『イツカ兄(にぃ)』が男の拳を躱し、腹に一発、そして顔面に蹴りをくらわす。
続いた男の股間を蹴り上げ、その後ろの男に回し蹴りを喰らわせた。



いてまうぞ、ごらぁ!


『イツカ兄(にぃ)』が男の拳を躱し、腹に一発、そして顔面に蹴りをくらわす。
続いた男の股間を蹴り上げ、その後ろの男に回し蹴りを喰らわせた。



な、なんだコイツ? 能力者じゃねぇのか? な、なんで守ろうと?


よほど痛いところに決まっているのか? 蹴りを受けた男たちは皆立ち上がれない。後ろに構えた数人が続くのを躊躇(とまど)っている。



ああ、そうだな。


3人が同時に覆いかぶさろうとした。『イツカ兄』はその1人の足を払い、1人の顎を跳ね上げ、1人の腹へ深々と蹴りを突き刺す。



俺は能力者じゃないが、誰を守るかなんて俺が決める事だろ?


男たちは輪を広げた。『イツカ兄』が見渡すと更に一歩、皆が後退していく。



な、ナメんのも大概にしろ! オマエもぶっ殺してやる!


飛び出した1人が『イツカ兄』によって車道へと蹴り飛ばされた。通りがかった車が蛇行してそれを避ける。轢かれかけた男が悲鳴を上げて逃げていく。



コイツやべーよ、イカレてる!!





覚えてろよテメー!


遠ざかる男たちを見て、腰が崩れ落ちた。



ありがとうございました! 本当に、本当にありがとうございました!


『鋼化』のチカラをくれた子のお母さんが駆け寄り頭を下げる。未だ『鋼化』の解けない私は、満足に応える事が出来なかった。
不意に身体が宙へ浮かぶ。
私は『イツカ兄(にぃ)』の肩へ担がれていた。



まったく世話のかかる妹分だな。少しはダイエットしろよ?





な!


顔が熱くなる。見えない『イツカ兄』を睨みつけた。私のイラつきも知らずに馬鹿でかい声が鳴り響く。



あ、兄貴!





?


マチスだった。マチスは『イツカ兄(にぃ)』の足元に這いつくばり懇願した。



兄貴! 俺を舎弟(しゃてい)にしてください! 俺を守ってください! 俺、俺、何でもしますから!!


『イツカ兄』の顔は窺えないけど、恐らく笑ってるんだろう。吹きだす音が聞こえる。



あんた、『ヒナ』を守ろうとしてくれたろ? 一応。





は、はい! お、俺、この子守らなきゃ! って!


身体が傾く。『イツカ兄』が笑いだした。かなりのツボに入ったみたいだ。あ、手が動く!



『イツカ兄』! 私はもう大丈夫! それより何処か休めるところ、安全な所は無いの? 状況も説明したいし、それ以上に私も知りたい!





……それには及び、及びませんわ、彼方ヒナさん。


飛び降りて声のする方を見やると物陰から女の子が顔を出した。そして、辺りを見渡しながらこちらへ歩を進める。



貴女は?


ここが安全だと思ったのか? 花柄ワンピースの女の子、恐らく私と同年代の彼女が優雅な足取りで向かってくる。



『イツカ兄様』の想い人、花雨(はなう)コンツェルンの息女、


そして、胸元から白い手袋を取り出し、私の足元へと力強く投げつけた。



花雨ララ、ですわ!


