“暴走小説家
桐谷葉子”



わー、良い音。あと…なんでだろう、懐かしい匂いがする





キャベツが実家の福島のだからかな。大事に使ってるよ…あ、そうだ





飲んだことある、エイセン?葉子はい
わき育ちだからあんまり縁なかったか?





いや、飲んだこと無いけど知ってる~。会津若松の銘酒じゃない!
…まさかコレも?





わー、ごちそうさまでーす!





あー、最ッ高。もう一杯





早いな。そんなに飲むヤツだったっけ?





15年経てば人は変わるもんよー。孝志は真っ直ぐになったよね。
付き合ってた時はもっと自己中で嫌なヤツだったよ…





言うねえ(笑)葉子はそういうストレートなトコ変わらないよな。だからまっすぐに小説家の夢叶えられたんだろうな





…やっぱり知ってたんだ





これだけ世間で騒がれてるとねえ。まあ、マスコミの言う事なんてどっからどこまで本当かわからないけどさ





まだ記事見てないんだよね。読んで良
い?





どうぞ


“暴走小説家
桐谷葉子”



人気小説家、桐谷葉子(38)は不倫関係にあった編集者Aと別れ話のもつれでA宅に侵入。妻と口論の末にそばにあった置物で殴打し軽傷を負わせ逃亡、警察は傷害事件として現在都内中心に捜査中…





おお、いつの間にこんな悪人面撮られてたのかな?もっとちゃんとしてるよね私!?





まあ、面白おかしくしないと新聞売れないからな





ねえ。この話、本当かどうか知りたくないの?





どっちでもいいよ





うふふ、つれないなあ。そういう変に
気を遣うトコは昔のままだね





わー、上手上手~





プロだからね、一応





もう一杯





ピッチ早くない?コレ口当たり軽いけ
ど結構強めの酒だよ?





いいの、酔いたいんだよー。
せっかくこうして奇跡的な再会出来たんだからお祝い、ね?





知らねえぞ





ねえ、どうして私たち別れちゃったん
だっけ?





さあ、どうしてって聞かれるとわからないな。
付き合いの中できっといろいろな事が重なったんだと思う。もう食えるよ





いろいろって何よ?具体的に答えて





えーそうだなあ、葉子の文才への嫉妬、自分の道を見つけられない苛立ち、あとは…よそう。苦い話のタネばっか食わせるのも毒だし、冷めないうちに食べて





あー、何か今の粋な言い回しの感じ、浅草っぽいなあ。東京に染まりやがって!
え、えへへ。美味しそう、一緒に食べようよ。こっちこっち





…


続く
