つづく



5月の連休にボクはおばーちゃんと一緒にモールで買い物をしました
初夏から夏にかけての服や、待望の携帯電話などです!





やっぱり携帯電話はちょっと嬉しかったです





新しい物が楽しくて、すまほをいじっているうちに、ふと、あの後真夜に礼を言っていなかったことを思い出しました





確か番号はメモをもらっていたから…





かかるかな…?
かけてみよう





…はい?





ああ、ええと、その…
月野さん、ですか?
犬上です…





ああ、君か…
これは君の電話番号かな?





ハイ
この間のお礼を言いたくて…





なるほど、律儀だな
気にしなくていい…





アリガトウゴザイマス…





明日、空いてるか?





え? あ、はい…





電話の向こうで真夜が誰かと話す声が微かに聞こえました





じゃあ、午前11時に例の公園の噴水で会おう
今日は来客中だから、これで失礼するぞ





ハイ、失礼します…





真夜は直ぐに電話を切ってしまいました





忙しそうですね…





翌日、ボクは高架横の公園にぶらぶらと歩いていきました
いい天気で初夏らしい心地よさです
…しかし、こんな日中の光が眩しい時間帯に、真夜はダイジョブでしょうか…?





夜になると人気がない、物騒な公園も日中は犬を散歩させる人などもいて、さびれた感じはするものの、それほど雰囲気も悪くないです





ここのことですよね…?





噴水は大きくなく、なんとなくさびれた感じでした…





しばらく待っていると、見たことのない40歳過ぎくらいの男が歩み寄ってきました





…君が犬上くん、かな?





え? あ、はい…





見たことがない人ですが…
なんとなく、普通の人ではない感じもしました





私は…
山田とでも呼んでくれ
真夜に頼まれてきた
彼の日中の手伝いをしている者だ





あ、ハジメマシテ…





真夜は日中は外出できません
なるほど、日中の手伝いをしてくれる人がいれば、助かりますよね…





少し歩こうか





はい





連休の日中の人の流れは楽しげで、ボクらに誰も注意を向けません





しばらく二人で歩いていると、やがて山田が話し始めました





日本には狐憑き、というものがあるのだが…
まあ、ある種の犬神伝承のようなものだな





犬神…





人狼が獣化したものを「狼」と呼ぶが、実際には狼でも狐でもない
全く別の動物と言える…





そういったものを総称して日本では狗神とか、狐憑きとかと言い、伝えられてきたのだ





日本における狼男、人狼といったものに通じる伝承だ





…たしかにおとーさんの遺体は普通の狼とは違う動物だったようです
人狼といえど、変身しても狼と同じものではないのです





森林警備隊はその狼に似た動物を、森の奥で大きく成長し過ぎた狼の個体として処理したようでした





その巨大狼にボクのおとーさんは食い殺されたのだと…
人は時として真実よりもわかりやすい嘘を信じるのです…





そのおかげで…
ボクたち家族はいろいろと助けられてはいるのですが…





…どうしてそんなことを…?





私も君の一族の、日本における分家のようなものだ





犬神…





真夜は君に私の方法を説明してほしいらしい





方法…?





うちの一族は滅多に「あの姿」にならない





え…?





茶でも飲もう





山田はボクに喫茶店を示しました





店の奥まった席に腰を下ろすと、ボクたちはそれぞれコーヒーを頼みました





…真夜はアレで意外とお節介焼きだぞ
まあ、この辺では一番の年長者だから背負いすぎるのさ





年長…?





詳しくは知らないが…
多分数百…





数百歳!
…なんか、いかにも吸血鬼って感じです





…だから比較的近い一族の我々を引き会わせたのだと思う





そうでしたか…





この国ではアメリカやヨーロッパよりも精神論が物を言う





「あの姿」にならないためには精神論なんだ





はぁ…
キアイ?





まあ、気合、根性、精神修行?
そんなところだな





いちばん大切なことは、自分の感情に飲み込まれないこと…
一番危険なのは怒りだ





たしかに、相川さんが襲われていたときにボクは頭に血が上りそうになりました
そのまま冷静さを失っていたら、
どうなっていたことか…





真夜もそれを見て危険だと思ったのでしょう…





それでこの山田と名乗る人物をボクに紹介したのでしょう





私も立派なことなど言えない身だが、一つだけ言えることがある
感情をコントロールできるようにしろ





…はい…





まあ、十代の若者に言うのは酷かもしれないがな
座禅でも、ヨガでもいい、なにか自分にあいそうな精神統一法を見つけるといい





君は「あの姿」のときでも意識を保てると真夜から聞いている
きっと、うまくできるはずだ





…やってみます…





山田は少しホッとしたような表情になりました





…かつては私も感情に流されそうになったことがある





愛する人がいたが、私が煮えきらないので、不誠実な男と思われ…





…元々少し精神的に弱い女性だったんだ





彼女は…
…自ら命を絶ってしまったんだ…





……





彼女と結ばれて家族を作りたかったが…
しばらくは悲嘆に暮れて身を崩しそうになった





まあ、真夜がいなければ、どうなっていたかわからない





……





……





彼は君にそんな風になって欲しくないのだろう
コミュニティ全体の迷惑にもなるしな





コミュニティって、何人くらいですか?





私も詳しいことは知らない
お互いに知らないほうがいいこともある





それに…
…どうやらそういった者たちを狩る存在もいるらしい





……!





だからピリピリしているのさ
我々の多くは普通に暮らしたいだけの一般人なのだが…





まあ、そうでない者たちが騒ぎを起こし、人目に触れると規制が入るということさ





……





君も時間があればニュースの事件欄を見ておくといいかもしれない
不審な事件はソレ関連かもしれないからな





わかりました…





さて、と…
大したアドバイスは出来なかったが、まあ君ならどうにかできるだろう





あ、あの…





どうかしたかい?





ボクは先日、一晩家を開けたときにおばーちゃんに近くにおとーさんの知り合いがいる、と嘘をついてしまったのです
今のところ誤魔化せていますが、何かあったときに山田に協力してもらえれば…と思ったのです
だからそのことを説明しました





ははは…
たしかに私は君のお父さんと同じような年代だな
どうしても必要なときがあれば、協力してもいい





…そうだな、大学時代に留学した設定にでもしておくか





言いながら山田は少し楽しそうな顔をしました





ありがとうございます
助かります
…多分ダイジョブだと思いますけど、一応…





わかった
じゃあ、この後は別の用事があるから失礼するよ





ボクたちは念の為連絡先を交換して喫茶店を出ました


つづく
