彼氏いない歴16年。
そんなの普通のことだと思っていた。
だけど、そんな私の輸入菓子よりも甘い考えは、脆くも木っ端微塵に本日崩れ去ったのだった。
彼氏いない歴16年。
そんなの普通のことだと思っていた。
だけど、そんな私の輸入菓子よりも甘い考えは、脆くも木っ端微塵に本日崩れ去ったのだった。
それは放課後の事──
今日は、期末テストの最終日。
やっとその呪縛から解放された事から、私はクラスメイトをカラオケに誘った。



メグミ~、今日帰りにカラオケ行こうよ





えっ!? あ~っ……うん~……ゴメン~





あっ! なんか用事?





今日は彼氏と約束が~……





そっかそっか!
あっ、ともちん今日カラオケに……





ごめん! アタシも今日、彼の誕生日なの……





あっ……あ~っ……そっか!
うん! じゃあしょうがないね~……





…………





まこちゃん、もう仕方ない!
ウチらは二人寂しくカラオケ行こうか





あのね、里沙……実は……


小学校・中学校・高校、幼なじみのまこちゃんに、とうとう初カレが出来たのだ。
私は一人カラオケに行き、声が枯れるまで熱唱した。
彼氏いない歴16年、そんなの当たり前の事だと思っていたのに……。



……………





神頼みでもしていこうかな……


赤い鳥居をくぐると、石で出来た狐が二匹本殿の前に鎮座している。
古い稲荷神社。
幼い頃、よくまこちゃんと遊んだ小さな神社、社に入ると懐かしい気分となんだか切ない気持ちが込み上げて来る。
ピカピカの5円玉を年期の入った賽銭箱に放り投げ、私は祈った。



どうか、私にも彼氏が出来ますように……
あっ! あと期末テストの数学が赤点じゃありませんように……





すっかり遅くなっちゃったな~……


とぼとぼと、神社をあとにした私が
家に向かって歩いていると──



………………


変な人がいた!
どうしよう……変質者? 遠回りするべき?
狐のお面を被ったその男は、電柱の影に立っている。
よし! 走って通り過ぎよう!
私はダッシュで狐面の男の前を通り過ぎた。



追いかけては来ないみたい……


おそるおそる振り返り、確認してみたが男は追いかけては来ていなかった。



良かった……


しかし、ほっと胸を撫でおろしたのもつかの間、信じられない光景が私の目の前にあったのだ!
目の前の電柱、その影に──
狐面の男がいた!!



…………





えっ? どうして!?
なんで? 今、通り過ぎて……


あまりの事に立ちすくんでいると
電柱の影から狐面の男はゆらりと姿を現し、私の目の前にたちはだかった。



やっ、やっぱり変態だ!!


私は来た道を戻ろうと踵を返した。
ところが、そこでまた私は愕然としてしまう。



なんで……ヤダ……


私の目の前にはまた、狐面の男。



…………


再び前方を向けば、だんだんとコチラに近づいて来ている狐面の男。



…………


はさまれてしまった!!



ヤダ! ヤダ! やだ!!
どうしようっ!?


思ってもいなかった事態に私の頭はもう真っ白になって、前、後ろ両方から迫り来る狐面たちにどうする事も出来ずにいた。
もうあとは、ただ目をギュと瞑って来るべき時に備える他は無い。
私は持っていた鞄を抱きしめて、その時を待った。



姫さま!!





…………えっ?


ゆっくり目を開けてみると、狐面は二人ともその場に片膝をついてしゃがみこんでいた。
なんだか予想を軽く飛び越えた展開に、私があたふたとしていると────



お迎えにあがりました、姫様!





さぁ、わたくし達とともに稲荷殿へ参りましょうぞ!!





えっ? はっ!?


私は片膝をついたままの狐面を交互に見た。



姫様!





さぁ、姫様!!


混乱する頭の中でこの状況を私は理解しようとするが、答えは出ない。



あっ、あの~……何かの間違いじゃ?
私その普通の高校生で
その、姫様とかじゃ……





姫様っ!





姫様っっ!!


人の話を聞いてないのだろうか?



あっ、あの~……
ともかく人間違いだと思いますので……


そう言いながら、二人の狐面の間から私がそっと逃亡しようとすると──



姫様っ!





姫様!!





姫様っ!





姫様っ!!





姫様──────!!


あっちからもこっちからも、狐面の男が現れて、私はっという間に取り囲まれてしまった。
囲まれてしまった!!!!



えっ! えぇ~っ!?





姫様!





参りましょう!!





あっ、あの……


混乱している私の目の前に、一人の狐面が小さな箱を差し出して来た。



綺麗……


寄せ木細工というのだろうか、その箱はこんな状況なのに思わず見入ってしまうほどに綺麗な箱だ。
もっとよく見よう、そう思った瞬間──
某掃除機メーカーの掃除機のCM以上の吸引力で、私は箱の中へと吸い込まれそうになる。



えっ!? ちょっと……!!
や──


私は悲鳴を上げる前に、箱の中に吸い込まれてしまった……。



んっ……?


気がつくと、知らない場所だった。
背中に当たる畳の感触と、この状態から見える天井と襖から畳和室だということだけはわかる。
それにしても、もの凄く変な夢を見てしまった……。



ココ……ドコ?


起き上がり、辺りを見回そうとして私は凍り付いた。
狐面が……



…………


狐面がずら~っと、広い和室の両脇に正座をして並んでいたからだ。



…………





…………





…………





こういうの……なんか見たことある……


昔、テレビでみた時代劇のドラマ。
確か、大奥とかって……。
広い和室の一番向こうには、一段上がった場所がある。よくお殿様が座っている場所。
正式名称は私は知らないが、今そこには誰もいない。
大勢の人がいるはずなのに、しんと静まり返っていた。



あっ、あの~……


私は、このなんとも不思議な状況に圧倒されつつも、勝手にこんな場所に連れて来られたといういらだちもあってか、すぐ側にいた狐面に声をかけようとした。
けれど、私の声は突然鳴り出した太鼓の音にかき消されてしまう。
太鼓の音はしばらく鳴り続け、やがて二人の狐面が奥の方に見える襖を両脇から開いた。
すると、一人の男性が開いた襖から現れた。



御長男・一之臣(イチノシン)さま~…





…………


ちょっとチャラついた感じの男性は、どかっと殿様席に座った。



御次男・二之継(ニノツグ)さま~……





…………


また、男性が現れた。
今度はさっきの人とはちょっと雰囲気が違う。
スっとさっきの男の人の隣に座った。



御三男・三之丈(サンノジョウ)さま~……





…………


今度の人は、カナリ面倒くさそうな感じでやれやれと一番最初に座った人を中央にして奥へ座る。



…………





…………





…………


三人の男性は揃って、ナゼかみんな私の方を見ていた。



…………?


そして……
一人の狐面が突然立ち上がり、私の方に向かってとんでもない事を口走った。



では姫様、どうぞこの三人の方から結婚相手をお選び下さい





へっ!?
えっ!? ど、どういう事!?


