術理概論 その1



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王都中央を走る大通り。様々な露店並ぶ飲食店街を東に抜け、階段を下るとそこは。
博物館、美術館、そして大学……文化的な施設の並ぶアカデミックエリアに到達する。そしてその一角。
本、本。右も左も本に囲まれた空間。少しカビ臭い匂いの漂う厳粛な佇まい。そう、ここは――
―都立図書館ヒストリア―!



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図書館を歩むのはブラックガードの頭脳、アルマド。何か調べ物だろうか。
と、そこに。



えーと。風水術、風水術……あった。この辺か。





おっ





あっ





リチャードんとこの。奇遇じゃねーか。図書館に用事かい?





どうも。調べ物で少し。あなたは何用で? 図書館にいらっしゃるなんて、少々意外で驚きました。





ひでえ。俺にだって研究欲くらいはあるわさ。





風水術の幅を広げてぇんだよ。俺はどうもぶっ放すくらいしか能がないからよ。





ええ。この間の戦いでそれは存分にわかりましたよ。……クスクス。





あっまた馬鹿にしやがって。もう許さねーぞ。たたんでやる、たたんでやる。そこでじっとしてろ。





ちょ、ちょっとこんなところで暴れないで。





じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ほら、ほら! 係員さんの絡みつくような視線! 場所を移しましょう!


図書館内カフェ 森の小窓



ひゃ~~~うめーー! 甘すぎなくて飲みやすいカフェオレだな。





俺、こういうのてんで無頓着でさ。この店も入ったことなかったんだ。





あんたは女の子連れて、こういうとこよく出向いてるんだろ? よっニクいね! ごちそうさん。





してませんってそんなこと。何を根拠に判断してるんですか……





ちょっと待って。どさくさに紛れて何でおごってもらおうとしてるんですか。ダメです。





???





そんなショックを受けたような顔されても。





それはそれ、だ。あんた魔術師なんだろ?





こっちの魔術師と知り合うのは初めてなんだ。色々話聞かせてくれよ!





その口ぶりからすると、あなたはリーグレン出身じゃないんですか?





ああ。俺、エドリアの生まれなんだ。風水術も生まれの村仕込みのやつさ。





お隣の、砂漠の帝国ですね……





魔術と風水術。体系は違うけど同じ術理原則には基づくはずだろ。何か使えるヒントがもらえるんじゃないかってね。





研究熱心ですね……いいですよ。協力しましょう。





そうこなくっちゃ!





あんたさ、確か大規模魔術の使い手だったよな。





でもさ、回復術とか撹乱系の術とか使うやつもいるじゃん。それって何が違うの?





ああ……精霊との契約の話ですね。





我々魔術師は、最初に師事する精霊を決めるんですよ。





炎や氷、物理現象を操るならドルトムストン。治癒、肉体強化系ならウィシルス。運や呪術の類ならヴァ。





精霊を選び契約が済んだあとは、基本的に変更が効きません。……もっとも、それぞれの修行が忙しすぎて、多方面に手を出している余裕なんて、そもそもないんですけどね。





ほーん……術士が師事する精霊ね……





あんたも信じてるの? なんだっけ、ドル、えっと、





ドルトムストン。





当然でしょう。わたしの術の源なんですから。今も、この空間に数多くいるのを感じ取れますよ。わたしにとっては、空気のようなものです。





えっ 精霊って一体じゃないの?





もちろん。一体だけだとしたら、術士が同時に術を使うことなど不可能になってしまうでしょう……





この世界には、無数の精霊が存在しており、契約を行うことでそれらの姿が見えるようになるんです。





へーーーっ 面白いな! 風水術とだいぶ違う。





よしわかった。決闘しようぜ!





ちょ、ちょっと待ってください! なんでそうなるんですか。





小難しい理論を聞いたあとは実践に限るぜ。ちょっと思いついたこともあるし。術理合戦と洒落込もうぜ!





嫌ですってば!





先行ってるぜ!





……行ってしまいました。





やれやれ。思い込みの激しい方だ。わたしが後をついていくわけないでしょう? 面倒事は嫌いなのですから……





ん?


何気なくテーブルに目をやると……!
残された食器の数々。



あっっ食い逃げ……ハッ!?


彼は己のミスに気づく。お店において言ってはならない言葉。途端、店内の空気が変わり。わらわらと集まってくるスタッフの皆さん!



お客さァ~~ん……





お支払いは……キチンと……してもらえるんでしょうねえええ~~~~?





~~~~~~!!





これは……後を追いかけないといけない理由ができましたね……!


続く
