優しく撫でて微笑んだ。



お嫁さんになってくれるかい?





お嫁さん? 誰の?
お兄さんの?





うんにゃ! 私には三人の孫がいてね
そのうち一人のお嫁さんになって欲しいんだよ


孫と聞いて私は思った。
こんな若いお兄さんに孫? 冗談を言ってるのかな?
綺麗だけどやっぱり変わったお兄さんだ。



私たちはね数百年に一度、人間の女を嫁にもらうんだ。
人間たちにはそれを神隠し、なんて呼ばれているが……





……ふ~ん、よくわかんないけど
本当に運動会を無くせるの?





ああ、もちろんだよ!
その代わり……


幼い私には遠い結婚より、明日の運動会のが大問題だ。
なくしてくれるというのなら、ワラにも神様にも!
変なお兄さんにも縋りつきたい!!



いいよ! お嫁さんになる!





よしよし、じゃあ、この紙にそう書いておくれ『お嫁さんになる』って……
それとお嬢ちゃんの名前もね





うん! いいよ!


その場の軽いノリだけで適当に返事した。
お兄さんがどこからか出して来た紙に筆で言われた通りに書くと、何故か紙はすーっと、空気に吸い込まれるみたく消えてしまった。



約束だからね……お嫁さんにもらいに行くからね


そして、本当に運動会は中止になった。
ううん、それだけじゃない、翌年もその翌年も、運動会の日になると必ず、延期となろうがなんだろうが、それはもう年に一度あるか無いかの悪天候に見舞われてことごとく中止になっていた。
なので、私は今まで一度も運動会の経験が無い。



約束……してましたね……


バカ! 子供の頃の私!
そんな無闇に知らない人と、ううん、知らない神様と約束なんかして!



思い出して頂けたようで何よりです。
それでは、どなたと結婚を?





ちょっ、ちょっと待って下さい!
いくらなんでも初対面の相手といきなり結婚なんて……





おいっ!


私が狐面にそう抗議していると、ホスト風の男の人がその間にいきなり割って入って来た。
確か~……一之臣(イチノシン)……さん。



初めてじゃねーだろ?
何度も会った事があるっていうのに……





えっ?


そう言われて、よくよく自分の記憶を遡るが
私には全く心当たりがない。



久しぶりだな、里沙





あっ、あの~……
ど、どこかでお会いした事ありましたっけ?





はぁ~っ?
オマエ、このオレを忘れたのかよ!?
オマエが小学校4年の時クラスでこっくりさんが流行って、しょっちゅう出て来てやってただろ~が!





…………





アホですか兄さんは?
こっくりさんなんて顔も見えなきゃ、声すら聞こえませんよ


私と一之臣さんの横にはいつの間にか眼鏡の男性が立っていた。
えっと~、確かこの人は二之継(ニノツグ)さん。



あ、アホとはなんだ!?
例え顔がわからなくったって、わかんだよその……ふっ、雰囲気的なもので!





いえ、スイマセンが全くわかりません





ほら……





なっ…………!?





ねぇ、オレ帰って寝たいんだけど……


とても面倒くさそうに三之丈(サンノジョウ)さんが歩み寄って来た。



ともかく私、結婚なんてそんな……





そうですよね、確かに突然過ぎますね





う~ん、まぁ、それもそうか……





とりあえず、一回寝て起きてから考えたら……?


良かった。
三人とも話せばわかってくれそう。



じゃあ、じゃんけんで決めるか?





はっ!? えぇ~っ!!





じゃんけんは……ちょっと……


よ、良かった、二之継さんはワリとまともだ。



兄さんは昔からじゃんけんとなると後出しをされますので、公平な判断が出来なくなります。
ここは公平にくじ引きに致しましょう!


うん。まともじゃなかった!



…………面倒くさいから、オレで良いんじゃない?


この人はどさくさに紛れて何言ってるの?
ココにはまともな人はいないの?



それでは、わたくしに良い考えがございます!


一人の狐面が手を上げ立ち上がった。
