デメルとヴィタメールが次々と賭け金を上げていく傍らで、今迄黙って見ていたダナンが口を開いた。



ようやく同じ土俵に
乗ってきやがったな。
だがよ、
楽に勝負出来ると思うなよ。


デメルとヴィタメールが次々と賭け金を上げていく傍らで、今迄黙って見ていたダナンが口を開いた。



もう先が見えてきたんで
教えてやるぜ。
そのゴードンは
俺達の二重スパイ。
そいつを使って俺達を
裏切らせたみたいに
思っているだろうが、
偽の情報を流されているのは
お前の方なんだぜ。





!?





苦労したのは
お前に追い込まれている
演技をそれとなくする事。





ッグ…………


相手の混乱を誘おうとダナンが咄嗟についたブラフだった。そのタイミングで、ヴィタメールが100万ガロンチップを2枚入れて合わせてから、更に2枚100万ガロンチップを追加した。タイミングとしては最高だった。



な、何言ってやがる!?
ギダ、騙されるな!
これはあいつの戦略さ!


ゴードンが慌てて言うが、ギダの疑心暗鬼は拭えるわけもなかった。
強気の上乗せを返す前に仲間割れを誘い、自分が騙されているかもと思わせるダナンの言葉は、効果抜群だった。



…………





し、信じてくれ……


信じてくれとしか言えないゴードンのみぞおちに、ギダは容赦ない膝蹴りを繰り出す。さらに、たまらずうずくまるゴードンを見下ろして、その頭に唾を吐きかける。



使えねぇゴミが。


と、吐き捨てるギダ。ギダにとっては真実などどうでもよく、判断を狂わせ、敵を調子付かせている現状が気に食わないだけなのだ。
ギダは今迄で一番苛ついた表情を隠そうともせずに、そして長考すると思いきや、200万を合わせて、100万上乗せしてきた。



おいおい、
終わるのかこの話。
マジで長いっつーの。


ダナンの話にそう言ったのは、ランディだったが、そう思うメンバーも何人も居たみたいだ。



俺もこの時はそう思ったぜ。
だがよ、心配には及ばないぜ。
次のヴィタメールの言葉で、
状況は激変したんだ。





何て言ったんすか?





あ~、のせてきたか。





ってな。
俺が
『どういう意味だ』
って聞いたら……





聞いたら……?





『種切れなんだ』
って、空のポケットを
ひっくり返しやがったんだ。


全員の声が酒場に広がる。周囲の冒険者も何事かと視線を向けてきたが、いつも騒がしいハル達と認識して視線を戻した。ダナンはその時のヴィタメールのポーズをとって見せている。
いきなりの劣勢、それどころか絶体絶命。間延びしそうな展開から、一挙に窮地だ。



心配に及びます。


ダナンの先程の言葉に対して、変な言葉使いをするロココ。それに便乗してハルも『心配に及ぶっす』と連呼している。



心配しか湧いてきません。


と、胸元で両手を揃えるアデル。



やっぱり長ーし。


行儀が良いとは言えぬワイルドなフォークの使い方でパスタを絡めとるランディは、そう言いながらも笑顔を見せた。
手詰まり…………
デメルもそれが分かっていたのか、



しゃーねー。
奴等の脳味噌砕いて
記憶飛ばすか。


なんて無茶苦茶な事を言っていた。
勿論ダナンがそれを止めたが、その光景に胸を撫で下ろしていたのはギダだった。



ギダは心の底から
安堵の顔を見せていたんだ。
きっと奴もギリギリで
後がなかった。
あと一歩……、
ほんのあと一歩で俺達は
届かなかったんだ。


天井を見上げるダナンは、本当に残念そうな表情を浮かべる。それから遠い目をゆっくりと閉じて、その時の光景を思い出しているみたいだった。
ダナンの話を聞く全員が、結末をじっと待っていた。
――――そしてその長い沈黙に耐えれなかったのは、やはりハルだった。



もしかして旦那達って
負けたんすか?


