【2033年、イバラキ。言霊みれい】
【2033年、イバラキ。言霊みれい】



その手をどけろ! このゴミクズが!


フォーチュンが緋色の太い腕を振り払い喚いた。



悪いなおっさん。妻の棺を乱暴に扱うから、つい強く握っちゃったな。





……ひ、ひいろぉぉぉ!!


私は緋色に懇願した。彼に願い、訴えた!



そいつが! そいつが! そいつが奈久留を!


緋色はフォーチュンの腕を取り、しみじみとその黒い仮面を見下ろす。フォーチュンの手を握り、強く言葉を残した。



おっさんが、奈久留に『アレ』を食わせてくれた人なのか?


答えなんて聞かなかった。緋色は残された1本の腕でフォーチュンの顔を地面へ叩きつける。仮面の下の顔がひしゃげてフォーチュンは蛙のように鳴いた。



1つだけ言っておく。


緋色の溜めに溜めた言葉だった。



次、


その目だけは笑顔を表す。



俺の前に顔を出したら、その頭蓋、……木端微塵にしてやる。絶対にな!


誰も正視できないその笑みに、フォーチュンは全てを放りだし逃げ帰った。『フォーチュン配下』の連中を追うチカラは『化けクリ』の誰にも残っていなかった。剛おじさんも、市原家の財産も取り返すことは出来なかった。私達が守れたのはたった1つ、奈久留だけだった。



……緋色。


やっと出てきた言葉がソレだった。涙がこぼれて仕方なかった。



待たせすぎだよ。本当に、……待たせすぎ。


私の言葉に緋色はこの頭を撫でて応えてくれた。



ごめんな。……創は?


震えるこの言葉をゆっくりと聴いてくれた。頭1つ分高い場所から私の全てを包んでくれる。



分からない。たぶんあいつに、ごめん! ごめん緋色! 私が居たのに、創たちを!!


緋色は私の言葉を否定しないでくれた。泣きじゃくる言葉を緋色は全て認めてくれた。



みんな、みんな殺されちゃった! 緋色! 私どうしたら! いったいどうしたら!!


この肩を抱いて緋色は言った。



とりあえず、


緋色は飽きることなく頭を撫でてくれる。ゆっくり、時間をかけて慈しんでくれた。



とりあえず、飯(めし)。それからだよ、みれい。


焼き払われた野、広がる星を前に皆へ緋色を紹介した。私の幼馴染なんだ! って。



私の、私の!


楽々に、タタミに、キメラのみんなに腕を広げて言い募る。私の自慢の!



ヒーローなんだよ!


って。
楽々とタタミは嬉しそうに頷いてくれた。
緋色は楽々とタタミに言った。急遽焚いた焚火の前、緋色が持参したお米で作った雑炊を彼が飯盒からよそり、その1本の腕で皆に振舞う。
楽々とタタミ、特にタタミが緋色の言葉に目を輝かせた。



どんな時も、


緋色があの高い星空を指さす。



どんな事でも、


その片方だけの腕をこの世界へ大きく開く。



どんと来い!


最後はその厚い胸板を叩いて言った。



剛(たけし)おじさん、創のお父さんが教えてくれた言葉なんだ! 世界は、この『DDD』でだいたいどうにかなる! って。


緋色の大仰なボディランゲージを見て、タタミは絵本を読む子供のようにその目を煌めかせた。



……DDD。すごいね。ステキだね。


反芻し、何故だろうタタミは独り嬉しそうに笑っていた。緋色から受け取ったご飯を大事そうに頬張って、幼い誰よりも可愛い笑顔で。
