顔を赤らめながら、シューがサリットをたしなめる。



サリット……その…もう、いいんじゃないか。これ以上は…


顔を赤らめながら、シューがサリットをたしなめる。



………そうね……





…





…


その場の全員が頬を赤らめ、そして沈黙という名の空気が支配する。



まぁ、俺とアルモの話はいいとして…そっちの収穫はどうだったんだ?


場の空気を打破するため、俺はシュー・サリットペアが集めてきた情報を聞くことにした。



…そうね……アコード達が居た市場側から逃げてきた商人に、話を聞くことができたわね


遠くから、砂煙が上がっているのが分かる。



…サリット!あの砂煙の方角って…





ええ…アコードとアルモが向かった、旧市街地付近ね…





一体、何があったんだろうな…





…それを確かめるには、当事者に聞くのが一番ね


そう言ってサリットが合図を送った先には、膝に手をついて『はあはあ』と息を切らせている商人の姿があった。



…大丈夫ですか?





まぁ、これでも飲んで


サリットが話しかけると同時に、俺は懐から竹筒の水筒を取り出す。



…いいのかい?





はい。宿から持ってきた、ただの水ですから





それはありがたい!それじゃ遠慮なく!


“ゴクゴクゴクゴク…”



ところで、何があったんですか?





…お前さん方は、旅の方とお見受けするが…禁制取引って、知っているかい?


俺とサリットは、同時に首を横に振る。



ワイギヤ教団が、宗教上若しくは道徳上取引を禁止している物品を取引することさ





それって、例えばどんなものなんです?





貴重な動植物の体の一部とか、他教の神の偶像。あとは奴隷や子どもといった『人』だな





俺は貿易商を営んでいるんだが、積み荷の中にたまたま偶像が混ざっていてな…それを見た監査官に取り押さえられそうになったところを、間一髪で逃げてきたって訳さ…





…商品を置いて逃げて来たってことですか…それじゃもう商売は…





何。それは心配いらないさ!


“ジャラジャラジャラ…”
そう言うと、商人はローブの懐を俺たちに見せる。



!!よくもまあ、そんなにもたくさんの金銀財宝を、そのローブの中に隠し持てるもんですね……





こういう商売をしている以上、何か起こって身一つで逃げたとしても、再起ができるように準備するのが普通だよ





はぁ…





そうだ!水のお礼って訳じゃないが…俺に何か手助け出来ることはないか?俺に話しかけて水をご馳走したのも、ただの親切じゃないんだろう?それに、お二人さんからは、ただの旅人とは思えない何かを感じるんだ…


とっさに身構えるサリット。
だが、俺はこの商人が俺たちに害を成す者には思えず、サリットに合図を送って構えを解かせた。



なら1つ…数日前、この大陸の中央にある王都で、何があったのかを知りたい…





何があったのか…って、別に王都はいつも通り平和そのもので…





いや、そんなことはないはずだ!夜半過ぎに、大きな騒ぎがあったはずだ!!


刹那、俺の喉元に得物の切っ先を当てる商人が、目の前に立っていた。
そして、その商人に今にも飛びかかろうとするサリットを手でおさえる。



お前らは…教団の遊撃部隊か!!


その瞬間、それまでローブのたるみで隠されていた商人の腰元が風で煽られ、アコードやアルモの剣の柄にある三日月の紋章と同じものが描かれた、ベルトのバックルが見え隠れする。



…この商人は…間違いない!秘密結社『三日月同盟』のメンバーだ!





…もし、教団の遊撃部隊だったら、あなたの話を聞いてすぐに取り押さえると思うけど?


冷静さを取り戻し、状況を分析したサリットが的確な答えを相手に投げかけた。
俺の喉元から、獲物の切っ先が遠退いていく。



確かに、それもそうだ…





…信じてもらえたかしら?





ああ。お嬢ちゃんの言うことを信じるとしよう





それで…それだけ教団を警戒している、ということは…





ああ。間違いなく、夜半過ぎに起きた騒ぎのことについて、俺は情報を握っているよ





だが…その情報を知って、お前たちはどうするつもりだ?お前たちに有益な情報とは限らないぞ?





…あなたがしている、三日月型のベルトのバックル。あまり見ないものね…それ、どうしたの?


俺は、そのベルトをしているだけで、三日月同盟のメンバーだと断定していた。
だが、サリットはわざと吹っ掛けるような質問を投げかけ、それを確認しようとしている。
流石、というか、抜け目がない、というか…



これか?これは、だな………その……





…サリットの質問に、明らかに動揺している…ということは、やはり…





答えたくないなら、別に私たちに言わなくてもいいわ。ただ、私たちの宿に同行してもらえないかしら?私たちの連れが、きっとあなたに用事があると思うから





…どういうことだ?





もし、水の恩がまだ有効だというなら、俺たちと一緒に来て欲しい、ということさ





…





一飯の恩は、犬も忘れないという…よし、お前たちの連れとやらのところに、連れて行ってもらおうか


こうして俺とサリットは、道端で助けた、三日月同盟のメンバーと思しき商人と共に、宿に戻ったのだった。
第7話 に続く
