舌切り雀はたとえ羽ばたけなくとも
3話
準備をさせてくれる異変など、きっとない



あわわわわ一体何あれは!?





ば、ばけものっっ!




異形! 身の丈10尺はあろうかという巨躯、赤黒い肌、ギザギザの牙を生やした存在が大挙して村を襲っていたのです。



びええええ、びええええええ夢じゃなかったんだうわああああああ





た、た、助けてくれーーーー!!


すでに村の柵は乱暴に破壊され、侵入を許してしまった状態。村人が一人、拘束されてしまいました。



グフフフ、フ





ひ、ひ……


戦利品のようにたかだかと持ち上げられ、弄ばれて。そして、握られた両手に少しずつ力が込められて行く――このままでは……!



……?





!?





!?


視界を遮る閃光が一つ。
次の瞬間には怪物の体は上下に真っ二つに離れていきました。己の死にも気づかないかのように、不可解な顔をして崩れ落ちました。
それを成し遂げたのは――



間に合ったかしら? ルン♪


与作が、嫁。
怪物たちの前に姿を見せたのは、彼女でした。地下牢から全力で駆け抜けて来たのでしょう、額には大粒の汗が浮かびます。



雀さん!





旦那さま。危ないですから少し下がっていてくださいね。





一体これは何なんですか。……何か知っているんですか雀さん!





村の外にこんな怪物がいるだなんて、そんなの聞いたことがない。だって今まで――





……いや、


そう、男は気づきました。しばらくの間、誰も村の外には出ていないのです。
買い出しや町への用事は、みんな嫁が引き受けてくれていたのでした。



まさか、お前が全部一人で戦ってくれて……?





……





なんてこった、嬢ちゃんが村を守ってくれていたのか!?





俺たちも戦うぞ! ウォぉぉぉぉぉ!!


血気にはやる男衆が怪物に向かって行きます。



いけない! あなた達では……!


棍棒やクワで立ち向かうも、怪物たちはびくともせず。それどころか肩を震わせ笑っています。



食料が自分からやってくるとは愉快よのう!


大した抵抗もできずに再び捕らえれてしまいました。



ぐおおおおおお!!





フフフ……





ああ!? ぐ、がああああ!?


怪物は村人を捕まえているだけ。なのに、村人はもがき苦しみ、暴れます。まるで見えないエネルギーを吸い取られているような。



あたしの見ているところで、そんな真似はさせない!





うぐっっ くそ!





……ッ!!


今度は不意を突けたわけではありません。怪物も黙ってやられはしない。村人は取り戻したものの、激しい攻防にお互いに傷を負ってしまいました。



雀さん!!





ああ、そんな血が……服もボロボロになって……





ぐううう~~貴様はいつも我らにちょっかいを出す。またしても邪魔をするのか!





オホホホーーー!当然でしょーーー!





ここはあたしのシマよ。手を出したこと後悔させてやるんだから!


不敵な笑み!



はぁ、はぁ……か、ら、だに力が入らない……





どういうこと……? あなた、体が透けているわ!





ぐわっはっは、わしに生命力を吸い取られ、もはや存在もおぼつかないようだな。





そもそも、人ですらないお前たちは早々に消え去るのが道理よ。





!?





!?





なにを……





何を、ばかな。俺は人間だ。





ぐふふ、そう思いこんでおけ。


怪物は、高笑いします。



いいか、お前らはカスよ! 燃えカス絞りカス――





――――





そこまで。





あたしの村のみなさんを愚弄するのは許さない。





コテンパンにしてあげますからね♪


ザクザクと怪物を屠っていく女に、流石に警戒が走ります。一体何者なのか、と。



まだ活動していたのか。依能理(イノリ)……そしてその姿。見覚えがあるぞ。


怪物の中でもひときわ大きい、異質な存在がずい、と奥から姿を現しました。



忘れもせぬ。貴様はイノリの中でも最強最悪の――「スパロウ」ではあるまいか。





あら! 懐かしいお名前!!


続く
