wild worldシリーズ
wild worldシリーズ
コール歴5年
sky colors
第4話 遠くの思惑



嫌です


水を浴びたように一気に目が覚めると、ユッカは強く断った。
昇りはじめた太陽が、世界をきれいに照らしている。
ユッカはウルブールを離れるなんて考えたこともなかったし、何よりクローブについていくのが嫌だった。
朝の、何にも染まっていない空気が心地よく肺に流れるから、それでも取り乱さずにすんだ、のだと思う。



そっか。じゃあ、仕方ないね


クローブの口元が動いたのを見てユッカが思わず身構えると、しかし拍子抜けするほどクローブがあっさり身を引いたので、ユッカは少し面食らった。
そして、熱いものが胸の中から混みあがってくる。
これが怒りだと気付いたのは少し後だった。
毅然と、クローブを睨む。



軽い気持ちで城へ誘うなんてことしないでください
クローブさんにとってはウルブールと城の行き来は大したことでないかもしれないけれど、わたしにとっては大きな問題なんです





軽い気持ちじゃないんだけどなぁ


あやまりもせずおどけるクローブに、ユッカは更に激昂しそうになったが、必死で自分を抑えた。
何のために、とか、理由は聞きたいと思わなかった。
とにかく、行きたくなかった。
ユッカにとって、今いる生まれた地と、ここを治める王のいる地とでは、大きく違う。



帰ってください。もう用はないでしょう





そうなんだけどね。うん。じゃあ、また来るよ
オグによろしく言っといて


クローブは身軽な動作でユッカに背を向け歩き出した。
もう来るな。
ユッカはそう思ったが口にはせず、立ち去るクローブの背中を睨み続けた。
城下町はいよいよ本格的に荒れ始めた。
バルコニーから街を見下ろし、華美な衣裳を身に纏った王、コールは不敵に笑う。



見てごらん、カノン
全て私の行いのお陰で、国民は笑顔に満ちている


自らの行いがどんなものか、分かってないはずがないだろうに、両手を広げ、どこか芝居のかかった口調で、コールは傍らの未来視に声をかけた。



カノン、レダ国崩壊の予知は素晴らしかった
次はどんな未来を見たんだい?


カノンは黙って首を振った。
この男は救えない。
だけど、カノンはコールの傍に最期までいる。



あれ、クローブは?


クローブの背中を見送りながら一歩も動けなかったユッカだったが、オグが起き上がってくるとそちらに視線を移し、やさしく微笑んだ。



帰ったよ





えー、もっと遊びたかったのにー





うん。オグによろしくって


ユッカが空を見上げながら無感情に淡々と話すと、オグがそろそろとユッカの顔をのぞき見た。
子供の、探るような不安げな瞳。



ユッカちゃん、クローブ嫌い?





え?


核心についていた、のだと思う。
ユッカは咄嗟に取り繕うことも出来ず、まじまじとオグを見つめた。



クローブのことになると、いつもより静かになる


ユッカは驚いた。
ユッカが思う以上に、オグは周りを見ているのかもしれない。
言葉を返せないでいると、オグの方から顔を背ける。
少し、寂しそうに見えた。



ごはんにしますよ


レイテさんが外に顔を出すと、オグはすぐに嬉しそうになってテントへ入っていった。
ユッカはその後姿を見つめたまま、またしばらく動けないでいた。
