いちいち隣の少女――実里に同意を求めるみせりという少女に、恵司は少しうんざりしていた。実里も実里で彼女から何かを話すことはおろか、目線こそこちらにあるが一言も口を開かない。この二人と話していて分かるのは、みせりが何も知らないらしいという事実だけだ。



それじゃあ、君達は何も知らないと





そうなんですよー。ねー、実里?


いちいち隣の少女――実里に同意を求めるみせりという少女に、恵司は少しうんざりしていた。実里も実里で彼女から何かを話すことはおろか、目線こそこちらにあるが一言も口を開かない。この二人と話していて分かるのは、みせりが何も知らないらしいという事実だけだ。



ハロー先生、いい人なのにどうしてこんなことに……


目を伏せ、悲しそうな表情をするみせりは嘘を吐いているようには見えないが、恵司が気になるのは実里の方だった。言葉を発しないものの、彼女の瞳には明らかに敵意が見える。自分の先生を疑っている警察を不審がっているのならわかるが、恵司にはどうもそれとは違って見える。なんとなくだが、敵意の種別が違うのだ。
しかし、あくまで推測程度の事で動くわけにもいかない。その上、現状恵司は音耶の警察手帳を使って動いている。下手な行動は恵司ではなく音耶の不始末扱いになってしまうのだ。それは恵司とて本意ではない。



話してくれてありがとう。もし万が一何か思い出したり、何か気付いた事が有ったらここに連絡して


そう言って、恵司は音耶の連絡先を渡す。別に自分の物でも構わないが、やりすぎは禁物だ。本当に何かあった時、自分では責任を取りきれないと恵司は判断した。



わかりました! ……個人的に連絡しちゃったりとかしても、いいですか?





あー、それはちょっと困るな。でも、どうしてもって言うなら、こっちね


と、今度は自分の連絡先を渡す。仕事として話を聞く分には音耶の方が上手いかもしれないが、日常生活から話を引き出すなら恵司の方が明らかに上手だ。



えっへへー、後でさっそくメールしちゃおー





一応俺警察だから、まぁ控えめにね?


と言いつつ、みせりに笑いかけてやる恵司。彼女のようなタイプは意外と重要な何かをぽろりと零すことが有り得る。それを確実だと物語っているのは彼女の友人、実里の睨むような目線だった。



…………





ある意味じゃ解りやすいが……単に友人を取られたジェラシーとかならいいんだけどな





そんじゃあ、ご協力感謝します。邪魔して悪かったな





いえいえー! 刑事さん、頑張って下さいね!


人懐っこく手を振るみせりと此方を睨んだままの実里。どうしてこの二人が友人関係を続けていられるのだろうかとか、そんな余計な事を考えながら恵司はファミレスを後にした。



恵司!





あっ、ヤベ、見つかった





見つかった、じゃない! お前何やってくれてんだ!


今にも胸倉を掴んで殴りかかろうといった勢いの音耶。だが、あくまでここまでは彼らのテンプレートのようなものであり、いつものことであるということも言っておく必要があるだろう。
音耶もある程度恵司には諦めがあり、何と言おうとこれをやめないことなど既に悟っていたからだ。



とりあえず今回はみせりちゃんの方の連絡先ゲットしたから。んで、みせりちゃんの方は多分何も知らない普通の女子高生だけど、実里ちゃんの方は何か知ってる感じだったかな。お前らは実里ちゃんの方張ったほうが良いと思う。俺、みせりちゃんから何か引き出してみるから





……虱潰しのはずが、当たりだったって訳か?





そこまではわからん。ただ、何か隠してる。露骨にな


音耶はやれやれとため息を吐くと、しぶしぶ頷いた。本来ならどう考えてもアウトだが、実際これで助かったことは何度もある。下手に恵司を止めてしまうのも逆に捜査が進展しなくなる恐れがあった。



何かあったら報告しろ。そんで手帳を返せ





あ、はい





……


双子がやりとりをしている少し後ろ、一人の青年が様子を伺っている。片手には携帯電話を持った青年は、誰かにメッセージを送ると、気付かれぬように姿を消した。
