――迷宮三階層某所。
――迷宮三階層某所。



ニック今の追撃遅いわよ。





あれで?
かなり良い感じだったと
思ったけど……





三階じゃなんとかなるけど
四階層以上の事を考えると
もっと速くしないとね。





まぁまぁ、ニックは
段々速くなっているよ。
だがツバキの言うように
もっともっと速くならなきゃな。





そりゃ僕だって思ってるよ。
こもままじゃ皆の足
引っ張っちゃうからね。





それにしても私達、
随分三階層の魔物にも
対応出来るようになったね。





初めて降りてきた時は
散々だったな。
レインさんが居なけりゃ
絶対無事じゃなかった。


若い五人の冒険者の視線は、パーティで一番上背があり屈強そうな男に向いていた。



今も酷いもんだが、
あの頃は更に酷かったな。





う~ん、
素直に喜べない言葉。





そんな事ないよ。
絶対に少しづつでも
成長してるよ。





確かに。
そろそろ四階層に
行ってもいいかもな。





嘘ぉ~?
僕まだ自信ないよ。
せめてもうちょい装備
良くしてからでも
遅くないんじゃない?





ニックは装備の問題じゃない。
絶対に当てるって気持ちが
足らんのだ。





そうそう。





!?
来る!!
数が多そうだ。





!?


迷宮の闇の奥に魔物の魔気を感知したシデンが、端的な言葉でそれを伝える。それぞれが戦闘態勢に構え、相手を確認する。



前言撤回だ。
四階層にはコイツ等を
倒してから行くぜ。


三階層に多い骸骨系のアンデッド。その頂点に位置するスケルトンキング。数多くのスケルトンを引き連れ、メナ達の前に姿を現した。多用な武器を装備し、剣による攻撃効果が薄い魔物だ。
スケルトンキング



俺とニックは榴弾矢で
デカいのを足止めする!
前衛三人で
なるべく早く数を減らす!
シデンはそのフォロー!


剣による攻撃が効きにくいスケルトン相手に、メナ達は苦戦した。
そしてメナ達よりも経験豊富なレインの活躍により、疲労困憊になりながらも魔物を討伐に到る。



はぁ~
勝てた~。





俺四階まで行ったことあるし
何回も三階にきてたけど
アイツに会うの初めてだったぜ。
四階の殆どの魔物より
強かったんじぇねーか。





あの発射される骨さえ
なければ刻弾当てれたのに。





ニックはやっぱり
貴重な榴弾矢外すしね。





やっぱそれ言う。





どんまいどんまい。
私もスケルトンに苦戦したけど
次は絶対にもっと上手く
立ち回れる気がするもん。





良いねぇ~。
メナの言葉はポジティブで
元気出る。
私ももっと強くなるよ。





そうだな。





メナの腕はまだまだだが
辛い時や苦しい時に、
前向きにさせる言葉がある。
不思議なほどにな。





やめてください。
私は皆より弱いから
気持ちだけでもって、
思ってるだけですって。





両親の手掛かりを知る迄は
強くなり続けなきゃね。





…………


メナの両親は冒険者だった。
このディープスに来てから得られた情報は、母が刀を持っていたこと。エノクに連れていかれた鍛冶屋での情報だ。日が暮れた頃に店までやってきて、刀の修理を依頼しに来たとのこと。
深刻な面持ちをしていたらしい。そこから察するに、探索で帰ってきた時、救援に行かねばならない状況になり急いで来たと推測出来る。
「きっと母は深層に向かった」
メナは自分が探索をして初めて確信した。
その理由は母が持っていた『大業物(オオワザモノ)』に分類される刀で、それはそれは珍しく鋭い斬れ味だったという。日銭暮らしの冒険者では見合わぬ逸品で、その刀が必要とされるのは一般的に深層と呼ばれる八階から十階だった。
それに今帰還したばかりの母が行かねばならなかったのは、誰でも助けに行ける場所ではなかったこと。五、六階層くらいまでなら、少し探せば救援にいってくれる冒険者は結構な数いるからだ。だから自分が帰還したばかりでも行かねばならなかった。
以上の理由でメナは手掛かりは深層にあると確信している。それを得る為に、日々強くならねばと鍛錬しているのだ。
そんなメナの胸の奥に心強い者が居た。
探索をしていれば、辛く厳しい状況など頻繁にあう。そんな時いつも思っている。
「ハルならきっと笑い飛ばしている」
自分に村を出る勇気をくれ、前向きに明るく生きていくことを教えてくれた。
それぞれの居場所があり離れ離れでお互いの両親を探しているけれども、いつも心の奥に居る。
メナは冒険者としては貧弱だけど、ハルの事を思えば力が出る。仲間と苦難を越えられる。それを知りその力を仲間に与える側に人間になるんだと奮闘し続けていた。



……ハル。
私きっと強くなる。
ハルやお母さんに恥じない
強い人間になるよ。


メナの瞳は凛としてその色を輝かしていた。
いつか再会した時に胸を張って出会えるように。そして仲間に満面の笑みを見せ、その輪の中に飛び込んでいった。
