【？？？？年。柊モカ】

　横たわる『いっか』の隣りを駆け抜ける。もつれる足をなんとか前へ！



　ボクは、――宿敵『ブラック・ダド』を前にした。

　振り降ろした刃の前に、

　ソイツは居なかった。振り返り剣を振り切る！

　居ない。

　見回すのに居ない！　何処にも『ブラック・ダド』が居ない！！

　この瞬間、『ブラック・ダド』は眼前に居た。背筋が凍りつく。

　刃がその右腕に阻まれた。それはとてつもない硬さを以って剣を封じた。

　死ねない！　死ねない！！　シニタクナイ！！

　誰も、誰も死なせたくない！！

　溢れる涙を、ソイツは笑った。

　背後で地響きのような音が起こる。恐らく『ホーム・ホルダー』の人達だ！　早くコイツを殺さないと！　殺さないと全てが間に合わない！



　何度も、何度も、『ブラック・ダド』の腕を打つ！

　この拳がチカラに成りえない！　その事実がボクから希望を……。





『ブラック・ダド』が声を漏らした。

　振り返った其処に居たのは、



『ホーム・ホルダー』の人間では無く、

　傷だらけの『なぅ』だった。

　犬くんや猫ちゃん達、ボクの『家族』だった。

　剣を手に駆け付けてくれた……『雪』だった。

『雪』は『ブラック・ダド』を見据えて言った。

　顔を伏せ『雪』は懇願した。



　けれど、『ブラック・ダド』が頷く事は無かった。『ブラック・ダド』がボクの剣『ゲイボルグ』を投げ放つ！

　間一髪で間に合った。『なぅ』に刺さろうとした刃を残った腕を犠牲にして阻む。

　溢れる赤に意識が遠のく。ボクから、血が抜けていく。

　――何処からだろう。――爆音が響いた。

　煙を吹いた拳が『ダド』の刃を打った。

『いっか』だった。全身から血を流した『いっか』が其処に居た。

　熱を帯びた『いっか』の腕が『ダド』の剣を、――破壊する。

　そして、『ブラック・ダド』の鋼の義手を握りつぶした。

　いっかは、その大きな拳（てのひら）で『ブラック・ダド』の鎧を叩き壊した。