はいはい、終わり終わりと、桃は大声で叫び、扉の近くにいる人から順番に外に出していった。

　ざわつきながら、その場はお開きとなる。

　誘導しながら、桃はコンノを呼び止めていた。ものの数分で、屋上は生徒会役員とコンノの六人となる。

　桃が、そう言って生徒会役員に頭を下げた。俺のせいです、とコンノも慌てて頭を下げる。

　晃弘がそう言って、桃の肩を叩いた。桃は顔をあげると、小さくありがとうと呟く。

　晃弘の指示に、わかった、と二人は頷く。忍は、と晃弘が言いかけたところで、桃が小さく挙手をした。

　忍がすべてを言う前に、桃は返事をする。

　じゃあ、と桃は、コンノに目をやる。行こうか、と微笑み、屋上の奥へと歩いていく。

　校内へと続く扉をくぐりながら、心配そうに、桜歌が振り返った。

　晃弘の言葉に、桜歌は頷く。

　それでも不安なのか、細い指先が、そっと香里の服の裾をつかんだ。香里は、静かに桜歌の手をとり、階段を下っていく。

　忍は、ああとこたえて、後ろ手に扉を閉めた。

　晃弘が、声をおとして忍に訊く。思わずね、と忍は奥歯を噛み締めながら苦笑した。

　晃弘は微笑んで、屋上へと続く扉を見た。

　忍は目を丸くする。えっと、今、えっと、何だって？

　ぽかんとする忍に向かって、あっと晃弘も目を丸くする。

　あんなテンション高い人とつきあえる自信がない、とは言わない。

　だと思ったと、晃弘は忍にウインクを飛ばした。おえ、と舌をだし、忍はそっぽをむく。ははと笑いながら、晃弘が階段を降りていく音がした。

　晃弘の姿が見えなくなってまず、忍は携帯電話で掲示板をチェックした。

　すぐに、鍵を速やかに返却するようにという旨の書き込みを見つけた。

　晃弘の行動の早さはもちろん、一意見として、返した方がいいと思うという風に書かれていたのはさすがだと、忍は感心する。

　その書き込みのわずか三分後、晃弘の書き込みに対してルビーウィッチから返信があった。

　傍観者としてあの観衆の中に混ざり、あの様子を見て、いろいろとありがとうと、ぬかす。

　どうせなら慈善活動でもしろよと、ひとりごちる。

　その後、桃についての記述や、こりない願い事の羅列が続いたが、結局ルビーウィッチからの返答はなかった。

　すぐに返すって、どこにだ？　どこかから借りたのか？　忍は思考を駆け巡らせる。

　職員室に鍵があるはずだ、もしかしたら先生が？　というところまでたどりつくが、いやいやと首を降る。観衆の中に先生はいなかったではないか。

　少ないヒントから、するすると犯人を導き出せたらどんなに素敵なことだろう。芸術にも近い芸当ができるほど、忍は訓練されていなかったし、発想力があるわけでもなかった。

　しかし、今回の犯行は、前回と比べて被害は少ないものの、歓迎されるようなものではなかった。何度も思う。

　よりによって、屋上だなんて。

　ガラスで敷き詰められた科学室の掃除を、生徒に任せてしまうような先生だ。

　この学校の校風は、なんでも生徒で。よくも悪くも、先生の干渉が少ない学校ではある。

　ルビーウィッチは、この特性をついたのだろうか。

　思考にふけっている忍の後ろで、がちゃがちゃという音がした。
　振り替えると、背の高いコンノがにゅっとその姿を現した。思わず忍は、うお、とのけぞる。

　思わず見上げたその顔の目元は、少しだけ赤くなっていた。忍はすぐに、視線を反らす。

　コンノに隠れていた桃が、ひょいと姿を現した。