リュウ達の回復をさせまいとグスタフは前進するが、シェルナが立ちふさがる。
言葉どおり、シェルナに対する苛烈な連撃を繰り出すグスタフ。それを防御するのがやっとのシェルナ。だがその時間は、僅かとはいえリュウ達を回復させるには充分なものだった。



護るっ!





レナ様、
棒を持てば私が容赦しない事は
覚えておられますね。





望むところ!


リュウ達の回復をさせまいとグスタフは前進するが、シェルナが立ちふさがる。
言葉どおり、シェルナに対する苛烈な連撃を繰り出すグスタフ。それを防御するのがやっとのシェルナ。だがその時間は、僅かとはいえリュウ達を回復させるには充分なものだった。



マ、モ……ル……





僅かばかりの回復で
どうにかなると
思っているのか。





これで最後だ。





全員でかかれ!





同じことだ!


真っ先に放ったタラトのパンチは捌かれ地面に叩きつけられる。リュウが両腕でガードしながら突進し、シャセツは斜走して違う角度から仕掛ける。シェルナが繰り出した突きを避けたグスタフは、濁流の如き勢いで棒を振り回す。リュウ・シャセツとも捌かれるのを警戒した攻撃だったが、まとめてそれをくらってしまった。
だが、タラトが直ぐに飛び起きグスタフに食らいつく。ダメージがないわけではない。それどころか、普通の兵士なら起き上がれぬ程のダメージを耐えているようだ。
タラトの起き上がり際のパンチは、初めてグスタフに捌かれず防御させることに成功した。
傷付いた身体といえ、タラトのパンチの威力は並外れている。それを吸収出来ずに防御した為、グスタフの身体が少し浮き上がる程だった。
一瞬。一瞬と言えるが初めてのチャンス。
その時、全員の耳に走り抜けたのはシェルナの声だった。



ハルッ!!
今だよ!!


千載一遇のチャンスを待っていたらしいハルを、視界に入れようとするグスタフ。今迄手出しをしなかったのは作戦であり、意識をそらさせる為と、グスタフは認識していたからこその反応だ。
足が地に付き、グスタフの視界に完全にハルが掌握されてしまった。



ヘクショイ!


遠巻きに見ていた初期位置から微動だにしていないハルは、くしゃみをしていた。
目を剥くと言う表現がピタリと当てはまるグスタフ。
その軸足を払ったのはシェルナのロッズステッキだった。完全に意識の外からの攻撃。転倒を余儀なくされたグスタフの首元で、ロッズステッキがグスタフを制していた。



全員を相手と言うのは、
思い上がりが過ぎたようです。


グスタフは地に倒されたままで、シェルナに言葉を掛けた。
ゆっくりとロッズステッキを引くシェルナは、憂いなき眼差しで言葉を返す。



心配ばかりかけてゴメンなさい。
帰らなきゃいけない事は
充分わかってた。
でもここで投げ出したら、
レイマールに帰っても
半人前の仕事しか出来ないよ。
それを教えてくれたのは、
ここで出会った人達。





どうやらそのようですね。


グスタフの視線はリュウ達に流れる。



さっきも言ったけど、
デュランの事も
レイマールの事も、
グスタフ、あなたの事も大切。





そしてここで出会えた仲間達も
とっても大切な人達。
私を一人の人間として
大きく成長させてくれる人達なの。
私は……レイマールに戻った時、
胸を張って国民の前に出たいの。





レナ様…………


凛としたシェルナの声は、その場に居た者の心をとらえた。ここでグスタフと遭遇した時、後ろめたさを感じていたシェルナはここにはいなかった。



共に訓練を受けて卒業の頃に、
教官にイタズラをして
卒業が延期になった人達。
同じ頃に卒業した、私よりも
ずっとずっと頼りになる人達。
先輩冒険者の人達は、
とても厳しくて
大変な事も沢山あったけど、
それ以上にあったかいの。
場長は優しいお爺ちゃんだし、
マスター・リーベは
凄く素敵な方なんだよ。


リュウは、リーベの名前を聞いたグスタフが僅かに反応を見せたのを確認した。
立場上、当然王女を連れて帰らなけれはいけないグスタフ。だが、かつて自分が世話をしていた少女の成長は、覆い隠せない事実。
ふと気が付くと、グスタフが連れて来た兵士達がシェルナに敬礼している。自分の仕える国家の王女の真摯な姿勢に心打たれたのだ。表情も誇らしげで、タラトやシャセツにつけられた傷も爽やかにさえ見える。
立ち上がり埃を払うグスタフは、少し棘が取れた雰囲気を表しながらも、堂々とした声を発した。



マイデアルタ殿(リーベ)と
ヴァルガ様(場長)の
御教導ならば、
間違いはありません。
私の心労は、
春の陽射しを受けた
雪のように溶けました。


その言葉を聞き、シェルナは勿論、リュウ達に歓喜が沸き起こる。



しかし!
条件が御座います……


言葉の後にひと呼吸置くグスタフ。



……私にも何か
協力させて下さいませ。


今日初めて見せるグスタフの笑顔は、シェルナの知るグスタフそのものだった。
リュウ達が知らなかったその笑顔を受け、シェルナは答える。



ありがと……グスタフ。
でも大丈夫♪
私はシェルナ=ガブリエル。
どこにでも居る一介の冒険者よ。
レイマールからの
特別な援助とは無縁なの。


元気満々の天使の微笑みは、周囲の者に希望をもたらす。
グスタフもリュウ達もその微笑みを浴び、まだ見ぬ未来に、光が指す思いを感じた。
