非常用エレベータを使い、コンソールが設置されている階へと辿り着いたリアは、目的のメインコンソールルームへと無事に辿り着いてから既に結構な時間を費やしていた。
非常用エレベータを使い、コンソールが設置されている階へと辿り着いたリアは、目的のメインコンソールルームへと無事に辿り着いてから既に結構な時間を費やしていた。



いつでも起爆コードは入力出来るようにしてある、でもタワー内の監視カメラはメインエレベータまでの回線経路がズタズタで、私にはこれ以上……。





これじゃ肝心の輝明の動向が掴めない……。
ここに辿り着いてからもうかなりの時間が経ったように感じるけど……輝明、どうしたんだろう?


人間は時計の無い状態で緊張状態に陥ると、その時間感覚が本来の何倍にも遅く感じられるという。
実際には30分そこらといった時間の流れでさえ、彼女には数時間も経過しているように感じられただろう。
冷静になれば、コンソール画面から時計を呼び出す事も出来た筈ではあるが、今の彼女の心理状態はそれどころではなかったのだ。



本当にあいつを何とか出来たのかな……?





仮にあいつを何とかしたとしても、他にも化物が襲って来ているかもしれない……。





それとも、瀕死の重傷を負って、満身創痍で身動きの取れない状況のまま……。





ううん、それでも輝明を信じるって私は約束したもの。





でも、もしこれ以上待っても前回のように輝明が辿り着かなかったら……。





その時は、また最初から……やり直すしかない…の……、かな……?


それは彼女にとっては最大の苦悩だった。
それは彼女にとって何よりも苦渋の決断であり、何よりも苦痛であり、そして、何よりも甘美な決断であった。



そうすれば、また……。
また輝明と、一緒に……。





あ、あれ?私……、何を考えて?





……。





……。





起爆…コー…ド、
……認……証。





起爆コード 認証。
認証コード ヲ 入力 シテクダサイ。





認証コード……。
バ……。





認証コード、
リア!!
リアだ!!





輝明!!





認証コード カクニン。
脱出艇 ノ 起動 ヲ カクニン。
爆破カウンドダウン変更 一分 ヨリ 五分 ニ シュウセイシマシタ。





!?





搭乗者 ハ 速ヤカニ E-08 ゲート ニテ 搭乗 シテクダサイ。





はぁ、何とか間に合ったみたいだな。





輝明……、あの、これは?
私……その、ごめんなさ……。





いや、いいんだ……。
こっちこそ遅くなっちまってすまん。





いえ、その……ごめんなさい……。





でも、無事で本当に良かった。





だけど、これは一体……?





【日記】だよ……。
いや、あれは【遺言】だったのかも知れない。
お前の、親父さんのな。





えっ?





もう何度目の記憶だったのかすら思い出せないが、俺は確かにあの最初の研究所で読んだんだよ。
お前の、親父さんの日記をな。





父の……?





ああ、どうやって見つけたのかは割合するがそこにはさ……、家族を、娘のお前を気遣う一人の父親の想いが綴られていたよ。





……。





せめて、お前だけでも助けてやりたい。
バディになる奴に、
どうか娘を救ってくれ、ってな。





お父さん……。





だから俺も必死に考えたんだよ。
何か脱出する方法があるんじゃないか、ここまで娘の事を想ってる親父さんが、何にも用意してない筈がないってな。





……。





ま、最後は殆ど一か八かの勘だったけどな。





ふ、ふふっ……。





なっ、なんだよ?





いえ、ただ、輝明らしいなって。





ははっ。





ともあれ、これで結果オーライだろ?
急いで脱出艇に乗り込むぞ!!





はい!!





ふーっ、間に合ったな。
もう走るのには飽きたよ、おじさんは。





ふふっ、ですね。





ハッチ閉鎖!!これよりタワー及びこの惑星から、急速離脱します!!
出力最大!!反動制御オン!!





出力最大 エネルギー充填率100%
反動制御プログラム オン。
発射シークエンス 短縮 5.4.……





輝明、念の為どこかに捕まっていてください!!
発進します!!





お、おう!!





2.1…発進します。
全速前進。


最新式なだけあってか、コンソールルームで聞いたアナウンスよりも流暢なコンピュータの声が館内に響き渡り、特にこれといった障害も無く景色は一面の星空へと移り変わっていく。
どうやら脱出艇の発進は問題なく済んだようだ。



おお、これで脱出完了か?





いいえ、まだです!!
耐熱・耐ショック制御起動!!大気圏突破後に後方映像の投影、及び館内のバディ以外の生体反応チェックをお願いします!!





!?そうか!!





対ショック制御プログラム オン
まもなく、大気圏突破シークエンスに入ります。
3.2.1.突入します。





おおっ!?


先程の発進時とは違い、大気圏突入時の衝撃はとても重々しく搭乗者達を襲った。
しかし、対ショック制御プログラムとやらがきちんと仕事をしたのか、それはすぐに収まった。



マジでビックリした……。
一瞬、船がバラバラに壊れるんじゃないかと、ヒヤヒヤしたよ。





勿論、その可能性も十分ありましたけどね。





ははっ。





大気圏突破完了。
後方映像、出力します。





そろそろですよ。
……間に合うと、いいんですが。





だな……。





爆破予測時間まで、あと―
5.4.3.2.1.0。





耐熱・耐ショック制御出力最大!!
きます!!!!!





耐熱・耐ショック制御出力最……。
総員、耐……ック姿……ガガガッ……





おぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!





くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!


大気圏突破時よりも更に強い衝撃に、船体は大きく軋み、長い揺れを伴った状態が続いた。
リアと輝明は必死に船体の取っ掛かりにしがみつき、その長い揺れの中をただ只管祈るようにじっと堪えた。
祈りが通じたのか、次第に船体の揺れは収まり、辺りが静まり返るように船内はその静けさを取り戻した。
まだ放心状態の二人は、互いの顔を見返しながら何とか口を開こうとパクつくが、中々声が出てきてはくれなかった。



終わった、……のか?





みたい、ですね……。





俺達、……生きてる、よな?





その、ようです……。





惑星の消滅を確認。
船内に他の生体反応無し。
ミッション終了確認。
バディ・システムの一部を凍結。
これより、自動航行に移行します。





は、ははっ。





ふふっ……。





ははは、やったな、
リア!!





はい!!





俺達は今度こそやり遂げたぞ!!
そして二人共生き残ったんだ!!





はい!!


二人はどちらともなく駆け寄り、その互いの存在を、その喜びを分かち合うように強く強く抱きしめ合った。



良くやったな、リア。





いえ、私は何もしてません。
全て……、輝明のお陰です。





そんな事……、っとすまん。
調子に乗りすぎた。


咄嗟に距離を取ろうと腕を離した輝明を、リアは輝明の背中に回した腕でそっと引き寄せた。



今は……、もう少しこのままで、お願いします。





お、おう。





ずっと、ずっと輝明が見ず知らずの私何かを救う為にずっと頑張ってくれたから……。
ずっと一緒に居てくれたから、今この瞬間があるんです。





リア……。





本当に、本当に感謝し切れないくらい、感謝しています。
ありがとう、輝明。





リア、こちらこそありがとうだ。





?





俺も随分とお前に勇気付けられて、色々教えて貰った気がするよ。
本当に、サンキューな。





そう、ですか?





ああ、そうさ。
……さて、最後に俺との約束、覚えてるか?





!!





答えは、出たのか?





……はい。
私……、私は……。





ああ、聴かせてくれ。





私は、
生きたいです!!





生きて、もう一度、
輝明と会いたい!!





そう、か……。良い答えだ。





この先行く宛も無いんだろ?
だったら、もうひと頑張りして、さっさと地球に来い!!





そしたら俺がお前に、地球の美味しい物いくらでもたらふく食わせてやっからさ!!





!!





はい!!





っと、……どうやら時間切れみたいだな。





!?





そろそろお別れの時間だ。





!?


輝明の指先から零れ落ちる光の粒は、次第に指先から手のひらへと徐々に上りながらその体を消失させていっていた。



なぁに、別に今度は死ぬわけじゃないんだ。
それに、さっき言ったろ?また会おうってさ。





でも……。





最後ぐらい、笑顔で送り出してくれよ。
泣いてばかりじゃ美人が台無しだぞ?





輝明……。





そうですね……。





私、絶対会いに行きます!!





だから、待っていて下さいね?





ああ、約束だ!!


輝明の指先から零れ落ちていた光は、やがて全身へと広がり、まるで天に登るかのように体ごと空へと吸い込まれていく。



じゃあ、元気でな。待ってるからな。





はい、輝明もお元気で。


触れていた指先の感触が無くなり、手のひらに光の粒が微かに、優しく包み込むように広がっていった。
「 ありがとう またいつか 」
