


人の気を引くためにはどうしたらいいと思う?


ふとした時、彼女は口を開く。そしてくだらないことをその口から吐き出すのだ。長い睫に縁どられた大きな瞳はぐにゃりと歪んでいて、何が面白いのかは定かではないが彼女は笑っているらしい。



さぁ…何か可哀想な過去でも披露すれば良いのでは?


彼女は僕の発言が気に入ったらしい。ひとしきり笑うと、余韻を引きずりながらもそうだねぇ、と同意した。



例えば、君が物言わぬぬいぐるみだとして、私は、そのぬいぐるみと会話する可哀想な少女だなんてどうだろう!





それはいい考えですね!頭のいかれた貴方にはぴったりだ。で?誰が何だって?


多少の嫌味を含みつつ彼女にそういえばまたも彼女は笑い出した。きっと箸が転げても笑えるんだろう。理由?そんなの彼女が阿呆だからさ!



いい加減、こちらを見てはどうですか?そんなぬいぐるみなんかとお喋りしてないで





いいや、今日はこの熊太郎とでもお話しするよ。君の顔はいい加減飽きたからね。おい、熊五郎、今日はお誕生日だそうじゃないか!いくつになったんだい?え?56?


本格的に熊のぬいぐるみに語り掛けはじめた彼女はもう僕自身と向き合う気はないらしい。ごちゃついた部屋の中だというのに妙に孤独感を感じる。少しくらい、こっちを向いてくれてもばちはあたらないだろうに。

僕が寝台の隅のただのぬいぐるみに視線が行くのは仕方ないことなのだろう。強いて理由をあげるなら暇だからだ。ぬいぐるみを持ち上げて抱え込み、膝の上に乗っけて向き合う。
「さて、うさみちゃん、今日は一体何をしようか?」
その子はうさこちゃんだよ、とほざく声はもう聞こえないふりをした。
