暗躍展覧会 その6



はぁ、はぁ、いつもにもまして、シビアな戦いだな……!





――――





ヒィーーヒィ~~~!


地下牢では、未だ激戦が繰り広げられていた。すでにリチャードはいくつもの切り傷を負い、満身創痍である……!
リチャード、スネイク。二人の実力差は如何ほどのものなのだろうか。もし、拮抗していたら。まして、リチャードは丸腰である。このままではいずれ――



はぁ……だが、やすやすとやられてやるわけにはいかんな――!


その闘志、少しも弱まることなく……!



しかし、ここが牢屋でよかったな。もっと広い空間だったら、抵抗のすべなどなかったかもしれない……


スネイクは機動力を活かし、斬りかかっては回避、斬りかかっては回避し、じわじわとリチャードの体力を奪っていく。
しかし、狭い牢屋内の戦いのためか、十分に動き回れていないようだ。



そこが、突きどころ……だな。おい! あんたも手伝ってくれ!





へ、お、俺?


リチャードは攻撃を避ける傍ら、床に転がっている遺体を蹴り飛ばし始める!



ひえええ罰当たり……!





あっ ……これは――


スネイクの動きが明らかに精彩を欠く! 床の障害物のせいでうまく動けないのだ。



わ、わかった。俺も震えてるばっかじゃいけない……!


障害物をうまく配置し、スネイクの足場を奪っていく……!



があああああああ!!





鬼ごっこは終わりだ! 覚悟しろ!





ぐあっああああああっっっ!


抑え込む二人に対し、ナイフを無茶苦茶に振りまくる……!



…………


地下の廊下を歩く怪しい人影! 手繰り屋である。
鉄格子に近づくとそこには――



――――


佇む、スネイクの姿。鉄格子に寄り掛かるように、ぼんやりと立っている。
他に立っているものは、いない。リチャードは!? 依頼請負人は……!?



・ ・ ・


何ということか。地に伏せている……!



よしよし。間引きは完了したな。





お前には引き続き駒として活躍してもらう。……さあ、出ろ。


錠前の鍵を開け、鉄格子を開いたその瞬間――
仰向けに倒れる、スネイク。これは――操られていたのではない、“意識”がないのだ!



ムッ……!





油断、大敵だな!


突如、跳ね上がったリチャードによる連撃。はかりごと……! やられたと見せかけこの時を待っていたのだ!



コシャク……! ここは引くしかないか!





待て……!


不意をついたが、有効打を当てることは叶わず。逃げられてしまった。
しかし、おかげで牢を脱することができた。反撃の、始まりである。



さて、まずは武器を回収しないとな……





時間が経てば警備もやってくるだろう。先に行っているぞ!





えっ ちょ……この気絶した人はどうすれば。





――――





運んでいけっていうのか!? うおおおおあ!


そのこだまする悲鳴を受け止めるものもなく!



なんだか騒がしいな。何事だ?


個室にて、椅子に腰掛けていた兵士。外の物音を聞きつけ扉に近づが――



騒ぎの理由を知りたいか?





その声は!





それはね、こういうことだーーァ!


蹴り飛ばした扉が、一瞬硬直した兵士の顔面に容赦なくぶち当たる!



ぐおおおおおああ!





う、う……くそ……


しかし、所詮は木扉。甲冑に身を包む兵士を気絶させるには至らなかった。ふらふらとしつつも立ち上がろうとする。
そこに……! 相手の首に腕を回し、力いっぱい締め上げる!



や、やめろ! やめ……!


ヘッドロック! 崩れ落ちる兵士。それを尻目に部屋を見回すリチャード。
周囲の棚に、剣や槍が無造作に立てかけられている。武器庫のようであった。



武器の代わりになるものでもあれば……と思ったが。





やはりお前との腐れ縁はまだまだ続きそうだな? “ロドプシン”――


つかつかと棚の一角に歩み寄り、剣の一つを取り出す。赤き刀身。リチャードの愛刀である。



ポポーーーゥ!


そこに現れる、いつぞやの小動物。足首に、何やら手紙がくくりつけられている。



むっ アルマドから返事か。打開策が書いてあればいいが……





なになに? 解除のキーワードだと? 厄介な……





ふーーふーーあの男、とっとと先に行ってしまって……おかげでこっちは、大変……





――――


気絶したスネイクを引きずるようにして進む依頼請負人!



こんな状態で誰かと遭遇したら……幸いまだ誰とも出会っていないが……





では我とこんにちはだ。





魔界の門を開く三ツ首の獣の咆哮


物陰から現れる手操り屋……! 待ち構えていたのか!?



ぐああああああああああ!


依頼請負人の様子が豹変する!



チィ、貴様の方だったか。駒は……まだ寝ているのか。





見つけたぞォォ!!


廊下の端から、リチャードが姿を現し駆け寄る!



ここで対決するつもりはない。さらばだ。


手繰り屋が身を引くと、そこには階段……! 止める間もなく登って行ってしまう。



くっ追いかけたいところだが……!





うわああ、ああああ……!


苦悶の呻き声をあげる依頼請負人。彼とも戦わねばならないのだろうか。リチャードは武器を構え。依頼請負人は、



おおおおおあおああっうおおあッッ


殴り始めた。―――己の体を。



!!?





うおぁっ ぐふっ や、やめ……





や、やめろーーーウォーーー!





やめろも何も……


自分である! 殴っているのは!



(ポカン)





やめろ、やめろやめろそんな術、俺には……





体に無数の殴打跡……術を食らった後のスネイクとの反応の違い……





もしかして、効かない、のか……?





だから牢に閉じ込められていた……?


徐々に理解の色を示すリチャード。
術とて万能ではない。催眠のかからぬ相手もいよう。彼の行動は、さながら強烈な拒絶反応とでも言うべきもの……!



う……うわ……


うわ言のように喚きながら自傷する依頼請負人の襟首を掴み――
容赦ない張り手……!



い、痛、えっ 何? えっ!?





何? 痛ッッ ものすごく痛い、全身がものすごく……! 気絶しそう……!


正気を取り戻し、同時に己の痛みに気づく依頼請負人と。隣ではなぜか薄く微笑むリチャード。



こいつは突破口かもしれんな……


続く
