使用人達は楽に殺せた
部屋が多い屋敷で助かった
多少のトラブルはあったけれど、大方予想通り、計画は順調に進んでいく
使用人達は楽に殺せた
部屋が多い屋敷で助かった
多少のトラブルはあったけれど、大方予想通り、計画は順調に進んでいく



は、あ、あ…あとは…母様…





私がどうかしましたか、ハロルド





あ…母様!





ハロルド、どうしたのそんな息を切らして





あ、それは…!





か、母様を探していたんです!





あら私を?どうして?





使用人が呼んでいました。どうやら全員集まって緊急の会議を…重要な連絡があるけど、手が空いた者が居ないから俺に報告させるようにと…!





あら…そうなの?だから呼んでも誰も来なかったのね





ここではなんですから、談話室に行きましょう。あそこなら空いています





ええ、わかりました


忘れずに、鍵をかけた



…


母様の柔らかいのどに、しっかりと刃を突き立てた
今し方までその身体を通った鮮血が勢いよく吹きだした
ああ、もう何度見ただろう
人間の血の色はみんな決まって赤なんだ、と場違いな感傷に浸り、離れつつその姿を見つめる



ぐっ…!?





悪いな、母様…


背後に回り込んで、もう一度刃を突き立てた



ハロルド、どうし…!がはっ!


忘れずに、二度刺した



…





はぁ…はぁ…


息を切らして、座り込む
ああ、こんなにも疲れるなんて…
でも
そう、これで、あと一人
あと一人だから…!
ガチャ



な!?


ドアの開く音に絶句する
急いで立って、入ってくる者の姿を見据えた
入ってきたのは…



…





父…様…!?


おかしい、鍵は閉めたはずだ
マスターキーもこの手にある
父様は黙って母様を見ている
瞳から、感情は読み取れない



…ふふ





!?


母様だったものの頬を撫でながら
父様は綺麗な笑顔で笑った
それがとても、とっても
恐ろしかった



…ハロルド





っ…





まずは礼を言わねばならないね





なっ…!?





ここまで、君は私の素晴らしい駒として動いてくれた





な、なにを言って…





おや、気付かないほど君は鈍くないだろ?





…まさか


父様はにこやかに笑った
気付きたくなかった事実を肯定するように



…全部、貴方が仕組んだのか





ああ!そうだとも!





なんで…?どうやって…?どこから本当で、どこから…どこから…?


訳が分からなかった
まるで空虚を見つめているみたい



そう放心状態にならないでくれ愛しい息子よ。わけもなくこんなことする程、私は暇じゃあない





違う…違う…!!!


その言葉に無性に腹が立って仕方がなかった
俺の悲痛な叫びが部屋に響き渡り、シンと静まり返った所で父様が口を開く



わかっているよ、君の聞きたいことを今から話すから、黙っていなさい





…





いい子だ。じゃあまず理由から話そう





全ては、私によるジョージ家への復讐だ





復…讐…?





そう、あの時嫌がる私を無理矢理エルリック家から引きはがし、戸籍を改変し、以前の私を亡き者へと変えた、ジョージ家という家柄へのね





無理矢理…引きはがした…?亡き者に…?





当時、ジョージ家とエルリック家は今ほど深い対立関係にはなかった。
だが、その代妻が子を授かることができなかったジョージ家は、恥を承知で極秘にエルリック家にこう言った
「そちらの家族を売ってくれ」とね





新しい妻を迎えればいいと皆口々に言ったが、それは出来なかった。何故ならば、不能だったのは夫のほうだったからだ
そんな恥を晒すような真似は出来まいと子宝に恵まれていたエルリック家に頼ってきたんだろう。身寄りのない拾い子ではどうかと言ったが、残念ながら当時のジョージ家当主は身分に拘る人間だった…





…それで、父様が?





ああ、抵抗も虚しく当時跡継ぎ候補が三人いる中、私が選ばれたんだ





そして、私はエルリック家の歴史から抹消され、ジョージ家へ…
周りには歳の辻褄を合わせるために、暗殺防止の為に護身術を覚えるまでの間、存在を秘匿されたという事になった。詭弁だと思ったが、やはり権力かな…誰も否定はしなかった





だから、無理矢理引きはがしたジョージ家全員に復讐してやろうと思った。私はそれなりにエルリック家に残りたい理由があったからだ。





その、理由は…?





”魔法”だ





魔法…!?





ジョージ家とエルリック家の因縁は、魔法が大きく関わっている
魔法を忌み嫌うジョージ家、魔法を率先的に研究するエルリック家…





私は、一目見て魔法に惹かれたのだ。それを否定され封印されるのはとても耐えられなかった。こっそりやろうにも、監視の目が厳しい…だからより一層深く恨んだのだ。好きなものを奪われてはたまらない…





君もわかるだろう?





…!





だから私は一家暗殺を企てた。けれど…





監視は酷く続いた。第一子のケヴィンが生まれても、だ。余程信用がなかったらしい…





ケヴィンについては…自分とジョージ家の交わりを見ているようで非常に気分が悪かったよ





…!!!





でもハロルド、君は違う。何故ならジョージ家の人間から産まれていないからだ!





え…?





ケヴィンの母…名はベアトリスというんだがね、彼女は好都合にも早くに死んだ。よって、私には次の妻を迎える権利があった。そこで見つけたのが…





母…様…?





そう。メアリーは私が初めて美しいと感じた女性でね。農民だったが努力の甲斐あって身分にうるさい者を黙らせ、やっと手に入れたんだ





…





…お前が生まれる前、ケヴィンにはこのことを伏せておくように命じた。お前に悪影響があっては困るからとね





だが、思春期だったのもあって、母親が変わり父親が下の子につきっきりになれば、まあ当然、お前を虐め始めた。





ひっ…!





だが私はこれをチャンスだと思った。復讐は、ジョージ家の人間…私含め全員が死ぬこと…一番復讐したい相手には老衰と病気で死なれたことだけが心残りではあるがね





愛する息子の手で死ねるなら本望だ。だから私はお前を育てるのに執心した





じゃあ、アヤは…





ああ、彼も、私が仕組んだ


信じたくなかった
悔しかった
ずっと駒にされていたことより
なにより
一番信頼していた人に裏切られた
そのことが
なによりも
悔しかった



…まあ、想定外もあったけどね





うっ…くっ…





ふふ…


所詮、全て
嘘だったのだ
ずっとうそを吐かれていた
嗚呼…
なんて、空しい、虚しい…
