メインエレベータが存在する中央エリアを横切るようにして現れた巨大なそれは、多くの生物をごちゃ混ぜにしたかのような出で立ちで、まるで悪夢を具現化したかのような歪で禍々しい雰囲気を纏ってそれは現れた。



何かが来るぞ!!


メインエレベータが存在する中央エリアを横切るようにして現れた巨大なそれは、多くの生物をごちゃ混ぜにしたかのような出で立ちで、まるで悪夢を具現化したかのような歪で禍々しい雰囲気を纏ってそれは現れた。



こいつはまた……、えらく凄いのが出てきやがったなぁ。
差し詰めラストダンジョンで待ち構えるラスボス様のご登場といった所か……。


二人は咄嗟に物陰へと隠れて、巨大な異型の様子を伺いながら続けた。



ここの……、主です。
最初に辿り着いた時も、こいつに行く手を阻まれたんです。





成る程、こいつは強敵然として分かりやすいな。
何にせよ、これが初見じゃないんだったらこれ幸いだ。





リア、前回のこいつの対処法はどんな感じだ?





……前回は、その……。





ん?どうした?前回コンソールルームまで無事辿り着いたって事は、こいつも突破出来たんだろう?





いえ、それが……。





勿体振らないで教えてくれ、まだ気付かれてないが、何の情報も無しにこのまま奴に気付かれでもしたら不味いぞ。





その……突破、出来なかったんです。





えっ?





突破、出来なかったんですよ!!





えっ!ちょ、ちょっと待ってくれ。
落ち着いて説明してくれ、それは一体どういう事なんだ?





確かに、前回私達はこの星の爆破には成功しました。
でも、コンソールルームに辿り着けたのは……。





私、だけなんです。





え?





あの時私は、輝明に言われてもう一つの昇降手段である非常用エレベータへと向かい、事無きを得たんです。
ですが、その時は既にアレに気付かれた後で……。





私は輝明を置いて……、一人コンソールルームへと……向かったんです。





そういう事か……。





悪い、嫌な事を思い出させちまって。





……いえ、こちらこそすみませんでした。





なぁに、気にするな。
それに今回はまだやっこさんに気付かれてないみたいだしな、いざとなったら自分で何とか思い出してみるさ。





はい。その……、ありがとうございます。





ともかく、エレベーターが使えないんじゃ状況は変わらない訳だし、一先ずその非常用エレベーターってのはまた使えそうなのか?





ええ、中央エリアを通らなくてもあちらの通路から貨物エレベーターへは迎えるはずです。





ですが、その非常用エレベーターは一人乗り用で一機を除いて全て破損していて使えない状態なんです。





成る程、どの道一度に一人の移動が限界って事か。
その間に奴に気付かれでもしたら厄介だな。





よし、とりあえずはその非常用エレベーターを使ってリア、お前が先にコンソールルームへ向かってくれ。





それじゃ、前回と同じじゃないですか!!





いや、勿論俺もすぐに後から登るんだが、もしもの事があればどっちみちあいつの相手をするのは俺の方が好都合だ。





でも……。





大丈夫だ、俺を信じろ。
もしそうなったとしても、今回こそ何とかしてみせるさ。





それと……。
もう1つ考えがあるんだ。





……?





もしコンソールルームに辿り着いても、俺が到着するまで起爆コードの入力は待って欲しい。





それは……?





あ゛れ゛ぇ゛?あ゛れ゛れ゛ぇ゛~?





!?





!!





い゛い゛に゛お゛い゛か゛す゛る゛な゛ぁ゛~?





一体、何の声だ!?





おかしいです。
だって、ここは真っ先に奴らに占拠され、生存者は残って居ないはずです!!


二人はその確かに聴こえる人の言葉がする側を懐疑深く見つめた。
その酷く呻くように響く声のするのは、どう考えてもメインエレベータのある方、中央エリア側から聞こえているからだ。
勿論、そこに見えるのは……。



い゛た゛ぁ゛~!
み゛ぃ゛つ゛け゛た゛ぁ゛~!!


その声の主は明らかに異形の怪物の中心にある人の形を残した部分、ガリガリとした細い体つきのいかにも学者前とした男から発せられていた。



しまった、見つかった!!





どういう……事ですか?
それにこの声は……!!





おい、リア!あいつら喋れたのか!?





そんなはずはありません!!
少なくとも今まであった奴らに知性なんてものは存在していませんでした!!


居場所がバレた事もあり、二人は物陰から飛び出しその声を発する大きな異形の化物と正面から対峙する。



ア゛ァ゛~ア゛ァ゛~!!





あ゛ーあ゛ー!





あーあー!……あー、失敬。





この体に馴染んでからというもの、人と話す機会などなかったものでねぇ。





おい、あんたは一体何者なんだ!?





嘘……、その声はもしかして……。





おや?そちらのお嬢さんはノア博士のご息女さんじゃありませんか。





カニム……教授。





リア、知り合いなのか?





いえ、直接お会いしたのは一度だけですが、彼がその……。





彼が、
【食人派閥提唱者】
であり、その指導者的存在でした。





こいつが……?





彼は父の学友であり、この星における遺伝子工学の第一人者的存在でもありました。





酷いなぁ~、過去形かい?
まぁ無理もないか……、だって今僕は……。





こ の 世 界 の
『 神゛ 様゛ 』
た゛か゛ら゛ね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛
~~~~~~~~~
あ゛ーひ゛ゃ゛ひ゛ゃ゛ひ゛ゃ゛ひ゛ゃ゛ひ゛ゃ゛
ヒ゛ャ゛ハ゛ァ゛~~~~~~~~~~
○☓▽※●〒♯!!





こいつ……!?





もしかして……、彼らが化物になったのは……、世界がこんな事になってしまったのは全てあなたの仕業なの!?





ヒャッヒャッひゃっひゃっひゃっっ……、そうですよぉ~その通りですよぉ~~~~~~~~~!!
彼らが人を喰い散らかす化物になったのも、この素晴らしき世界になったのも、ぜぇんぶ私が作ったんですよぉ!!





そんな……。





何のつもりでそんな事しでかしたのかは分からないが、てめぇがとんだゲス野郎だって事だけは十分理解出来たよ。





何のつもり?何の為かって事かい?
そりゃ勿論。





そりゃあ僕がこの星で一番優れている事を証明するためさぁーーーーーーー!!





そんな……、酷い。
そんな理由の為にこの星の皆は……。





……クソッタレが。





それにねぇ、人って食べるととおっても美味しいんですよぉ~。
この体になる前から僕の大好物でしてねぇ~。
んん~、思い出しただけでヨダレが……。





うう……。





この星にもとんだサイコ野郎が潜んでいたもんだな。





いいかリア、覚えておけ!!
これが人の『悪意』って奴だ!!





……。





『悪意』いいですねぇ。
この星には無い、野蛮で素敵な響きの言葉だ。





ああ、お前のその姿によく似てとても醜いものだよ。





醜い?この私が?
この星の神になった私の美しさが分からないんですか?
だったら教えてあげますよ!!





私の胃袋の中でたっぷりとねぇ!!!!





くそっ、結局こいつを何とかしなきゃ駄目か。
リア、手筈通り先にいけ。





で、でも!!





いいから行け!!





に゛か゛し゛ま゛せ゛ん゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!





きゃあっ!!


その巨体の後方から伸びた触手のようなものが勢い良く伸びたと思った瞬間、それはリアの上半身へと鞭のようにしなりながら疾駆する。
咄嗟の事に驚きつつも、リアは両腕でそれを受け止めようとしたがその衝撃によって大きく後方へと吹き飛ばされた。



リア、大丈夫か!?





っ、このやろっ!!


輝明はポーチから千枚通しを取り出すと、そのまま勢い良く振りかぶり相手へと投げつけた。
旨い事それが人間部分の左肩へと命中し、その巨体を仰け反らせながら、後退りするような仕草をみせる。



き゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!
い゛っ゛、い゛た゛い゛い゛い゛い゛!!





よしっ、どんなに図体がデカくても、弱点が人間部分ってのは変わらないみたいだな。





これならアレを使えば何とか出来るかもしれない……。





う……。


後方では壁にもたれ掛かりながらも立ち上がろうとするリアの姿が見受けられた。
どうやら無事のようだ。



大丈夫か、リア!?





はっ、はい!なんとか!!





よし、なら……行ってくれ。





……。





それと、後で必ず……さっきの質問の答え、教えてくれよな。





いいか、リア。
戦え!!!!!





!?





戦うっていうのはな、何も相手を傷つけろって事じゃない!
奪われようとしている
【大切な何か】を、『守れ』って事だ。





いま自分自身がそこに存在する意味を、自分が座っているその席だけは、絶対に他の誰かに奪わせちゃ駄目だ。





!!……はい!!





よし、ならもう行け。
そろそろあいつが正気に戻りつつある。





輝明っ!!その……。





絶対に、死なないでくださいね!!





おう、任せとけ!!


もたれ掛かっていた壁から手を離し、リアは勢い良く非常用エレベーターへと繋がる通路へと駈け出していった。
まだ痛みによる混乱から覚めていないカニムからの追撃も無く、無事に通路の先へと姿を消していく。



く゛か゛き゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!
い゛た゛い゛!?
な゛ん゛て゛!?
か゛み゛な゛の゛に゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!





さぁて、ここからは大人同士の責任だ。
あんたの主義と俺達の主義、思う存分戦おうぜ!!


非常用エレベーターへと向かう通路で、リアは一人輝明に投げかけられた質問の答えを必死に探していた。



……。





お前は、お前自身は本当はどうしたいんだ?





私は……。





……。





うん、そう……私は。





兎に角、今は先を急がなくちゃ。





でも、さっき輝明が行ってた起動コードの入力を待ってくれっていうのは、一体……。





ううん、輝明に何か考えがあるんだったらそれを信じなきゃ。
その為にもまずはコンソールルームを確保しないと!!





おらっ!!


相手の予備動作が緩慢なのが幸いし、打ち出してくる触手を横移動や身近な障害物を利用して躱しつつ、先程のように千枚通しを投げつけてはいるが、今度は異形の腕で弱点部分である肉体をカバーしている為中々命中せずに拮抗状態が続いていた。



そ゛ら゛そ゛ら゛と゛う゛し゛た゛?
も゛う゛お゛わ゛り゛て゛す゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛?





調子に乗りやがって、中年男性の体力舐めんなよ?もう殆ど限界に近いぞ。


息を休めている間にも、隠れている壁の一部が徐々にひしゃげていく音や、背中越しに伝わる衝撃が焦燥感を煽っていく。
そうでなくてもひしゃげた壁は段々と小さくなっていき、輝明が隠れられる面積が確実に減って行くという物理的な問題も発生している。



このまま続けてもジリ貧は免れないか……。
ここは一か八かで接近を試みるしか無いな。





ほ゛ら゛ほ゛ら゛、あ゛と゛ち゛ょ゛っ゛と゛で゛す゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!





ほっ!!


ポーチから取り出したレンチを反対側の壁に投げつける事で反射させ、相手の巨体のどこかしらへと当たるように跳弾の角度を調節しつつ放り投げた。
相手の図体のデカさを考えれば、どこかしらに当たるであろうという検討を兼ねてである。



ん゛ん゛ぅ゛……?


目論見通り相手の下半身の一部へとぶつかったレンチに気を取られ、カニムの意識が輝明から一時的にレンチの当たった場所へと移動したその瞬間。



今しかない!!


輝明は隠れていた場所から一気に飛び出し、全速力でカニムへと突進、手前に設置されてあった手すりを踏み台に、更に相手の巨躯を足がかりにその本体へと肉薄する。
その手には鋭く光るシャベルが握られていた。



喰らいやがれ!!


輝明はそのシャベルを上段に大きく振りかぶり、カニムの本体へと突き刺すべく渾身の力を込めて振り下ろした。



ぐああっ!?


輝明の振り下ろしたシャベルが本体に突き刺さったと思われたその瞬間、巨体とはいえ体に登られた事を感知したのか、その巨体をこちらへと振り向かせると同時に、先程まで守りを固めていた異形の豪腕で振り払われたのだ。
空中へと大きく吹き飛ばされた輝明は、先程のリア同様にその体を壁へと強く打ち付けられた。



くそっ、一体何が起きた!?


輝明の受けた攻撃はリアのそれとは違い、その衝撃ですぐには立ち上がれない程のダメージを受けていた。
身動きの取れないまま、仕方なく目線だけを眼前の敵へと戻す。
すると、先程の強襲が成功したのか、眼鏡を飛ばされた事もあり目を凝らして凝視する限りショベルが相手の巨体へと見事に突き刺さっている事だけは確認できた。



やったか!?





ん゛っ゛ふ゛。
ん゛っ゛ふ゛っ゛ふ゛っ゛ふ゛っ゛ふ゛!!





!!





さ゛ん゛ね゛ん゛て゛し゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ひ゛ゃ゛ひ゛ゃ゛ひ゛ゃ゛ひ゛ゃ゛ひ゛ゃ゛!!


突き刺さったシャベルは、どうやらその本体手前ギリギリに突き刺さっているらしく、勝ち誇ったようなカニムの気味悪い高笑いが辺りに響いた。



……。





ふぅ、何とか成ったな。





あ゛ん゛?





今お前に突き刺した奴、よく見てみろよ。





え゛?


カニムが輝明からシャベルへと視線を落とすと、そこには先程突き立てられたシャベルと、幾つも赤黒い塊のようなものがショベルに括りつけられていた。
よく見るとそれは赤熱したバッテリーパックのようだ。



なまじ理性があったのが災いしたな!!
デカブツ!!





あ゛?


カニム教授は事態の飲み込めぬまま、その眼前で光るバッテリーパックを見つめながら突如として起こった爆発へとその本体を飲み込まれていった。



くっ!!


輝明はその爆風に煽られながらも、壁まで吹き飛ばされていた事が幸いし、爆発に巻き込まれる事無くその行く末を見守った。
その巨躯は殆どが無傷に近い状態ではあったが、弱点である本体の人間部分だけがスッポリと消失した部分からは焼け焦げた表皮から黒煙だけが立ち上っている。
次第にその巨体は一斉にぐずぐずと溶け出し、地面へとアメーバのように広がっていった。



……ホラー映画と違って、実際はあっけないもんだな。





何より、大量に失敬したバッテリーを、ちょこっと弄っただけの急造爆弾だったからな。
ちゃんと機能してくれて、本当に良かった。





っとライターは……、どっか行っちまったか。





これを期に禁煙でもしようかねぇ。





さて、後は急いでリアの元へと合流しないとな。





しかし、まだ終わっちゃいないとはいえホンットーに、疲れたなぁ。
……タバコのせいもあるが、歳を……感じる……な……。


