昼間のファミレスでコーヒーを飲む不機嫌そうな少女は喋りつづける傍らの少女をちらと睨むと、再び読書へと意識を集中させた。しかし、そうしたってお喋りな少女は黙ることを知らない。



実里ー、ねぇ、実里ってばぁ!





……うるさい


昼間のファミレスでコーヒーを飲む不機嫌そうな少女は喋りつづける傍らの少女をちらと睨むと、再び読書へと意識を集中させた。しかし、そうしたってお喋りな少女は黙ることを知らない。



ハロー先生、警察連れてかれちゃったんだって! やっぱり警察の人は先生を疑ってるんだよ!





……





でも絶対先生じゃないよね? 何しろ先生はすっごいいい人だし、まぁ少し変なところはあるけど……でもその、いい人じゃん!





…………





ねぇ聞いてるの実里ー?


パフェを頬張りながら何度も話しかけてくるお喋りな少女に、いい加減にしろと言わんばかりに物静かな少女が席から立ち上がろうとした時だった。



君達、ハロルド先生の生徒さんだよね? ちょっとお話聞かせてもらえる?


彼女らの目の前に現れたのは顔立ちの整った優しそうな見た目の青年。手には警察手帳を持っており、あくまでも要請という形の声掛けではあるものの断らせる気はないと大人しい少女は即座に判断した。



駿河、音耶さん?





そう。君達は芹沢みせりちゃんと都村実里ちゃんでよかったかな?


にこりと笑った青年に、お喋りな少女――みせりは笑顔を返しながら美形の刑事の登場にテンションを上げる。対して大人しい少女――実里は面倒事に溜息を吐きつつも、本にしおりを挿んだ。



お前、今日は帰れ。流石に人の、しかも女性の家で何度もはおかしいだろう





そう何度も処理はしてないっつの。そこまで俺が非常識に見える?





見える





失礼だなオイ。……まぁ、最初の一回に関しては俺じゃなくてエロ画像渡すお前が悪いんだからな





アレのどこがエロ画像だ。R18には変わらんが、Gの方だろう





そうか? ……個人的に「食卓のお肉が出来るまで」の方がきついと思うが





比べるものが違うし、普通の人間は知らんだろうが





何だ、お前は知ってるのか





お前がURL送りつけてきたんだろうが……。俺以外にはやるなよ、それ


下らない会話を続ける二人。間違っても二人の会話の内容は詮索してはいけないし、そもそも興味を持ってはいけないと知っている周りの捜査員達は自分の作業を続けている。そんな二人に介入出来るのは、基本的に彼らを良く知る者だけである。そして今も、例に漏れず二人の会話を遮ったのは友人である埴谷だった。



……駿河、ハロルド・グリーティングの生徒達に聞き込みをしてもらえないか? 事件が起こった前後の日に授業があった人間と絞ってしまえば人数はさほど多くない。年齢層は様々だが、お前には高校生の少女達に聞き込みをして欲しい





はい。……でも、いい加減女性相手の聞き込みを私にやらせるの、やめません?





そうは言ってもな……。如何にもといった堅苦しそうな刑事よりお前のようなルックスの良いものの方が都合がいいんだ。別にお前は見た目程軟ではないし、何かあっても対処が出来るという点を考えれば妥当なんだ





…………そういうものなんですかね





おう、そうだぞ音耶。世の中顔が悪くても人生はハードモードにならんが顔が良いやつはイージーモードを選べるんだ。兄と同じ美形になったことを感謝しろよ!





別にお前に感謝する意味は無いし、もっと言えば美形で得したと思った事も無い。ていうかそういう事はラブレターでも何でも貰ってから言え


音耶の言葉に膝から崩れ落ちた恵司をよそに、埴谷は話を続ける。その少女達の居場所である付近のファミレスの場所が記されたメモとハロルドから受け取ったという少女達の写真を受け取った音耶はわかりましたと頷いた。



なぁ、俺にも見せてくれよ


と、横から覗く恵司。音耶は拒んでも無駄だと渡されたものをどちらも恵司に渡してしまうと、埴谷に向き直る。



それにしても、彼女達が何かを知っている可能性はあるんですか?





正直、あまり期待は出来ないな。だが、何もわかっていない以上この予測すらも期待が出来ない。つまり、結局は虱潰しの一環という事だ





そうですね……


ふと、音耶は傍らの恵司に目をやる。いや、性格には彼のいた場所に目をやる、だろう。既にそこに恵司の姿は無く、音耶はしまったと舌打ちする。更に、自身の警察手帳がいつの間にか無くなっていることにも気付いた。



あの野郎……


いつか諸々の犯罪で逮捕したい。そう思いながら、何をしでかすか分からない恵司を捕まえるために音耶は事件現場を飛び出したのだった。
