不眠症の盟主の治療を決意した翔子とリリアだったが、盟主本人からはその事実を耳にしていない翔子は、本日の仕事内容を聞くついでに本当に不眠症なのか彼に確認してみることにした。
不眠症の盟主の治療を決意した翔子とリリアだったが、盟主本人からはその事実を耳にしていない翔子は、本日の仕事内容を聞くついでに本当に不眠症なのか彼に確認してみることにした。
今は朝の8時。すがすがしい朝の風が吹くいつもの朝。
まだこの時間は皆は朝食の時間でもある。盟主の屋敷で働く騎士や兵士も食堂で朝食を摂っている時間だ。
彼女らも朝食を摂る為に1階の食堂へ向かった。
朝の食堂は非常に賑やかで、そしていい匂いだった。焼き立てパンの匂いが翔子には良い香りに感じる。
元居た現実世界でも、彼女はパン屋のあの独特の小麦の匂いは心地よく感じて、よくパン屋には足しげく通った記憶がある。
食堂にはその他にもスクランブルエッグの匂いや、オリーブオイルで炒めた野菜の匂いなども感じることが出来る。屋敷勤めの兵士たちは、兵士独特の汗臭い匂いはあまりしない。
まだ朝だからだろうか?夜勤明けの兵士もいるはずだが、いわゆる臭い匂いはしない。
翔子はリリアと共に朝食を食べた。割と栄養バランスは考えられているメニューだ。
リンゴのデニッシュとスクランブル・エッグ、オリーブオイルで炒めた野菜の炒めもの。具はズッキーニやパプリカ、人参、ピーマン、ほうれん草など緑黄色野菜中心。スープはオニオンコンソメスープとミネストローネを選べるらしい。
翔子はミネストローネにした。生のトマトは苦手だが、ミネストローネなら食べられるというのが彼女らしい。
それにしても気持ちいい朝だ。太陽は眩しく、風に踊るレースのカーテンが綺麗に揺れている。賑やかで穏やかな朝だった。
ここには盟主は姿を現していない。
理由は簡単だ。彼の場合は味覚も聴覚も発達しているので、こういう多人数の場での食事は一切しない。
それは翔子にも言える言葉なので、その気持ちは解らないではない。
朝食を摂り終わった彼女達は、今日の下働きの内容を確認するために3階へ階段を上っていく。
丁度、彼の執務室から彼が食べ終わった食器をトレイに載せたメイドが去るのを見た。
ちなみにこの屋敷は1階が主にメイドが仕事をする場所で、屋敷へ勤務する兵士の休憩所もある。
2階になるとそこは主に彼の仕事で使用する書庫や、風呂場や、いわゆる生活スペースになる。
3階は完全に盟主のプライベートの場所で、ごく限られた者しかここは通らないし、出入りも自由ではない。
程なく執務室にたどり着くと、彼女らはノックを3回して入室した。



おはようございます。レム様





おはよう。二人とも。今日はいい朝だね


珍しくデスクから立ち上がって、窓の外の景色を眺めているレム。
手にはマグカップが握られている。この匂いはコーヒーかな…と翔子は思った。
彼女もモーニングコーヒーは好きだ。現実世界では毎日のように駅のキヨスクでコーヒーを飲んでいた。



本日の仕事は何ですか?





そうだね…。そろそろ翔子にはあの森への探索をしてもらおうかな





あの森?以前、立ち入り禁止になっていた森ですか?





そう。今日はその森で魔装銃のテストをしてきてもらう。あの森には丁度おあつらえ向きの魔物が棲息しているからね





ちなみにその森は、様々なハーブや花、珍しいキノコとかが自生しているんだよ





レム様、こんな質問していいですか?





何だい?





不眠症を患っていると聞きました。本当ですか?





……。まあね。医者にも診断してもらったけど、治らないって言われたよ





何なら、その不眠症を改善させてもらえませんか?





私の不眠症を君たちが治すって言うのか?自由にしてみるといい。1階で待機するメイド達に私の症状を聞いてみるといいんじゃないかな。あんまりあてにはならないけど





その代わり…その間、セックスはやめてもらえませんか?





交換条件か?私の不眠症を治して、君たちは私にどうしてほしい?





強姦みたいなセックスはして欲しくないです…。きちんと優しい愛に満ちたセックスを私達はしたいんです





……。不満なのか?





女性なら誰でも不満になります。あんな”強姦”みたいなセックスなんて





なら、私の不眠症を治して見せることだな。それが私からの”交換条件”だ


三人の目にはそれぞれ挑戦的な輝きを宿した瞳があった。
不敵な紫色の目と、挑戦的な緑色の目と、冷静な茶色の目が、そこにあった。
そうして、翔子とリリアはその”薬草の森”へと入る。
この街の近くというか、身近な場所に、こんな”薬草の森”が存在するとは驚きだ。
静かな木々の聖域。だが、ここには弱い部類だが魔物が生息する森だった。
鳥がさえずる声が聴こえる。小動物が鳴く声も聴こえる。静謐な森だった。流れる空気もとても澄んでいる。せせらぎが流れる音も聴こえた。
翔子はまずその発達した嗅覚で見つけた植物は、ラベンダーだった。特徴的な紫色の花も咲かせている。
近くにそびえたつ樹はサンダルウッドと呼ばれるビャクダン科の木。



早くも知っているハーブを二つも見つけたわ。本当にこの森は”薬草の森”なのね





翔子ちゃんはもしかしてハーブとか植物に詳しいの?私は気にも止めたこともないから解らないけど





うん。アロマにも詳しいよ。植物もアロマテラピーが縁で覚えたの





凄いね~





あれ?この足元に生えている植物は、ゼラニウムだわ





ゼラニウム?





この香りね、女性特有の悩みにうってつけの植物なの。単体で使ってもいいんだけど、複数のアロマオイルを組み合わせるとより効果的なんだよ





ねえ?リリア?





なに?翔子ちゃん?





この国にアロマのエッセンシャルオイルって売っている?





香りのオイルですよね。確か、調合屋さんで見たことがあるよ





後で寄って見ていい?





何かいいこと思いついた?





私さ、アロマテラピーを自分の治療に用いたことがあるの。体にもいいし、何より薬よりも安全なの





面白そうだね。私にも教えて欲しい





うん。わかった





それじゃあ、まずはその魔装銃のデータを集めようよ。確か、戦闘経験を積めばそれがデータになると思うよ


彼女らは森の奥深くまで進む。木々の緑色がだんだんと深みを帯びた深緑になってきた。
翔子とリリアは協力をしながら、その生息している魔物を退治して、戦闘データを収集していく。
その間にも翔子は知っているハーブを見つけ出していく。
レモングラスやメリッサと呼ばれるレモンバーム、綺麗な花も見つけた。
南国で自生するイランイランという花、ネロリというミカン科の真っ白な花まで咲いている。
この世界…というかこの森は、本当に”薬草の森”みたいな場所だ。
そうして指示された戦闘データの収集を終えた頃には、綺麗な白い花で満たされた平原が広がっていた。
カモミールの平原だ。深呼吸をすると、リンゴのような甘い香りが胸いっぱいに広がった。



綺麗ね~!カモミールの平原なんて見たこともないわ





この白い花、カモミールって名前なのね。綺麗な香りだし、可愛い~





お茶として飲むのも健康にいいんだよ~?





どういう風にいいの?





主に精神的なイライラに効くのよ。それに睡眠にもいいのよ。実際、そのハーブはリラックスティーとしてはポピュラーなのよね





そうなんだ~。少しだけ摘んでいっても文句は言われないよ?





じゃあ…少しだけ摘んで持って行こうかな。生のカモミールティーは効果抜群なんだよ


そうして、翔子はそのカモミールの花を10個くらい摘んだ。
それを大事に、紙に包んでアイテムポーチの中に入れた。



じゃあ、帰ろうっか?





うん。これで今日の仕事は終わったから、魔物からいただいたお金でそのエッセンシャルオイルを買ってみよう?





うん!


街の入り口まで歩いて帰った二人は、レムレースの調合屋へと足を向ける。



ここが調合屋。主に薬物の調合をしている専門店なの





いらっしゃい!





わあ~。本当にアロマの専門店みたいだね


そこには所狭しと、様々な調合に使っているあらゆるアイテムが置いてある。
全部、あの”薬草の森”で見かけた物ばかりだ。
翔子はそこで、約10種類のアロマのエッセンシャルオイルを購入した。
それから彼女は更に、蜜蝋というビーワックスと、オリーブオイルも購入した。後はエタノールとグリセリン、スポイトなども買う。



蜜蝋なんて何に使うの?





アロマバームを作ってみたいなって





クリーム?





うん。これを身体のマッサージに利用すれば気持ちいい香りと一緒に肌にもいい即興クリームの出来上がり


屋敷に帰る頃にはもう夕暮れ時だった。
そうして、屋敷に帰ると、翔子は自分も作ったアロマバームをここでも自作してみる。
やり方は簡単だ。蜜蝋は熱湯があればすぐに溶ける。
オリーブオイルの中に蜜蝋を入れて、溶けるまで湯煎にかける。その間にエッセンシャルオイルを選んでおく。
彼女が使うのは、レモングラスとクラリセージとラベンダーとローズオットーの4種類。
蜜蝋が溶けたら粗熱を取り、約1分後にはエッセンシャルオイルを手早く入れる。
蜜蝋は思っていた以上に固まるのが速い。そうして固まり始めたら後はガラス製の容器に、スパチュラで入れるだけ。
これであっという間に特製クリームの完成だ。
その間に、盟主レムの情報をメイドから聞く。



レム様の生活習慣ですか?あの方は、まず湯船には滅多なことで入りませんね。いつもシャワーで済ませていますよ





ものすごい偏食な方で、とにかく生野菜は大嫌い。火を通していないと安心しない方です。魚よりも肉、それに野菜も根菜類がとにかく苦手です





味が薄いのに慣れていないのか、割と味は濃い目ですね。辛いのが大好きな方です





やたらとコーヒーが大好きな様子で、紅茶も好きな方ですよね


翔子が思ったことは、これで健康でいるのが怖いである。
まあ、私が書いた”主人公”だ。覚悟はしていた。
でも、まずは試しに1週間。これで彼の不眠症を治してみようと思う。
幸い、自分よりかは食べ物の好き嫌いは激しくない様子だし、五感が発達しているぶん、嗅覚にも敏感だろうし、まずはこの特製クリームで出を窺ってみようと思う。
その前にリリアにこれを塗布してもらう。



ねえ、さっき作ったこのクリーム、塗ってみてくれない?





翔子ちゃん特製クリーム?さっきのね!





わあ~、いい香り~。これって薔薇の香り?





ローズオットーの香りだよ。メインの香りがローズで、ラベンダーとレモングラスとクラリセージが隠し味





意外にハードタイプね。クリーム





それをこうやって手に塗るといいんだよ~


翔子はそうやってリリアの繊細な手をクリームでマッサージしながら、馴染ませてみた。いい具合に出来上がっている。
柔らかいローズの香りが広がる。優雅な気分がする。指の凝りをほぐすように丁寧にマッサージする。爪にも使用できるので、彼女の爪もお手入れする。



気持ちいい~。これであの方の身体をマッサージするのね





そういうこと





それだけで済めばいいけどね





あんまり期待しない方がいいかも知れないね…


そして夜が来た。彼もまた随分と今日もデスクワークをこなしたらしい。肩が凝ったように触れている。
その場面を戦闘データの提出の為に現れた翔子は出くわした。



だいぶ、お疲れの様子ですね。レムさん





ああ、翔子か。そうだね…だいぶ肩が凝っていてね





魔装銃の戦闘データの提出に来ました





助かるよ





あの、私、肩こりにいいもの持っています。今夜、マッサージしてあげましょうか?





へえ…?マッサージとはまたいいものを知っているね。頼まれてくれないかな?





では、今夜9時頃、お邪魔します





待っている


そして、9時頃。屋敷が静寂に包まれる頃、夜空に下弦の月が浮かぶ頃、翔子は例のアロマバームを持って、彼の部屋に来た。
既にノックしないでも部屋に入ることを許された彼女は、合鍵を貰っていた。
その合鍵で部屋の鍵を開ける。そして忘れずに鍵を閉めた。
執務室の奥のベッドルームに向かう。そこには妖しく輝く銀髪をタオルで拭いている彼の姿があった。丁度、シャワーを浴び終えた直後の様子だ。



こんばんは。……綺麗ですね





どこが?





……その髪も、姿も。お気に入りのクリーム持ってきたんです。さっき言った肩こりに効く





それかい?





匂いもいいんです。気に入ってくれると嬉しいのですが…





ローズの香り…それに…何種類かの香りもあるね





いかがでしょうか?





それもいいね。塗ってくれるかい?





すみません。上半身裸になっていただけますか?


レムは何かを期待するように、そのバスローブを脱いで、己の肌を晒した。



やっぱり…誘っているようにしか…見えない…


彼の細身の身体には本当に無駄な贅肉が付いてない。その身体が夜で明かりもほとんどない部屋では青白く見える。
翔子は特製クリームを手に付けて、遠慮がちに肩に触れて後ろから凝りをほぐすように馴染ませた。
ローズの優雅な香り、だけどこの二人の間では、甘い誘惑の香りのようにも…。
恐ろしい肩の凝り具合に思わず、本音を漏らす翔子。



随分とまた凝っていますね





デスクワークを毎日すればこうなるって典型かな





首の辺りをほぐすと血液の流れが良くなります。この辺とか





気持ちいいね……肩こりってさ、何で人に揉んでもらうと…こう、気持ちが良いのかな…?





何でなのかは私は…?





ううっ……痛いけど…気持ちいい





筋肉痛の為にレモングラスを入れてみたんですよ





へえ…?そういう効果も考えているんだ…





この肩こり、毎日しないともう取れそうにないです





君がしてくれるってこと?





リリアさんにも教えておきますから





君にして欲しいなあ





このクリーム手作りでしょ?レムレースの街にはこういうクリームは売ってないと見た





当たりです。手作りのアロマバームです。これ





じゃあ…翔子特製クリームだ


10分ほどマッサージをしてだいぶ肩の凝りは和らいでいたが、彼は口実を探すように考えていた



ちょっと、疲れましたね。手が…





そのクリーム、君にも塗ってあげようか?





変な所に塗らないでくださいね





君だって肩凝っているよ?


そう言って、その特製クリームを指に馴染ませたレムは翔子の肩に触れて、お礼にと肩を揉んでくれた。
女の手とは違ってやはり男性なので、力はあるが、かえって心地よい力加減だった。
甘い薔薇の香りが彼らの夜の欲望を、甘く刺激する。
彼女の白いワイシャツの下の肩に触れている彼は揉みほぐすように肩を揉んでいる。
翔子が後ろに背を向けた。そして黙って彼のマッサージを受けた。彼女は自ら白いワイシャツを脱いで、ブラジャー姿になる。
レムは手に馴染んだローズの香りに心地よさを感じて、肩を十分にほぐした後、そのまま自らの身体に彼女の身体を預けさせて甘い吐息を吐いた…。



この香り……私達の恋の悩みの香りだね…


ブラジャーの上からふくらみを触り出す。その内、また激しく唇を絡ませ始める両者。
肩こりの解消の夜が、また淫らな夜に変貌を遂げていく。
ダメ…また、こんなキスを交わしたら…私は…。
レムの快楽に……彼の快楽に…呑み込まれて…逃げられなくなってしまう…。
そんな想いを既に知っているように、彼は甘く囁いて、彼女を罠にはめた。



もう今更、逃げられるわけがない





私という”快楽”を知った君にはそれが出来ない…とことん二人で溺れたい…私は君と一緒にね


首筋に舌が這ってくる。ブラジャーの肩ひもが下ろされて、ふくらみが露わになってしまう。
手慣れた手つきで、彼女のクリームが馴染んだ指で、今度はふくらみをマッサージするようにゆっくりと揉みほぐす。
時折、指先で刺激を与えると彼女が甘い吐息をついた。
するするとズボンに覆われた秘められし場所へ手がいく。そっとそのズボンの内側に手を侵入させてパンティーの上から触ると…彼女は熱くそこを濡らしていた…。
翔子は参ったようにその頭を枕に乗せて、彼と自分の甘い欲望を満たすことにした。
レムが今度は薔薇の香りを纏って、彼女の身体に舌を這わせ始める。
彼が胸で遊び始めた。薄紅色の乳首を丁寧に舐めて、己の舌でころころ弄る。今度は乱暴に口に含んで吸いこむ。
その度に稲妻のような快感が彼女の淫欲を満たしていく。
今夜の彼は徹底的にふくらみを攻め続けた。そのクリームが馴染んだ指には彼女の温かい蜜が絡んでくる。
そうだ……私は…胸で遊んでほしかったの…。
この乳首で…この胸で…舌で弄んでほしかった…。
私をこの愛撫だけで絶頂にいかせてほしい…!
挿入なしのセックスでも、それをしてもらえたら私は…。
その歓びを彼は自在に操った。
そして、この夜も、彼女は歓喜の叫びを上げて…挿入なしで、その絶頂へ駆け上がった。
目の前の彼は驚きの声をあげた。



すごいね。まさか、胸だけの愛撫でイッちゃうなんて…君はどうやら胸を責められるのが好きなんだね…





だけど…それだけでは足りないらしい。私はオーラルセックスが好きだからね…。私を満足させてくれよ…


今度は獣のように貪る彼の姿があった。
妖しい銀髪が股間の間で蠢いている。
彼は味見をするように…彼女の花びらを賞味している。
今夜は彼も挿入しないセックスを懇願していた。
ただ……貪るように自分の支配下に彼女を入れて、そしてこの柔らかい感触の虜になっていたい…それだけだった。
いつしか、宵闇が支配する部屋の中…ただお互いが、貪る音と甘く悲鳴を上げる声がその部屋に響いている音が聴こえていた…。
