洞窟の中の広い空間を、盗賊たちは集会場として使っていたらしい。
盗まれた商品は、その壁際に乱雑に積まれていた。



侵入者め、俺たちの財宝を奪いに来たか!





取り返しにきたんだよ、おまえら泥棒と一緒にすんな。お、オレの人形、ここにあったか!


洞窟の中の広い空間を、盗賊たちは集会場として使っていたらしい。
盗まれた商品は、その壁際に乱雑に積まれていた。



ゲッ、その趣味の悪い人形、おまえのかよ!





趣味が悪いとはごあいさつだな、とっても役に立つんだぜ。戦闘用人形じゃなくたって、おまえらをひねりつぶすくらい余裕だ。





戦闘用じゃないの? その見た目で?





家事労働用だ。





その見た目で?





生意気な口を! やってみろ! カルガモ、おまえは俺と人形使いを。スズメとハトは白黒頭の相手をしてやれ!





わかった、カラス!





変な名前・・・





コードネームだろ、奴ら身元を隠してやがる。つまりあのフードを引っぺがすだけで、けっこうな嫌がらせになるってこと! 楽しみだなあ、グージィ?





おっしゃるトオり!





人形に変なこと教えてやるなよ。君って普段から効率のいい嫌がらせについて考えてるの?





悪いか?





悪くないけど、僕の弟に似てる。





誰が弟だ!





――魔風刃〈ウィンブレイド〉!





おおっと!


盗賊の一人が放った魔法を、ヤムカは家事労働人形を盾にしのいだ。



盾になるくらい頑丈なのに、戦闘用じゃないんだ・・・





タテになるだけじゃありませんヨ! チカくばヨってメにもミよ!





確かなる者、導く者よ、
うつろを満たし駆動せよ。
――操人形〈マリオネット〉!





オレの人形は土魔法で動く。簡単な呪文、少量の魔力でこの通り! 盗むなんて損なことしたなあ、正直に買いに来りゃお安くしてやったのによ!


三体の人形が一斉に動き出した。ヤムカを守るように周りを囲む。
盗賊たちのうち二人がヤムカを挟撃するが、実質二対三、ヤムカが有利だ。
対して、僕は残り二人を自分だけで相手にしなければならない。



氷結界〈グラキエス〉!





魔風刃〈ウィンブレイド〉!


僕の足元に氷が張った!
同時に風の刃が降り注ぐ。



ッと!


体勢を崩しつつも、なんとかその場から飛びのく。
しかし間断なく“ハト”が別の呪文を唱える!



魔氷矢〈アイシーアロー〉!





今度は氷の矢か! 色々あるな、もう!


降りかかってきた氷の矢を剣で払う。
そうしている間に“スズメ”が同じ呪文を唱える。



魔氷矢〈アイシーアロー〉!





くっ、防御だけじゃきりがない・・・!


どうにか打開しなければ。
一方、ヤムカも意外とてこずっていた。



ああもう、頑丈な奴らだなあ! いくら人形で殴ってもへこたれねえ。サンドバッグとして売っぱらってやろうか!?


ちなみに、人身売買は犯罪だ。



ん? あれは・・・


ヤムカを挟む二人の体を、妙な光が包んでいた。回復魔法の光に似ている。
二人が手ごわいのはそのせいか? 怪我をするたび回復させているのかもしれない。



回復魔法の呪文を唱えてる奴はいないけど・・・まさか契約魔法師? でもこいつらが、ルーガル並みに強いとは思えない。





どこかにもう一人いる!?





食らえよ! これにも耐えたらサンドバッグ1号と呼んでやる!


ヤムカの人形たちがジャンプした。高みからの体重を乗せた攻撃、しかも三体同時!



はっ・・・!





うわあああっ!





ふっ・・・





洞窟崩れないよな?


不安になるくらいならやらないでほしい。



げほっげほっ。土煙がこっちまで・・・





やっぱり回復魔法が使われてる。それに・・・





見つけた!


土煙が洞窟を覆いつくしたおかげで、不可視の人影が、目に見えて現れた。
ルーガルが透過魔法を使いながら僕をかかえて飛んだように、見えなくても物には触れられる。
逆に言えば、巻き上がった土煙が体を通り過ぎてくれることはない。土煙が通れない謎の空間が、人の形を持って浮き上がる。



豊かなる者、流れる者よ――





ヤムカに警告する暇はないな。こっちの二人の相手をしなきゃ。





――知恵と豊穣もたらす者よ――





でもそうだ、奴らにはとにかく詠唱が必要。それなら・・・口をふさげばいい。





――氷結界〈グラキエス〉





魔氷矢〈アイシーアロー〉!


僕の足元に氷が張った!
あとに続くのは氷の矢だ。



くっ!


僕は足を滑らせないよう氷を踏み割ると、降り注ぐ矢を剣ではじいた。
そして勢いを乗せたまま、剣を相手に投げつける!



は・・・ッ!





おまえ、唯一の武器を! 頭でも打ったか!?





唯一じゃないよ、まだ鞘がある。


剣はかわされ、岩壁にぶつかった。それでも“ハト”の隙を作ることはできた。
僕は鞘を武器代わりに“ハト”に迫った。わざと足元の土を蹴散らす。



げほっ、げほ・・・!
ゆ、豊かなる者、流れる者よ――





唱え終わる前に攻撃だ!





氷結界〈グラキエス〉!





来ると思った!


“スズメ”の呪文は予想していた。動く相手を止めたいときには、足元を凍らせてくるだろうから。
突然なら有効な魔法でも、わかっていれば逆に利用できる。
足元に張った氷で加速し、僕は“ハト”の間近まで滑った。鞘は地面と平行に構え、胴のまん中にたたきこむ!



ぐっ…!





ハト! よくも!
豊かなる者、流れるうわあああっ!





逃がすかっ!





ぐうう…


渾身の力で殴られて、“スズメ”は僕の足元に倒れこんだ。
終わった・・・。
ちょうどその頃、ヤムカもあとの二人――“カラス”と“カルガモ”を倒したようだった。



ヤムカ! そっちも片付いた?





当然! スーパーアルティメットサンドバッグ1号2号は沈めてやったぜ。


あれから何度か復活したらしい。
さすが、回復魔法を使ってるだけある――



そうだ! もう一人!


ハッと思い出して、警告しようとした瞬間。



――あ!?





なっ、なんだこりゃあ!?


ヤムカの足元から紫の粘液が湧き上がった。
網のように広がると、ヤムカを包み込んでとらえようとする!



やめろーッ!


先ほど人影が見えた洞窟の隅をめがけて、僕は鞘を投げつけた。



ギャンッ


命中した!
透過魔法で隠れていた姿が、じわりと現れる。
同時に、ヤムカを包んでいた紫の粘液が消滅した。



まだいやがったのか・・・助かったぜ。よくこいつのいる場所がわかったな?





戦いの途中で気づいたんだ。警告できなくってごめん。





いや、そんなことはなんでもねえけど・・・そういやおまえ、あとの二人、ほんとに倒したんだな・・・





どうしたの?





あーなんつうか。さっきは、馬鹿にして悪かったよ。





!!





オレ、生まれつき魔力が少ないんだ。だから自分より下見ると安心するわけ。でも今回はおまえのが強かったわけだし、そもそも馬鹿にしたオレを助けてくれるとか・・・





・・・って、なんだよその顔は?





うちの弟も、君くらい素直ならいいのにと思って・・・





弟扱いすんなっての! オレの方が年上だろ?





え、そうなの?





オレは二十一歳だ!





えっ。


そんな話をしているところに。



小雷撃〈アトサンダー〉


ピリッとさせるような小さな稲妻が洞窟を駆け抜け、ルーガルが姿を現した。
