ゴスロリ少女は
帝王拳で
幽霊を粉砕する



これは





ワタクシが出会った、真実の物語





嘘偽りのない、現実の物語





だってそうでしょう?





幽霊なんて、いるわけがないんだからっ!!!!


ゴスロリ少女は
帝王拳で
幽霊を粉砕する
終業を告げるベルが鳴る。ワタクシは教科書を詰め込み終えた鞄を手に、椅子から立ち上がった。



授業って、なんて退屈……





退屈は猫をも殺すと言うけれど





実際ワタクシも死んでしまいそうだったわ…





…





好奇心は猫をも殺すだったかしら





まあいいわ。


友達がいないワタクシは、基本的に一人で考え、一人でツッコミを入れるしかない。変化をつけたい時は、鞄から彼を取りだ……召還する。



深淵の闇より出でよ、むしゅふしゅ!





がおー!!





おいおい、寂しいからってオレを呼ぶんじゃねえよ





周りにいーーーっぱい、人がいるじゃねえか!





こいつらと喋ればいいんじゃねえの?





それは無理ね…


クラスメイト達は、ワタクシとむしゅふしゅを遠巻きに眺めている。
それもそうだろう。
私服OKの煌々高校とは言え、ゴシックロリータに身を包んでいるのはワタクシ一人。
しかもコミュニケーションが苦手で、入学して半年経った今も、連絡事項以外、人と話したことがない。
それでも人と会話できない寂しさはあり、しょうがなく鞄からむしゅふしゅを取り出し……召還して、喋る。独立した人格という設定にしてあるが、実際は腹話術だ。
それがまた、“変人”設定を加速させた。



でも別にいいの





ワタクシには、むしゅふしゅと……





MINTO様と、Alice de la vieの音楽と、V系雑誌とチラシと、ゴスロリ聖典と、ゴスロリ服と、青い薔薇のコサージュと、綺麗な銀の十字架と、衣食が揃ったお家と、大きな棺桶型だけど中は割と寝やすいベッドがあれば十分よ。あと出来ればパンツとブラジャーはこれからの成長も見越してワンサイズ上の物も揃えて貰いたいわね





そんだけありゃ誰だって十分だ





ていうかシレッと下ネタを混ぜるな





ワタクシが特異な人間であることは、
ワタクシ自身がよく理解しているわ。





ツッコミ完全無視か
どうせ胸と尻は成長しないと思うけどな





こんな変な服着て、むしゅふしゅなんかと話して、風営法ギリギリセーフなメイド喫茶でバイトして、そのお金でV系バンド追っかけてる人となんか、普通の人は仲良くなりたいと思わないわよ





オレなんかっていうのは聞き捨てならないが





あと正直な話、お前に友達が出来ないのは、
そこが問題じゃないと思うけどな。





え?





!!





フホホ。出たな





……!!





フホホ。また変なの来たな~





本当、オマエって損なヤツだよ





妙に霊感があるばっかりに、
変な幽霊にばっか集られて……





いつも言ってるでしょう、むしゅふしゅ!





これは! 幽霊じゃ! ないッ!!


そう、これは幽霊じゃない。
絶対に幽霊じゃない。
人格を持つ霊体が、彷徨っているわけじゃない。
これは……



ただの残留思念!





そうよ…





幽霊なんかじゃない。
彼らに心なんかないの。





ただの、想いの、残滓……。





そうじゃなくちゃ、ダメなの





そうじゃなければ…
お兄様は……





…





今は、この目の前の彼をどうにかしなくちゃ





そうだぜ、夜美子





昔のことなんか、考えてる場合じゃない





オマエに出来るのは、ぶっ壊す事だけなんだから


ワタクシは静かに頷き、鞄から一つの帝王拳――カイザーナックルを取り出した。
