06 抗争鎮圧作戦 その1



さてビエネッタ君。右腕の調子はどうかな。





動力管と操作糸、スプリングの接続は良好なようですね。拳で壁を破壊できるか試してよろしいでしょうか?





待て待て。





住宅価値を下げられてはたまらない。それよりも、ほら――


無予告でボールを放り投げる――
鮮やかな手刀がボールを真っ二つにする――




応答速度がわずかに上がっているようです。





気づいたかい? さすがはビエネッタ君。





連結の機構を見直したんだ。今までのやり方はどうしても力の逃げてしまう部分があったからね……





感想を教えてほしいな。データでは6%ほど出力アップできるはずだが。





素晴らしいです。では左腕も破壊しますので付け替えましょう。





待て待て待て。





無計画な部位の交換は認められないねえ。資金は無限じゃないんだよ。





ファンバルカ様が働いて稼げばよいのでは?





正論を言うんじゃないよ。僕の逃げ道がなくなるだろうが。


やれやれという首振り。



では、わたくしが念入りに逃げ道を潰して……





ヤメロ! フリではないこれは……! そういうあれではない!


にわかに降って湧く家計の危機――



またしても町だよ。





ようこそいらっしゃいましたファンバルカ様。





ん? ああ……ご丁寧にどうも。





いやいや、ビエネッタ君は僕と一緒に来たでしょ。なんか変じゃないその歓迎?


道具屋――



ごめんください~~





どうも、いろいろ揃ってるよ。





! ……





さあて繰糸の4番と7番が欲しいのだが。見つかるかなあ~? ビエネッタ君も探してくれたまえ。





これですか?


業物包丁「北吹雪」



いや違うが。無知にしてもひどすぎる。


ガサゴソと店の品物を物色する。
と、その時。



あっあんたは……!





!





悪魔! 町に来るなと言ったろう! 出ていけ!


出会い頭に苛烈な非難。彼もファンバルカの過去を知る者か――



買い物が済んだら出ていくさ。少しくらい我慢してくれよ。





なんだその反応は! わかってんのかお前、喧嘩売ってんのかお前!





お客さん……ここは道具屋だぜ。組み手がしたいなら修練所にでも行きな。





い、いやすまん……だが、こいつはあのファンバルカだぞ。





知ってるよ。金を払ってくれる限りは……どんなやつだって俺の客だよ。





はっ……そうかよそうかよ。嫌なら俺が来るなってか? 二度と来ねえよこんな店!





……





済まないねシトロボ。かばってもらって。





別にお前のためじゃねえ。得意先が一つ消えるのはこちらも損害だって話だよ。





俺は俺の信念で……人を見てるつもりだからな……





……恩に着るよ。





ファンバルカ様には友達がいませんので、ぜひ今後も仲良くしてください。





ビエネッタ君、君は敵なのか味方なのか。





おとうさ~~ん! お客様来てるのーー?





!


階段を駆け下りる音。



わあ、やっぱりファンバルカさんだ。





アーリカ君?





声が聞こえたから、そうかなって。急いで降りてきたんです。





ふふふ、それはうれしいね。





若いレディからの待望とは感激の極み。僕になんの用かな?





いえ、ファンバルカさんにはあんまり用事がないんですけど、これ。





そうなの……で、これは?


紙袋を受け取ったときのファンバルカの表情は、彼の名誉のためにもここには記さない。



これは服……かな。





ビエネッタさんにどうかなと思って。古着で申し訳ないんですけど。





ご丁寧にありがとうございます。わたくしの装いは上下合わせて3パターン。これでバリエーションが増します。





そうですよファンバルカさん! ひどいじゃないですかビエネッタさんは年頃の女性なんですよ!





おうおう、悪者は僕か。





ともかく助かったよ。僕はおしゃれには無頓着だからね。気にしてもらえると、とてもありがたい。





お人形屋さんなんだからもう少し気を使ってくださいね。





ビエネッタさんだって、ずっとずっと可愛くなれるんですから。





僕はお人形屋さんというわけではないが……





ビエネッタ君の件は同感だ。次から気にしてみるようにするよ。





買いたいものも買えたし、それじゃまた。





ああ、達者でな。


店を後にする二人。温かい対応に少しだけ足取りは軽く。いるのだ。少ないとは言え理解者が。



ふふふ、いい人達だったね。





さてビエネッタ君。少し相談がある。





はい。





君には一定時間、見たものを残しておける機能が備わっている。





これから役所に行くが、今から帰ってくるまでその機能を起動しておくように。





――――





質問はいらない。また、役所ではそのことを、絶対に口に出すな。





――「命令」だ。





かしこまりました。


アグウィ市役所第三庁舎前――



今度の楽しい楽しい依頼は何かねえ~~心躍る冒険を期待しているよ。





それならば、ドラゴンの巣飛び込みコース、人間大砲打ち出しコース、強酸性毒沼遠泳コースがありますが。





人間と人形にクリアできるものにしてくれたまえ。


カルネー市の西の食料倉庫。第四倉庫にて動きあり。監視を怠らず事に当たること。



……これだけ? 目的がわからないが……





!





うぐっ……





やれやれ……またしても、乱暴な招待だね……


再び闇の大トンネルに吸い込まれた二人は、謎の空間へと放り出され、受け身も取れずに転がる。



やあ、ファンバルカ君ようこそ。



またしても怪人がなでている! ビエネッタの髪を……



それで……今回は、何だ? この間会ったばかりだろうが。





そう、つれないことを言うものじゃないよ。君とビエネッタ君に早く会いたくなったのさ。


ククク、と一人笑い。



本題に移ろうか。……役所の依頼について補足をしようと思ってね。





カルネー市には2つの有力な貴族がおり、互いに対立している。





我が市は、彼らの抗争の情報を掴んだのだよ。





例の倉庫で、数日以内に秘密の取引が行われるようだ。そしてそれはわたしが思うに……決裂する。おそらくね。





そうなれば殺し合いを含む争いが起こる。君にはそれを止めてもらうよ。





いやいやいや。それは憲兵の仕事だろう。なぜ僕に?





あまり公的な組織を動かしたくなくてね……どちらかに肩入れしたと思われても困るのだよ。





それにしたって僕はただの人形遣いだぞ? 抗争を収めるなんてとてもとても……





謙遜が好きだねえファンバルカ君は。なんのためにこの稀代の傑作がいると思っているんだい。





――――





使いなよ人形を。その素晴らしき力を行使し、弱者を蹂躙し畏怖を植え付けるのさ。





ビエネッタ君はそんなことに使う道具じゃ……ない……!





ほほーーう? ではここで首を引っこ抜き神秘の中身の解析に





ヤメロ!!





わかってる……やらないって言ってるわけじゃない……やってやるよ!





ニコニコ





ニコ





ならいいんだよファンバルカ君。





じゃあしっかりやりなよ。





イテテテテ……





ファンバルカ様、またお倒れに……





なぜ、わたくしも倒れているのですか。





もしやファンバルカ様が邪術を。





僕は人形遣いだぞ。邪術は専門外。……よっこら。


地面に手を付き立ち上がる。



君は重量がある分、立ち上がるのは困難そうだね。どれ、手を貸してあげよう。





ぬおおおお重いぃぃぃぃ成人男性の力をもってしても……! まるでびくともしぬぁぁぁ





意義を申し立てます。ファンバルカ様の筋力は成人男性の平均に程遠く、「成人男性モドキの力をもってしても」というのが正しく、





寝っ転がって何だか言ってる他に、やるべきことがあるんじゃないのかなああぁぁ


腕を引っ張っては微動だにせず、カブ抜きのような攻防戦がしばらく繰り広げられた。
続く
