


久しぶりだね。体調はどう?





なんともないよ。





涙くんといい、シェアハウスのみんなといい、ちょっと心配しすぎなんだよ。私は至って元気なのに…





そうかい?つい最近まで、心にもう一人の人格が棲みついていたんだから、そうなるのも仕方ないと思うけどなぁ…





……それも私は、覚えてないんだけどなぁ…





……………





…まあ、いやなことは忘れてしまうに限るよ。





だよね!気を遣ってくれてるなら、ありがたく乗っかることにするよ。





うん、それがいいよ。甘えられるときに甘えるといい。





涙くんも、しんどくなったら甘えに来てね!





うん…ありがとう





ところで…雫。君は今何をしてるんだい?





院の非常勤スタッフとして雇ってもらってるよ。あとは農園の手入れとか。





そっか。楽しい?





うん!
子どもって、私たちが思うより成長が早くて…一週間前一人で昼寝ができなかった子が、次の週ではもう一人で寝れるようになってるんだ!ちょっと感動しちゃったよ…





お昼寝かぁ…久しくやってないなぁ





お昼寝はいいよ…1時間寝るつもりが、気が付いたら2時間3時間…





駄目じゃないか…





ちゃんと寝てるのかい?





うん。9時にはぐっすり…





これは…





雫、今日ってこの後予定ある?





え?ないけど…どうして?





久しぶりに、雫の料理が食べたいと思って…いいかな?





ああ、そんなこと…いいよ!
何食べたい?





そうだなぁ…





シチューとかどうかな?最近冷えるし…





OK!
腕が鳴るね…!





はい、どうぞ!





ありがとう。いただきます





たーんとお食べ♪





………うん、おいしい。





ふふ、褒めてもデザートしか出ないよ!





え?デザート?





葡萄ケーキ!今オーブンあっためてるから、もうちょっと待ってね!





いつの間に…御見それいったよ。





ぼくの手は魔法の手だからね!





オカン…





……さて。





そろそろいいかな、ピーター?





……え?





今は「そっち」なんだろう?





……えー。もうちょっと騙されててよ。





ならもうちょっとうまく演じてくれよ。
一人称の間違いなんて、初歩中の初歩だよ?





手厳しいなぁ…雫には甘々なのに…





……どういうつもりだい?夜九時にはまだだいぶ早いけど…





でも、ぼくに会いたかったんだろう?
あんな…今時女の子だって引っかからないような口説き文句で誘いだして…





いきなり「寝てくれ」っていうのは犯罪だろう?





ああ、自覚はあったんだ。





何の自覚かはあえて問わないぞ





……雫の記憶をいじったの、君だろう?





……ああ、そのこと。





いいじゃない。もう雫にぼくは…「ピーターパン」は必要ないんだから。





……でも…





いいんだ。





………





でもやっぱ心配じゃん。雫、すぐ騙されそうだし…あの葡萄集団が血迷わないとは限らないし。





それは…まあ、いえてるね…





ぼくは雫の「抗体」としてここに残ってるだけだよ。もう誰も殺したりもしないし、雫の体を危険な目にあわせるようなこともしない。





まだ、なにかある?





………いや





…雫は、大人になって、大人に恵まれたね。
ぼくは大嫌いだけれど…それを疑うのは、ぼくの役目だ。





…そろそろ寝るよ。お前が読んだ通り、雫の寝不足はぼくのせいだから。





悪いけど、今日は泊めてやって。





……僕も、君のような存在に接する専門家のはしくれだ。何かあったら、話しにおいで。





………君が本当に、雫のお兄さんならなぁ…





……おやすみ。





……おやすみなさい。





……すう…すう…





……難儀だなぁ…





…オーブン、止めてこよう。


