アリスにブン殴られてフィンクスがどうやら正気に戻ったらしく、ダメージに身をよじっている。ロココがフィンクスに駆け寄るが、その後ろから威圧的な影が伸びてきた。



いてててて…………


アリスにブン殴られてフィンクスがどうやら正気に戻ったらしく、ダメージに身をよじっている。ロココがフィンクスに駆け寄るが、その後ろから威圧的な影が伸びてきた。



おっと待ちなプチ小僧。
正気に戻ったようなら
さらに躾を施さんとな。


アリスの躾(シツケ)はどうやらまだ続くようで、床で傷みによじれるフィンクスの胸ぐらを掴み引き起こした。



あ、アハ……
ハハ……





迷宮で魔物に殺された方が
ましだったと思える制裁を……





ん!?


これから血生臭い制裁が行われると思った瞬間、アリスの動きが止まる。そしてフィンクスの顔を確認するやいなや、首根っこを掴んで酒場の外に連れ出されてしまった。



ど、どこ行ったんすかね?





多分周りの目を
気にしたんじゃね。
本気のヤキを入れる為とか。





以前、アリスの怒りに触れた
冒険者がやはり同じように
連れていかれましたが、
その後その冒険者を見た者は
いないとか……。
その後、裏路地で白骨死体が
云々…………





いや、流石にそれは
冗談キツイって。





まぁあのゴリラ女なら
やりかねねーな。
控え目に言って
全身打撲くらいか。





あわわわ……





今から探索なのに
大丈夫でしょうか。





ま、全身打撲くらいなら
大丈夫だろ。
骨折なら5、6本までなら……


心配するアデルとロココを余所に、リュウは呑気にコーンポタージュに浮くクルトンに目を泳がせている。



おい、やつが帰ってきたら
すぐに潜るぞ。





くぅ~
フィンクス可哀想~。





おっ!?
アリスが帰ってきたっすよ。





ふ~。


難しい顔をしたアリスが、どこかいつも見せぬ表情をして戻ってきた。そして元の席に座りコフィンの顔をじろりと見据えた。



フィンクスは無事ですか?





ん~?


コフィンの問いに答えるでもなくアリスは眉を寄せ何かを考えこんでる。珍しい光景であるが、全員フィンクスの安否の方が気になっていた。



さぁ皆探索行こうぜ。





おろ?
フィンクスが戻ってきたっす。
意外にも無事みたいっすね。





だ、大丈夫ですか?
どこも痛んでませんか?





大丈夫大丈夫。
ありがとなアデル。





は、はぁ。





フィンフィンほんと
無理してない?
腹蹴り上げられてたり
指折られたりしてない?





流石にないって。
ほらシャセツ、
すぐ行きたいだろ。
タラトも行くぞ。





腹いっぱい……
いく。





…………
じゃあ行くか。


リュウのその声で、全員が動き始める。実はずっとリュウの膝枕で気絶していたユフィ(前回クリムゾン様に卒倒させられていた)が目覚め、顔を真っ赤にしてそそくさと準備をし始める。だが、その手元は滅茶苦茶で、短刀とテーブルナイフうを間違えていたりした。



じゃ行ってくるっす~。





御無理なさらずに。


遊びに行くかのようなハルの挨拶を返し、コフィンはゆっくりと濃い茶をすすっている。そしてアリスの視線を受けてなお、涼やかにしていた。



コフィン、
知っていたのか?





何をです?





アイツが…………


酒場を最後に出たハルの耳には、それ以降、何も聞こえてこなかった。
