――翌日、冒険者の酒場。
――翌日、冒険者の酒場。



ルグラに連絡をとり
何か知っているか
聞いてみましょう。
それまでは内密に。
明日もその刻弾は
使用しないで下さい。


リザの一件をコフィンに伝えた返答だ。
すぐにコフィンは酒場を発ち出て行ってしまった。アリスはそもそもここに来ていなかった。



私は資料室で一度
調べてみるわ。





俺も後から行こうかな。





アンタ達、
ホント仲良いわね。





仲が良いのは良い事っす。





は、はぁ!?
ななな何言ってるの。
そんなんじゃないわよ。





キャー♪
分かり易いツンデレ反応。





もう私は行くわ!
貴方達もカジノで
散財とかしないようにね!





それでは、私が見張って
おきますね。


ユフィがテーブルからそそくさと離れる。今日は迷宮探索に行かない日なので、各自自由行動なのだ。



私はメルクス通りのバザーに
行こっかな。
アデルもどう?





それはいいですね。
私もご一緒させてください。





じゃあ善は急げで
すぐに行こ。


シェルナに引っ張られるように、アデルも酒場を後にした。
そこに現れたのはリアだ。



ん?
あんまりいないわね。
まぁいいわ。


リアは開口一番、酒場にいるハル達に向け早口で話し始めた。



私、ディープス
出る事にしたから。
居ないメンバーには
よろしく言っといて。


突然のリアの言葉に、ゆったりと食事をしていた雰囲気が蒸発する。もう涙目になっているロココが真っ先に聞き返す。



リ、リアさん、突然どうして?
リアさんが居なくなったら
皆寂しいですよ。





なんでなんすか……





…………


フィンクスは腕組みをして、静かに座っている。リアは少し笑みを浮かべながら、首を横に振った。
一番驚いていたのはハルだった。このディープスに来てからいつも明るく声を掛けてくれた。沢山お酒も一緒に飲んだ。王宮に仕える騎士になる為……それがリアの目的と聞いていた。実力を付け、名をあげて騎士になると……。
真意を確かめるべく、じっとリアの様子を伺うように目で訴えた。



ずっと、考えていたのよ。
一介の冒険者が
騎士になるなんて
出来るわけないって……。
このあたりが潮時かなってね。


ハルの顔を真っ直ぐに見つめ、ハッキリとした口調でリアは答えた。
リアが騎士になろうとしていた事を殆どのメンバーは初めて知った。全員の目的はバラバラだ。各々に境遇があり目的がある。その目的に辿り着こうとする手段が一緒なだけなのだ。途中で目的を達する者がいても、それこそ諦める者がいても何ら不思議ではないのだ。



…………


ロココは言葉に出来ない思いを抱えていた。
リアには話していない事情もまだあるだろう。そう分かっていても、急な別れを惜しむ気持ちを抑えきれぬのは人として自然な姿だ。



そっか。またね。
もしどこかで出会った時は
一杯奢ってね。


軽々と挨拶したのはシャイン。
リアのセリフから察すると、相当思案しての決断だろう。止めるのも野暮だし、シャイン自身はこれ以上重たい雰囲気になったら嫌なので、かる~く見送るようにしたのだ。



明日ディープスを出るから。
その後は故郷に帰って
ゆっくり今後の事を考えるわ。


シャインの挨拶の所為か、何かを途中で諦める者に見えないくらいスッキリとした表情。見送る仲間達の不安も幾分か和らぐ気がした。



何で途中で諦めんだ!!
簡単に諦めんなよ!


どうしても納得のいかないダナンが声を荒らげる。恐らくダナンの中に諦めるという言葉はないのだろう。



故郷から手紙があったの……。
恩人からの……
縁談の誘い…………





縁、談……


間を置きつつそっと話すリアは、先程と違い俯き気味だ。
まさかの話に、目を白黒させているダナンは、直前の台詞を忘れたように、勢いを失った。
寂しい話から華のある話になった事で、後ろのテーブルに居たランディから祝福の言葉があった。別れの寂しさもある。しかしめでたい事なので、複雑な気持ちだがメンバーそれぞれがリアを祝福した。



リア……
幸せを祈ってるっす。


ハルはリアにそう伝え、「こんなもんしかないっすけど」と、麻袋をリアに渡した。それは昨日の探索で得たガロン全額だ。



俺も乗っからせてくれ。
元気でな。





僕もさせてください。
上手くいくと良いですね。





御祝儀ってやつだ。
いくらあっても困らないだろ。





確か故郷はレイマール
だったよな。
近くに寄ったらお邪魔するかも。


全員が麻袋をドンドンと置いていく。リアはビックリして言葉を失っている。
ダナンは諦める事に対しては怒りを表していた。しかし縁談については気持ちを切り替えて言葉を添えた。



元気な赤ん坊産めよな。


ダナンは何か複雑な思いが胸に渦巻いているのを感じながらも、惜しげもなく麻袋をテーブルに置いた。
この場に居る最後の一人になったシャイン。守銭奴という言葉がぴったり当てはまる彼女。雰囲気に押され他のメンバーみたいに全額渡すなどもってのほかと思っているに違いない。



しょーがないわね。
じゃ1000ガロンだけ。
アタシがおめでたの時まで
覚えといてね。





…………


「気持ちだけで」と、リアは受け取ろうとしなかった。だけど皆の気持ちが収まらないと無理矢理に渡されてしまった。
どこか後ろめたさを感じていそうなので、わざと明るくシャインが他のメンバーの金額を聞きまわり始めた。



ごめんなさい。
少ないんですが
880ガロンでした。





900ガロンかな。
たまたま手持ちが少なくて。





なんてこと聞くんだよ。
まぁ800ガロンしか
確か入ってないけど。





すまん700だ。





んーだよ。
俺も700だよ。
今の全額だ。
こーゆーのは
気持ちなんだっつーの。





そうっすよ。
こうゆうのは気持ちなんすよ。
額じゃないんすよ。





で、幾らなのよ。





20ガロンっす。





(イラ)


「少ないと思いつつも恥ずかし気に1000渡したのに、なんで私が一番多いのよ。アンタ達どうしてそんなに持ってないのよ!」
そんなシャインの心の声が全員に聞こえた。
特に言いだしっぺのくせに一際少ないハルへ、怒りと罵詈雑言が飛ぶのは仕方のない事だった。



……ありがとう。


そんな光景を見守りながら、リアはぽつりとその言葉を落とした。皆の気持ちに感謝がないわけじゃない。だけどどこかその言葉に影が差している。そんな声色に思えた。
