11 突撃!突貫交渉人 その1



フフフ~~フフ~ン





おや。





この形、香り。これは珍しい品種のきのこ、ファファフォーだね。これは貴重な薬になるのだよ……!





摘んであげるよウヒヒヒ





ぎゃーーーーーー


黙って摘み取られるキノコではない!



やれやれ、ひどい目にあった。





ただいまだよ、ビエネッタ君。






おや。


小屋の扉を開けた先に、見知らぬ顔。この小屋の所在を知る者は多くはないはずだが……?



見つめること十数秒。隣にいるわたくしに声もかけず。その女性をわたくしと勘違いしている可能性が少しずつ――





流石にそこまで目は悪くないつもりだよ?





君も隣にいるなら返事のひとつくらい、したまえよ。





コホン。





失礼。それで、あなたはどちら様かな?





申し遅れました。役所の庶務を担当しているものです。





ファンバルカ様に新しい依頼の件でお伺いしましたが、留守でしたので待たせて頂いておりました。





ほう! ではビエネッタ君が応対をしてくれたのだね? 僕のいないところで。





成長したものじゃないか。茶は出してくれたかね?





ええ、滞りなく。





その……確かにいただきました。お茶の葉を。お土産にどうぞ、と。





だいぶセルフサービス





さてさて。役所の依頼だって? やけに頻繁に飛び込んでくるね。普段はこちらから伺いに行ってるじゃないか。





上からは、飛び込みの仕事、と伺っております。





この間の仕事から3日と経っていない。まさか、手に入れた「目」のことがバレた……?





いや。用心に用心をいれた。これでバレていたら、絶望しかない。





話を、聞きましょう。





わかりました。





今、役所に中央都市カディナスから視察にいらした、ドネル伯が滞在されています。





公務を終え、明日には中央へお戻りになります。





我々からの依頼は、彼の護衛。無事に中央までドネル伯を送り届けて頂きたいのです。





これは責任重大だ。





しかし、こんなしがない人形遣いに頼まなくとも、君たちのところには優秀な人材が揃っているのではないのかね?





何分急な話でしたので……皆、それぞれの仕事がありまして。申し訳ありません……





わかったわかった。意地悪を言うつもりはないんだ。どのみち僕らに断ることはできないしね。





では早速赴こうか? 役所に行けばいいんだね? ……ビエネッタ君!





かしこまりました。お土産にお茶の葉は持っていきますか?





いらん!





しかし役所のお姉さん。君たちは処遇に満足しているのかい? 上司とか……





上司というとペルナード市長のことでしょうか?





市長は、この中央から離れた辺境で、町を適切に守っておられます。





近隣にはいくつかの盗賊団が未だ野放しになっており、町の守備が強固でなければ簡単に蹂躙されていたでしょう。





アグウィが町として存続できているのも、市長のおかげ。我々職員を始め、皆感謝していますよ。





なるほどね……市民の信頼は厚い、か。





ファンバルカ様は? 市長の政策にご不満が?





……





いや、そういう不満はないよ。……そもそも、僕は森住まいで市の恩恵はあまり関係ないしね。





ご隠居生活も板について参りましたしね。





わくわくワイルドライフと言ってくれたまえ。





あなた方は……





あなた方は、どうして役所の依頼を引き受けてくださるのですか? わざわざ遠いところからお出でになられてまで。





職員のわたしが聞くのもおかしな話ですが……





その様子じゃ、詳しい説明は受けていないようだね。





そうだね……





僕は昔、大きなポカをしたのさ。それをペルナード氏に救ってもらったってことになるのかな……?





救って? いやしかし……フフフ……





まあ、腐れ縁とでも思ってくれたまえ。





なにか深い事情があるのですね……





……あの。


しばしためらった後。



何か困りごとがあれば相談してくださいね。力になりたい、と思っています。





ハハ、ハ……ありがたいね……





力に? ではまずはわたくしを素手で張り倒すところからスタートです。相撲を始めましょう。





ひゃっ!? ちょっと、なんですか!?


恐ろしげな力で肩を包み込みピクリとも離さず。



助けてェェェ





余罪を増やすんじゃない増やすんじゃあない!


慌てて止めに入り、ビエネッタ万力を解除する。



はあ怖かった……もう、先に行きますからね!


その背中を見て、思う。



力になる、か――ああ……暖かいじゃないか……





だが――――





ファ――



素早くビエネッタの腕を取る。何か、口にするのを遮るかのように。



――――


目、である。前を歩く職員の背中に、超常の目が付いていたのだ……!
ギロギロとせわしなく左右を窺い、怪しげな所作を見つけようものなら捕らえて一飲のみにしてしまいそうな捕食者の瞳。



目が……見えます……





ああ。やはり監視しているか……





僕にはぼんやりとしか感じられないが、君は見えるようになったみたいだね。





これは大きな武器……さ。





? どうしました?





いや、なんでもない。


職員が振り返れば、先程の緊張感が嘘のように、怪しげな気配は消え去った。



そうですか。では行きましょう。道草をしている余裕はありません。





そうとも。時は金なり、だからね。





君たちの力は借りられない。本人の意思がどうあれ、奴の息がかかった者はね……





僕らに味方はいないのさ。わかっていたことだよ。


そして歩もうとするその時に、僅かな違和感。
先程つかんだ手が、まだ残って――



おや――


違う。先程は、“掴んだ”はず。けれど今は――



――――





……





――――


続く
