~前回までのあらすじ~
”無気力”を失いながらも、
なんとか本体を動かしていた3つの感情だったが、
ついに全員が”謎の感情”に取り込まれてしまう。
謎の感情の正体は”無意識”だったのだ。
本体が死を願ったため、他の感情たちを取り込んで
”無執着”になろうとしていたのだった。
あとは、本体が死に向かうのを待つのみであった…
~前回までのあらすじ~
”無気力”を失いながらも、
なんとか本体を動かしていた3つの感情だったが、
ついに全員が”謎の感情”に取り込まれてしまう。
謎の感情の正体は”無意識”だったのだ。
本体が死を願ったため、他の感情たちを取り込んで
”無執着”になろうとしていたのだった。
あとは、本体が死に向かうのを待つのみであった…



…





…ん?





気がついたわね。





…ここは…どこだ?





無意識の中よ。忘れたの?





…え?俺は無意識に取り込まれたのに…まだ消滅してないのか?それに俺がまだ生きてるってことは、本体もまだ死んでないって事だよな。





俺が取り込まれてから、そんなに時間は経ってないのか?





時間?ええ、あんまり経ってないわね。





そうか…意外と消滅するのに時間がかかるもんなんだな。なら無感動もどこかに居るのだろうな…。





よし、俺はまだ消滅していないし、本体もまだ生きている、これはチャンスだ!早くここを抜けだして、本体が死ぬのを止めなければ…!





えっ本体ってもうすぐ死ぬの!?
なんで!?





もうすぐ自殺するはずだ!早くここから抜けだして止めないと!君がどんな存在なのか知らないが、手伝ってくれないか!?





えっ自殺!?あの本体が?
そんなはずないわよ!





…あ、申し遅れたわね。
アタシは「イカリ」、名前の通り「怒り」の感情を担当してるわ、よろしくね。





イカリ?
お前は消滅したんじゃなかったのか!?





へ?なんでアタシが消滅するの?





へ!?だ、だって、お前らが消滅したから俺たちが生まれたんじゃなかったのか!?





?????
なんでアタシたちが消滅したらアナタたちが生まれるっていう話になるの!?ていうかアタシたちは無意識さんの中にいただけで、別に誰も消滅してないわよ?





へええ!?
だ、だって、本体が何も考えられなくなって無意識が大きくなってまずお前たちを取り込んで消滅させたんじゃなかったのか!?で、次に俺たちを生み出したけど死にたがったからだんだん俺たちも取り込みはじめて最後に俺と無感動を取り込んだことによって無意識がえーと無執着になってあとは本体が自らの命を断つのみだという状況のはずで少なくとも俺はそのように…





ちょっと何言ってんのか分かんない。





…何やら壮大な勘違いをしているみたいね。ひとつひとつ、誤解を解いていきましょう。





まず、さっきも言ったとおり、アタシたちは誰も消滅なんかしてないわよ。無意識さんの中にいただけ。ほら。





ワタクシは「ヨロコビ」





ワタシは「カナシミ」





オレは「ムカムカ」





ボクは「ビビリ」





…ね?





それと、無気力・無関心・無感動くんたちもいるわよ。ほら、あっちを見て。





…





…





…





無気力と無関心も生きてたのかよ。





…じゃ、じゃあさ、なんでお前らは無意識の中にいたわけ?





よくぞ聞いてくれました!それはね…





アタシたちの本体が「リア充クソ野郎」だからよ!だから嫌気が差してみんなでここに逃げ込んでやったの。だってコイツ、今まで何の不自由もなく「ウェ~イwwww」ばっかり言って生きてきたような奴なのよ?親が大金持ちで、クソ甘やかされて生きてきたの。





毎日バカ騒ぎして、アタシたち感情は酷使されていたの。それでもうみんなウンザリしちゃって、コイツを懲らしめようと思って無意識さんの中に逃げ込んだのよ。





特にワタクシ「ヨロコビ」は過労死寸前まで働かされたのですよオホホホホホ!





ポカーン





で、でもコイツ、仕事がキツそうだったぞ?疲れ果てていて…今にも死にそうな…





そんなわけないじゃない!大体コイツがあんな大企業に入れたのも親のコネよ?なのに毎日いい加減な仕事ばかりして、あんなに楽なプロジェクトを任されても遅刻三昧、PCを使えばまとめサイトばっかり見て。仕事がキツそうに見えたのは、コイツにただ根性がないだけよ!





…





だからアタシたちがいなくなって、無意識だけが残ったらさぞかし困るだろうと思ったら、予想外のことが起きたわ。
…そう、あのバカ、アナタたちを作り出したのよ!





無気力・無関心・無感動・無責任…まあ見事なまでにひどい感情を作ったわよね。結果、アナタたちの感情を使って、また怠惰な一日を送り続けた…。だからアタシ我慢できなくなって、アナタたちを無意識さんに取り込んだのよ。





なん…だと…





無意識さんは、アナタが思っているような感情じゃないわ。その名のとおり自意識は持っていないけど、触れてお願いをすれば動いてくれる優しい感情なのよ。





そもそもアタシたちはみんな、この無意識さんから分裂したの。アナタたちもそう。この人はいわば「生みの親」なのよ。だからアタシたちはここに逃げ込んだの。





こいつ…生みの親だったの…





だから「心地いい」のよ。





それから、アナタさっき「本体が自殺する」とか何とか言っていたけど、アイツに死ぬ気なんて無いはずよ?嘘だと思うなら自分で見てきたら?





い、いや、だって、今は無意識の中にいるから、外へは出られないんじゃ…





無意識さんからは「出たい」と念じれば出られるわよ。





へぁ!?んなバカな!俺はコイツに取り込まれる時に「離せ」と言ったはずなのに、離さなかったぞ!?なのに「出たい」と念じたら出すのかよ!?





アナタ、本気で念じてなかったでしょ?もしかして、心のどこかで「こうなったのは自分のせいじゃない」とか「心地いいってどれくらいなんだろう?」とか思ってたんじゃないの?





う…





何よりもアナタ、無意識さんに取り込まれてみたら気持ちよくなって、抵抗する気をなくしたんじゃないの?





いや…それは…





つかの間の快楽に身を任せ、一時の快感に敗北し溺れたこの俗物が!どの口で我らが親同然の者に疑いをたて、そのような戯言を抜かすのか!





ふぇぇ…





…アラつい取り乱しちゃったわ、ごめんなさい。とにかく、無意識さんの壁の前まで行ってみましょう。
あ、無気力・無関心・無感動くん、アナタたちも一緒にどう?





気力がない。





興味がない。





…行ってみよう。


~数分後~



ふぇぇ…やっぱり無理だよう…無意識さんのお壁、心地いいよう…心地よくて、お外に出れないよう…





なんて欲望に弱いやつなのかしら。





ダメだ…俺は「出たい」という強い感情を持ってないから、出ることができない。





…仕方ないわね。ほら、私が手を貸してあげるわ。一緒に外へ出てみましょう。


~現実世界~



zzz
グー、グー


~脳内~



…寝てる。





ほらね?コイツに死ぬ気なんてないでしょ?
さ、中に戻りましょ!





…。





…さて、やっぱり無意識さんの中は落ち着くわね。





…あのさ。





なあに?





お前、さっき俺たちのことを「ひどい感情」だって言ってたけどなあ、そんな俺達でも取り込まれるまでは「ひどい感情」なりに頑張っていたんだぞ!?お前たち抜きでどれだけ苦労してこんな奴を操作していたと思ってるんだ!?俺たちだって何も…





…アナタ、自分たちだけで本当にアイツを操作できていたと思っているの?実はアタシたちが、最初からこっそり助けてあげていたのよ?





えっ





例えばアイツが目覚めた時、アナタたちだけでどうやって仕事場まで行く気力を湧かせたの?思い出してみて?アナタたちは誰も操作していなかったはずよ?





…もう昼か。大遅刻だな。
…はぁ、もう俺は限界かもしれない…。
…仕事、行くか。





アタシたちがコイツに「やる気」を与えたの。





他にもあるわ、アナタたちだけで、どうやってこの男に「食欲」を与えたの?





もぐもぐ…
はぁ…
会社…行きたくねえなあ…
休日がほしい…





言うまでもなく、アタシたちが「食欲」をかきたてたのよ。





お次はコイツが仕事中…





カタカタ…
カタカタ…





はぁ、繰り返す退屈な日々…
虚しい、苦しい、何の喜びもない。
…なんで俺がこんな辛い目に。
…もう耐えられない。





コイツこの時、エロサイトでクリックのたらい回しに引っかかってましたから。
だからムカついて思わず「虚しさ」や「苦しさ」を与えてやったの。





それにしてもコイツ、寝ぐせも直さないで仕事に来てるんだから本当にふざけた野郎よね。





それから午前3時、コイツに「終わりにしよう」という感情が芽生えたのは、アタシたちが「飽きた」という感情を与えたからよ。





…ダメだ、何度やってもうまくいかない。
…休みが欲しい。
…午前3時か
…もういいだろう…もう…
俺は精一杯やった…終わりにしよう…





ちなみにコイツ、仕事するふりしてスマホゲーで課金しまくってましたから。死ぬほど下手クソなくせにあきらめが悪いの。だから止めてあげたのよ。





アレは死を決意したのではなかったのか…。





ていうかコイツが全く仕事してないのに気づかないとか、アナタたち本当に「無気力・無関心・無感動・無責任」よね。





どう?これで分かった?最初からアタシたちがずっとアナタたちをサポートし続けていたのよ?






だいたいアナタたち、何を根拠に「無気力・無関心・無感情・無責任」だけで、ひとりの人間を動かせると思っていたの?いい?人間の感情はアナタたちだけで操れるような、単純な構造にはできていないのよ?





例えばご飯を食べるにしたって、一体どれだけ多くの感情が引き起こされると思っているの?喜び、悲しみ、驚き、怒り、軽蔑、嫉妬、尊敬、愛情、親近感、苦痛、困惑、微妙…これらの感情が、たった5つばかりの感情に分類できるとでも思っていたの!?





みんな、出てきてあげて!





ワタシは「ポジティブ」





アタイは「ネガティブ」





私は「愛情」





我輩は「嫉妬」である





ボクは「勇気」だワン





ジブンは「オドロキ」でアリマス





ボクは「食欲」





zzz
(睡眠欲)





オレは「性欲」モンスターだ!


※以下省略



ね?これだけたくさんの感情たちが人間の頭の中には居て、常に複数で状況を処理しているの。せいぜい4~5個の感情なんかじゃ、とても処理できないほど人間の心は複雑に出来ているのよ!?





それなのに、こんなにも豊かで多様な人間の感情を、単純な分類に押し込めて判断しようと思うだなんて…なんて傲慢なの!






…まあいいわ。
これくらいにしておきましょう。





と、いうわけだから、アタシたちはまだしばらくここにいて、感情を放棄してやるつもりよ。アイツが叩きのめされたら、みんなで外に出て行くの。だからアナタたちも、しばらくはここでよろしくね!





…。





…。





…おい。





なんだ。





さっきの話、全部聞いてたよな?





…ああ。





何か俺に、言うことがあるんじゃないのか?





あの…
ええと…





”無感動”だからこんな時はどんなことを言えばいいのか分からないです。





謝れよ





このたびはとんでもない妄想を長々と吹き込んでしまい大変申し訳ございませんでした。





オマエ明らかに心がこもってないだろ!
”無感動”なんだから。





そういうお前だって自分で考えもせずにホイホイ信じた”責任”があるだろうが。





俺に”責任感”なんてあるはずないだろうが。





どうしようもないヤツだな





お前が言うなコラ!





この無責任野郎





表出ろや!





いいだろう





ちょっとアンタたちいい加減にしてよ!
無気力・無関心くん、アナタたちも止めなさいよ!





ふぇぇ…無意識さんのお壁…





心地いいよう…





結局行ったのかよ!
そんでハマってるのかよ!





というわけでイカリさん。





僕たちを表に出してくれませんか?





一人じゃ無理なんで…お願いしゃーす♥





…コイツらは一生ここに置いとこう。


おしまい

色々な引き出しをお持ちなのですね!尊敬します!!こちらのお話も一気に読んじゃいました!2話からの3話の落ち、やられました^^最近脳内のお話流行ってますけど、本当こうやって別視点でキャラ立ててお話に起こすと面白いですね~!
この作品にもコメントを頂けるとは…本当に嬉しいです。一話一話を長くしすぎたかもと思っておりましたので、最後まで読んで頂いた方でいて本当に安心しました。
ぬおおお、おもろい。。おもろい!
いや、なんかスゲー、すごいです作者さん!!