あーあ。
アルザレアに戻る海は、今日もいい天気だぜ……。

アイツ、いい天気なのになんでぼやいてんだ？

こんな日の昼飯に、アルザプリンが出ちまった日には……

トイレの個室が全然開かなくなるんだよなぁ……。

いったい、どんな迷信を信じてるんだ？

おーし、飯だぞー！
今日の飯は、大王うなぎの蒲焼と、ファンガオニオンスープ！

そして、デザートにとっておきのアルザプリンだ！

ひいいぃ！
アルザプリン！？

今のうちにトイレに行かないと……

ぎゃー！！
どこも空いてないー！！

……忙しいやつだ。

ところでラムディッシュさん。

ん？

いつまでその恰好なんですか？

えー。
カッコいいから、しばらくこのままでいようかなーって。

おい、気をつけろよ、ドール。

あまり長くマグナシェルをつけていると同化するぞ？

……同化！？

マグナシェルはカタラクトのような一般的な魔導体《マグナリオン》と違って、疑似・魔導体《デミ・マグナリオン》だ。

それ単体で動作しないような作りになっている。

ヤツ……マグナシェルはコアとなる操縦者が必要……いや、欲している。

つまり、意思を持っているんですか？

意思、と表するかは難しいところだが、機構として欲しているんだ。

よくわかんないな。

マグナシェルはそれ自体に血液のように魔導パスが張り巡らされていて、それを通じて力を発揮するのだが、実はこれが厄介でな。

アーティファクトとして、2つほど重大な問題を抱えていることになる。

コアである操縦者の魔導パスが開いていると、マグナシェルの魔導パスの流れと干渉してしまい、思ったとおりに動かせないというのが、まず一点。

もう一点は、コアである操縦者のマナプールにマナが溜まっていると、それを吸い取ろうとしてしまう。結果、コアを衰弱させてしまうというもの。

す、衰弱！？

安心しろ、ドール。
オマエのマナプールは既にほぼ空っぽ。吸い取ることが困難なのだよ。

お、脅かさないでくださいよ、お師匠様。

勘違いすんな。
困難ってだけで、少しずつは吸われているぞ。

放って置くと、ミイラのように干からびて……

ひぃぃぃ……

まあ、細けぇこたぁいいさ。ドールよ、はよ脱げ。

えっとどうやんだっけ？
降魔の甲殻《マグナシェル》！停止《シャットダウン》！

ふぅ、戻った。

そうそう、覚えてんじゃん。

てなことで、魔導パスが開いていない『魔力経路不全症』の者で、マナプールが限りなく空である、ドール、オマエにしか使いこなせないんだ。

一方で、長期間のマナの利用に慣れてしまうと、『魔力経路不全症』の状態に戻れなくなってしまう。

後天的マナ依存ってやつだ。

まあ、先程のコアを衰弱させる話ほど深刻ではないが、生活に問題が出るようになる。

例えば、どうなるんですか？

通常の魔導パスが開いている者共……イサムやガラ・ヴァーノンの小倅のようなヤツラは、魔力がない状態がわからん。

これは依存状態だが、それ自体が正しい状態なので問題じゃない。

はい。

だが、オマエがマナ依存になってしまうと、シェル・ラムディッシュ状態でないと生活がままならなくなるのだ。

操縦者《コア》を衰弱させるマグナシェルを脱いで生活ができなくなる……。

これがどういうことか、よく想像しておくんだな。

万能ってわけじゃないんですね。難しいなぁ……。

まあ難しく考えるな。
今の話を聞いて、本人以外の監視の目も入ることになるだろ。

それが、説明した目的だ。

さあ、今日はもう遅い。
工房の地べたでよけりゃ、そこで寝るんだな。

ありがとうございます。
助かります。

それじゃ、お師匠様、ありがとうございました！

今度こそ、ここに戻ってくるなよ？

釣れないなぁ……お師匠様。

なあに、次こそは完璧に迎撃してやるから安心しろ。

pipipi!

そん時は俺も全力で排除しますぜ！

くっ！
さっさと行かんか！

お体に気をつけて！
お母さん！

……！

行っちまったな……。

pi-...

ったく……。

余計なところまで思い出しやがって……。

おかーさーん！！

どうしたんだい、ぼうや

お母さん！ぼく、大きくなったらお母さんと結婚するんだ！

おいおい、一体どこでそんな事を覚えたんだい？

カタラクトが教えてくれた！

何ぃ！？

pi-!

おのれ、カタラクト

お母さん、だーいすき！

お母さんも、ぼうやの事、大好きだよ！

……。

えーっと、これがこーなって、
あれがあーなってて……、
だからそれがそうなって……。

ぬ？何の音だ？

pipi-pipipipi!

どうした、カタラクト。そんなに慌てて。

Piー！

いいから来い、だって？

オイオイオイ、なんでマグナシェルが勝手に起動して動いてやがんだ！？

助けてー！おかーさーん！！

ラムディッシュ！

来い！
カタラクト！
フレイム！
コレダー！
ゲーツ！

pi!

マグナシェルの動きを封じろ！

くっ、バカな！
3体がかりなのに押されているだと！？

急げ、カタラクト！
アンチ・シェルの準備だ！

pipipi!!!

抑え込んでいる三体が犠牲になってしまうが……、背に腹は代えられぬ……

フォース・テイクオフ《強制脱衣》！

ぼうやは無事！？

うわぁぁーん……。

良かった……。無事だ……。

うわぁぁーんあんあん……。

怖かった……怖かったよね……。

ぼうや、これを見な。

お母さん、これはなに？

いいから、見るんだ。

なんか怖いお母さん。
どうしたの？

今この瞬間をもって、オマエは私のことを忘れる。

え？

安心しろ。
その結果、オマエは幸せな人生をつかむことができる。

すまない、ぼうや。

ホロウ・レコレクシオン

待って、お母さん！
僕、お母さんの事、忘れたくない！

うわぁー！

アンタはドール。アンタはアタシの下僕だ。アタシはアンタの師匠で、アタシはアンタを虐げた。アタシを恐れろ。アタシに心を許すな。

すまないね、ドール。アンタの楽しい記憶は全部書き換えたよ。

これでもう、降魔の甲殻《マグナシェル》のことを思い出すことはあるまい。

そして、アタシへの想いも……。

今のアンタの中では、
アタシは鬼軍曹さ。

ううん……。

起きたな、ドールよ。

ひっ！お、お師匠様！

居眠りとはいい度胸だな。

そんなやつはもう要らない。

ここに、ゴールデンタブを用意した。

え？

これで山を降りな、ドール。

は、はい！

……。

もう二度と来ることはあるまい。

そう思ったのになぁ……。まさか自分からここへ来ようとするとは。

pipi?

なんでドールの記憶を消したかって？

あのままの好奇心を残したままだと、アタシの知らないロスト・アーティファクトで命を落とすかもしれないしな。

pipipi!

好奇心だけを消せばよかったんじゃないかって？

そりゃあ……。

アタシにも人間らしい心があったってことさ。

マグナリアだってのにな。

……。

愛してるぞ、ラムディッシュよ。