駅に着いた──が。
駅に着いた──が。



……しまった。何線に乗りゃいいんだ?


改札前で立ち尽くす俺。
乗り換え案内なんて
当然わかんねぇ。



ん?……あの子、俺と同じ制服じゃねぇか


茶色のブレザー、
校章──間違いねぇ、
青雲学園の生徒だ。
こいつはラッキー。
聞くしかねぇ。



よう!お前、同じ学校だろ?


そう声をかけた瞬間、女子はピクッと肩を揺らした。
まるで幽霊にでも声かけられ
たみてぇに、ぎょっとした目で
俺を見てくる。



......





あ、えーと……一緒に行っていいか?


女子は何も言わず
そのまま電車へ乗り込んだ。



お、おいっ!


なんだよ挨拶もねぇのか。
ったく、無愛想なやつだな。
でも──今はついて行くしかねぇ。
俺もそのまま電車に乗り
女子の隣に立つ。
混み合う車内。
ゴトン、ゴトンと揺れるたびに
体がぶつかりそうになる。
ふと、女子がこっちをチラッと
見て、すぐにうつむいた。



......





……俺、嫌われてんのか?





いやいや、ここは大事なとこだ。コミュニケーションってやつを取らなきゃなんねぇ。
女子の会話……女子の会話ってなんだよ!?





漫画か?い、いや
「ガクラン8年組」を読んでると思えねぇ。





ドラマか?ドラマドラマ
「爆走ドーベルマン刑事」しか出てこねぇ....





──そうだ、女子は占いとか好きなんじゃねぇのか?





なぁ……やっぱ細木って当たるのかねぇ……?





…………は?





……あれ細木数子の話題が通じねぇ!!





……そうだ、こういう時は名乗るのが礼儀ってもんだろ。





俺は森下杏奈だ。あんたの名前は?


一瞬、女子は目を見開き──
そして、急に俯いてしまった。
その顔はどこか悲しそうで……
苦しそうだった。



あ……わりぃな。やっぱ俺のこと──


言いかけたその時だった。
女子の体がわずかに震え出し
そして
何度も何度も後ろを
チラチラと見て──
目には涙が滲んでいた。



(……まさか)


俺は視線を彼女の腰元へ移した。
──あった。
スカートの上から這うように
伸びた、汚ねぇ手。



てめぇ……ッ!


反射的にその手を掴み
力いっぱい引っ張り上げた。



おいコラ!何してやがる!


現れたのは、スーツ姿の中年男。
一瞬驚いた顔を見せたが
すぐに眉をひそめ、言い訳を始めた。



な、なんだ?いきなり──失礼だぞ!私は何もしていない!





見てたんだよ、こっちは全部な。次の駅で降りろ


その声に
周囲の乗客たちがざわめいた。



またかよ……





本当にやってんのか?





最近多いんだよな、こういうの……


誰もが気にしているのに
誰も関わろうとはしない。
ただ目を逸らし
少しだけ距離をとって
傍観するだけ。
電車が減速しホームが見え始める。



えん罪だ!分かったぞ、さては金目当てか!?痴漢に仕立て上げて──金を脅し取るつもりだな!





……はぁ?てめぇでやったことの始末もつけられねぇのか?


駅に電車が止まる。
無理やり男の手を引っ張って
ホームに引きずり出した。



お前、女子の尻、触っただろ





証拠は?言ってみろ、じゃあその女子はどこにいるんだよ!





いるに決まってんだろが!


振り返る──が。
女子は、電車の中。
下を向いたまま、顔を上げずに
立ち去っていく。



……あ!おい待てっ!


ドアが閉まり、電車は動き出した。



さぁ?どこにいるんだよ、その子は?





くそ……この野郎!!


拳を振り上げたその時──
「やめてください!」
誰かに腕をガッとつかまれた。



な……誰だ?





おじさん、僕も見ました。
あなたが女子高校生に触ってるところ





な、なんだと……こいつの仲間か?





僕、スマホで
撮ってましたから。
カメラに映ってます





なにぃ!!


そこへ駅員たちが駆けつけ
周囲は騒然となる。
おっさんは一瞬青ざめた顔を
したかと思うと──
いきなり走り出した。



逃がすかコラ!!


俺もすぐさま後を追う。
だが次の瞬間──信じられない
光景が目に飛び込んできた。
おっさんは、ためらうことなく
ホームの端から線路に飛び降りた。



は……あのバカ!!


俺も飛び降りようとした
その瞬間──



危ないッ!


そのまま引き寄せられ
転びそうになる。
顔を上げると──
さっきの男子高校生だった。



あなたまで危ないことしないでください。駅員もすぐ来ますから





お、おぅ...


