意外に広い高校の敷地に戸惑いながら、それでも淀みない足取りで第二音楽室へ辿り着く。残暑で熱くなった引き戸を引くと、懐かしい背中がピアノの前で揺れているのが、見えた。
意外に広い高校の敷地に戸惑いながら、それでも淀みない足取りで第二音楽室へ辿り着く。残暑で熱くなった引き戸を引くと、懐かしい背中がピアノの前で揺れているのが、見えた。



やっぱり


その背中に、声を掛ける。



あら、平林君


振り向いた先生の姿は、夕方であることを差し引いても、あの卒業式の前日と寸分違わなかった。
坂口先生が転勤すると聞いたのは、卒業式のすぐ後。それからは、実家に帰省する度に道場で耳を澄ませても、変なピアノの旋律は聞こえて来なかった。そう、今日までは。



戻ってきたのか?





邪魔する為にね


口調も、昔と寸分変わらない。化け物か。勁次郎はこっそりそう、思った。
だが。



でも、もう邪魔する必要は無いみたいね


ピアノから離れ、勁次郎の前に立った先生が、勁次郎を覗き込みながらそう、言う。何故? 思わず小首を傾げた勁次郎の、高校時代より広くなった肩をポンと叩いてから、先生は再び、勁次郎を音楽室に残して立ち去った。
