コペの家の屋根に立ち、炎を見下ろしていたのは、赤い頭の魔物だった。
僕とルーガルは、屋根の端に下り立った。
ルーガルが飛行魔法を解き、僕を腕から下ろす。・・・抱っこは恥ずかしかったけど、急ぎなので背に腹は代えられない。



くっくっく。魔結晶は、危機が迫るとその気配を増す。どこに隠されているかわからんときには、この方法が手っ取り早いのさ。





――って、うちの聖殿を燃やしたのもそれが理由か!? そのせいでうちのじいさま怪我したんだが!


コペの家の屋根に立ち、炎を見下ろしていたのは、赤い頭の魔物だった。
僕とルーガルは、屋根の端に下り立った。
ルーガルが飛行魔法を解き、僕を腕から下ろす。・・・抱っこは恥ずかしかったけど、急ぎなので背に腹は代えられない。



む――早いな。





いや、遅かった。家はすでに火の海だな。つまり、私が追加で燃やしても罪には問われないということだ。





そんなことないよ。問われるよ。





む、そうなのか。ではベシワク、目を閉じて耳をふさいでいてくれたまえ。





はいそうですかとやると思う?





くっくっく。そうか、おまえは炎魔法が得意なのか。残念だったな。このシャルボン、炎には少々耐性がある。





そうか、教えてくれてありがとう。だが、それが何だ?





うわあッ!?


結果的に、僕は目を閉じて耳をふさいだ。
肌が熱くて焼けそうになる。これまでにない火力だ!



少々の耐性なんてもの、それを上回る火力があればいい話だ。さて、私の最大火力のお味はどうだ?





あが、が・・・


魔物は消し飛んでいた。人間で言うとへそがあった辺りに、黒い塊が残っている。



あれがコア・・・!


僕は剣を抜いて走った。



がああああッ


再生しようとしていた体が、改めてチリになった。



これで、倒したか?





待て、気配がする――もう一匹いる!


下を見る。火影が揺れる裏通りに、マントをたなびかせた誰かがいる。
いや、マントじゃない!



それは〈仁者のもてなし〉! 返せ!!





ふふふ・・・そんなに大切なものなら、ジャハまで取りに来るがいい・・・


追いかけるが、間に合わず、魔物の姿はかき消えた。



――降結水〈アクアプルヴィア〉


声と同時に、激しい雨。



雲はない。魔法の雨か。





コペ、ヤムカ!





悪い、遅くなった。おまえら無事か?





ベシワク、〈仁者のもてなし〉は・・・





・・・ごめん。


僕は、何も言えなかった。



リリーシカを止めるには、殺すしかないと思う。


病院の燃え残った一室で、僕らは今後のことを話し合っていた。



ルーガル、それは!





確かにあいつは妹だ。だがあいつの暴走は、その存在の不安定さゆえ。つまり在り方そのものが原因で、解決法はない。





正直気は進まない。だからこれまでは目を背けてきた。だが・・・


ルーガルが僕を見る。



ベシワクを見ていると、私もやるべきことをやるべきだ、と思えてきたんだ。私にできることがあるなら力を尽くそう。





・・・だからって、君が手を下すのはあまりにも残酷だ。





責任は私にある。それに、私以外の誰にできる? 私ならあいつと張り合う魔力があるし、弱点も知っている。奥の手だってある。





奥の手?





次に戦う機会があったら、わざとスキを見せて、あいつの攻撃を受けたふりをする。そして左足のタップ――


ルーガルの契約魔法は五つある。
右手のフィンガースナップで透過。
左手のフィンガースナップで攻撃。
右目のウインクで飛行。
左目のウインクで防御。
そして、右足のタップで灯光。



でも、僕らに黙っていただけで、別の魔法を隠していた――それが奥の手か!





六つ目の契約魔法は、幻影魔法だ。リリーシカには、私が攻撃を受けて死んだように見える。





・・・で?





あいつはショックを受ける。





そおかなあ。





そのスキに攻撃! コアを破壊する。





・・・・・・。





上手く行くわけねえだろ。





そんなことはない。七歳の頃、ふざけて死んだフリをしてみせたら、あいつはショックを受けておいおい泣いたものだ。





今ここで姉妹のほっこりエピソードを持ち出すな。情緒おかしくなんだろうが。





やっぱりダメだ。君が死んだらリリーシカが悲しむと、本当に思ってるんなら・・・君の死を悲しんでくれる人を、君の手で殺すのは絶対にダメだ。





ほかに方法はない。





まだ思いつかないだけかもしれないだろ。とにかく、君一人では行かせない。リリーシカは僕の敵でもあるんだ。





はい!


コペが勢いよく手を上げた。



あたしもついて行きたいです!





コペ・・・でもこれは危険な旅だ。





でもあたし、ここにいたって危険だしなあ。





えっ。





家燃えちゃったし、ご飯は〈もてなし〉頼みだったのに持ってかれちゃったし。





うっ。


みんな言わないでいてくれるけど、〈もてなし〉を奪われてしまったのは僕が連れ出されたせいだよな・・・。
それも、ルーガルのふりをしたリリーシカにだまされて、というのがものすごく痛い点だ。眼鏡をかけただけの変装に引っかかるなんて・・・。



病院はいじめっ子のせいで閑古鳥だし、他で食べてこうとしても嫌がらせされるのは目に見えてる。それよりは君たちについて行きたいな。





何、おまえいじめられてんの?





まあね。





なんでだよ。わかった、可愛いからだろ。





は!?





嫉妬ってこえーなあ。あんま気にすんなよ。





は、は、は!?





オレもついてくかな。戦力は必要だろ。オレ自身はまあアレだが、アトリエ寄ってけ。いいもん貸すぜ。





いいものとは?





戦闘用人形なんて需要がないと思ってたが、試作品が役に立ちそうで嬉しいぜ。


ルーガルとヤムカはジャハへの道順について話し始めた。
その横で、僕はコペに部屋の隅まで引きずられていった。



あのさ、あたしって可愛いの?





可愛いよ。


コペが悲鳴を上げてひっくり返った。
