青。青。青。視界いっぱいの青。時折白や黄色の光がちかちかと瞬く。と思えば黄緑色の光線がすーっと目の前を通り過ぎて行った。
青。青。青。視界いっぱいの青。時折白や黄色の光がちかちかと瞬く。と思えば黄緑色の光線がすーっと目の前を通り過ぎて行った。



上下感覚のない電脳空間って、ずっと見てたら酔う。気がする。





VR体験は初めてですか、茜さん


脳内にお姉さんの声が響き渡る。開発者用の何かで操作しているらしい。



はい、初めてです。うわさには聞いていたんですけど、


目の前にぽんっとメッセージボックスが現れた。というか飛び出した。



『私立ルーンワイヤ学園、ダウンロード完了』


ピンク色の装飾文字で飾られたそのアイコンが、多分問題のゲームソフトだろう。
だけどそのパッケージにいるのは三人の女の子だった。



蒼髪ロングストレートの美人系。





オレンジ色ポニーテールの可愛い系。





そして、茶髪ショートボブのボーイッシュ系。





……どっちかというとギャルゲーのパッケージ?





ていうか、最後のショートボブ、なんか私に似てる…!?





……葉隠さん、これですか?





はい、これが弊社のソフトのアイコンです





こういうゲームって男キャラが前面に出てるイメージだったんですけど





主人公を3人から選べるのが売りなんです


あ、ひょっとしたらお兄もこのパッケージだけ見てギャルゲーと勘違いして応募したのかもしれない。そうだと思っておこうか。
意を決してアイコンに触れる。そう意識すると周囲が少し明るくなり、メッセージも変化した。



『主人公を選んでください』





茜さんは左手の、アカネを選択してください。お兄さんはその子をプレイヤーキャラにしてたんです。つまり、『彼女だけは確実にお兄さんではない』んです


そうですか。ではキャラ選択を、って!



名前がアカネ!? 私と同じだ……





ええ、日本人名だとありますよそういうことも。でもデフォルトネームなので後で名前を変えられますから。





……データを見る限りお兄さんは変更せずにプレイしていたようですが


お兄は一体何を思って妹と同名のキャラを選んだんだ!



はあ……わかりました。じゃあ


アカネに意識を向ける。目の前の茶髪の少女はにっこり笑った。快活そうな女の子だ。



『アカネ。魔法剣術科の1年生』
『彼女でいいですか?』





はい……っと





主人公の名前を設定してください。設定しない場合、デフォルトネーム「アカネ」になります





設定しません。アカネのままで


どうせ本名と変わらないし。



アバタ―をアカネに変更しますか?





え、これどういうことですか?





仮想現実の特性上、イベントでプレイヤー自身の姿を目にすることもあるんです。回想イベントとか。あ、鏡なんかもですね。その時プレイヤー個人で設定したアバタ―を表示するか、このアカネにしておくか。設定できるんです





ぶっちゃけ、どうでもいいな……





デフォルトネームか本名かってことですね。茜さんは個人アバタ―がありませんし、今から作りますか?





面倒なのでアカネでいいです。アカネに変更!


別にゲームがしたいわけじゃない。お兄を探すためにログインしただけだから。
目の前の一点が真っ白に光り出した。やがてそれは収束し、一振りの剣の形をとると今度は逆に段々と暗くなり、西洋剣になった。



アイテム:魔法剣
あなたの最初の持ち物です


とりあえず受け取るとがしゃ、ぷしゅうと汽車が止まった時みたいな音がした。
目の前にいつのまにか汽車が止まっている。



あれ何時の間に





いわゆるスタートボタンですよ


汽車でスタートですか。近寄って扉の取っ手に手をかけてみる。



中に入ったらゲームが始まってしまうので今言いますね。お兄さんが見つかったら、「プレイヤーを見つけた」と唱えてください





はい。分かりました





あともう一つ


お姉さんの声のトーンが落ちる。



できれば、このゲームを楽しんでください。せめてお兄さんが見つかるまでは


そうだよね。楽しむために作ってるゲームだもんね。
さあ、ゲームを始めようか。お兄なら、こんな時なんていうだろう。
所持アイテムが剣だし少年マンガみたいに……



俺たちの戦いはこれからだあああああ!!!!!





って言うんじゃないかなって思ったよ!





プレイヤー見つけました。この剣です。
今のこいつがしゃべりました





えっ……解析開始……大当たり……


それっきりお姉さんは黙り込んだ。当たり前だろう。



おお喋れる!
ちゃんと自由に喋れるようになった!
ありがとう茜! お兄ちゃん感激!





……あれ?
なんでお前そんなに不機嫌なの?





ここまでくるのにいろいろ設定しておいてゲーム始まる前に捜索対象見つけちゃったからだよ!





すいませーん、もう帰ってもいいですかー





でも、それにしたって……。確かにゲーム開始のメッセージが出現するタイミングでした。確かにこの魔法剣は各種設定を担っている重要なモノでした。確かに、確かに……けどまさかこれに入ってるなんて……!


驚愕しているお姉さんには私の言葉は届かないようだ。



やー助かった助かった。一生剣のまま事務メッセージをこっそり改変する簡単なお仕事を続けにゃならんのかと思ったわー


そのままゲームに永久就職しなくてよかったよ、お兄。
でも、元気そうなお兄の声を聞いて(見た目剣だけど)、皮肉は口に出さないことにした。



元気そうで、まあ良かった……



お兄(剣)www