二人の少年が、宙を舞う。



ねえノナ





ん?





ここ、どこ~?





……宇宙、じゃないか?





あはは





夜、なんだろうな





夜、なんだろうねぇ





ぼく、地面のないところははじめて





……僕もだよ、トリ





ねえノナ、ここには花あるかな?





…………ありそうに見えるか?





ううん!





あ、そっか、じゃあ、早く次の夜に行かなきゃね!





腹ごしらえしたらね


二人の少年が、宙を舞う。
一人は醒めるような銀の髪の少年、ノナ。
一人は燃えるような赤い髪の少年、トリ。
一人は周囲に何かないか丁寧に見渡し、
一人は楽しげに宙をくるくると跳ぶ。



あ!





ん?


そして同時に、
近づくソレを、見つける。



ウチューなのに傘なんて、変なの





妙





ねえノナ、この傘……





うん。古い





前に見た傘と違うねぇ





……





何のためにこんなことをするの





人の苦しみを暴いて





この、偽善者





けだもの





……。





ん? この傘、紙製で……何か、書いてある……





あれ?





水?
……いや





雨……?





か、な? あはは





ねえノナ





ウチューだと水って丸くなるの?





そう書いてあるのを見たことがあるけど





そっか!





じゃあ、向こうから来るのは雨じゃないね!





!





……何、こいつら


ノナの脚から繰り出された
尋常ならざる蹴りが、
襲い掛かる光を
全て弾き飛ばす。



……あれ、やっぱり雨?


弾かれて方向を変え
トリの方へ飛んできた光は
いつの間にか鋭く突き出した
トリの爪に
引き裂かれて粉々に――
――ならずに、宙に細かく散った。



きれい!





……うん





……天の川、か





ねえノナ、これ美味しい


そう言って手を伸ばすトリの手には
もう先ほどの恐ろしい爪はない。
鷹のように、しまい込まれている。
彼らはそういう存在だ。



うん……「罪」の、味がする


彼らは「パシヴィア」。
未知の妖怪にして怪異。
概念を喰らう獣。
様々な世界の「夜」に紛れて、
「罪」を喰う獣。



ねえ、ノナ。
なんで雨が「罪」なの?





予想はつくけど……この夜の「主」が知ってる





?





そこにずっと隠れてる……あんただよ





きゃっ





あんた、しばらく前からずっと見てたでしょ





何が目的?





ふぇええ……





あはは、ノナ、この子ぼくと同じ鳥だよ!





! あ、あの





トリは鳥じゃないから。それは名前





ナマエ





うん





あ、あのう、おふたりは……





ん?





も、もしかして、あなた方が織様と彦様ではございませんか……?!





……





……





はああああ?





ノナ、「オリ」と「ヒコ」って何のこ――





忘れるんだトリ。今すぐ





?





どうみてもトリは男でしょ?





ふぇ……トリさん男の方なんです?





ああ。だから僕らは――





失礼しました!
ノナさん美人さんなのにノナさんの方を彦さんと言ってしまって!!





僕も男だから!





も、もしかしたら織さんは男の方でそれゆえに恋路を阻まれていたのやもしれませぬ!





……は?





……





!
ノナ、また来る!





そういうこと?





ひっ!





も、申し訳ありません!!!





鳥ちゃん?





お許しください、彦様織様!!
わたくしは……本当に、約束を違える気はなかったのです……本当に……





お許しください……





ノナ――





分かってる





話ならいくらでも聞いてやるから、とりあえず泣き止んで。でないと――





コレも止まらないみたいだね!





え……





どういう、意味です……?





うん、これは間違いないね!





うん、たぶん





あのう……





この雨と、さっきから飛んできていた光の矢の正体は、あんたの涙だ





え





正確に言えば、「罪の意識」だね!





あんた、カササギなんでしょ。
七夕の日に雨が降れば、橋を架けて織姫と彦星を逢わせるとかいう





!





何があったの?





わたくしは……





……わたくしは、怪我を負い疲れていたのです。いえ……猟師に見つかるようなへまをしたわたくしが悪いのです





カササギは決してたゆんではいけません。安全に織様彦様をお繋ぎするため、隙なく翼を並べなくては……





うっ……





しまっ……





罪、とおっしゃいましたか。
その通りです





天の川に飲み込まれてしまった織様は、あれからお見掛けすることがなく……きっと、遠くへ、流されてしまったのです





わたくしは……





心優しいあの子が、溺れませんように





え……





短冊じゃないけど。
……これ





傘、に、文字……?





傘をあげるわ





涙の雨に、濡れないように





そ、そんな





「罪」ってシュカンテキなものでね、自分で思い込んでると、「夜」を心の中に作り出しちゃうんだ





「夜」は許しの陽の光を拒む心の牢獄。……朝が来ようとするのを、勝手に拒む





あんた、本当は七夕の夜を越えられるんだよ





夜、を、越える……?





見えない?





あ、さ……





……僕らは行こうか





もう?





もう腹いっぱいになった。それに……





……うん、そうだね





僕らには、この光は眩しすぎる


織様と彦様が
今年もまた逢えますように
