第6幕
揺れる気持ち
第6幕
揺れる気持ち
……よし。深呼吸だ。なぜこうなったのか、どうして俺は人様の前でこの格好をしているのか…依頼も来ていない、そんな気分でもない…なのに…だと言うのに、なぜ……!



衣装がそのまんまキャラメリゼってどういうことだよ!!!!!





あらあらぁ、似合ってるじゃない、サヴァラン!





ねえ…ひとつ聞いていい?





なあに?





ロミオって、ファントムマスクをしているんじゃなかったのかい?どうして目元全体を覆う設計になってるのかな…?





それは僕から説明するよっ!


アマンドの後からルオがぴょこんと顔を出し、少し申し訳なさそうに話し始めた。



本当はファントムマスクの予定だったんだけど…この劇、けっこう激しく動くシーンが多いんだよ。





それだと、ピンで固定して、その上でゴムで固定する…って付け方が1番安心できるんだけど、それだと少し髪型が崩れちゃうんだよね…





そこで…その型だよ





そんな…だからって…これは…





大丈夫だよサヴァランくん!すっごく似合ってるから!!





ええ、本当に似合ってるわ!すごくしっくりくる!!





だろうね!!!


仕事着だからね!!!



でも…どうしても嫌なら、ファントムマスクにするよ。方法はまだあると思うし…





いや…いいよ。これでいいよ…衣装一晩で仕上げてくれたのに、文句なんて言えない…





本当?遠慮しなくてもいいのに…





サヴァラーン!衣装合わせ終わったー?





そろそろ練習したいんだけど…行けるー?


合わせ練習…?ああ、そういえば、体育館を借りることが出来たから、1度通すって言ってたっけ…みんなもうそこまで完成してるんだ…主役が台本持ちで舞台上がるってどうよ?まずいだろう?本当にこの最終決定に持っていったやつを一度尋問してやりたい…



D'ac、今いくよ。





ふふ、仮面をとる仕草も、なんか様になってるね





き、気のせいだよ。気のせい…





よかった♪他の子ももう揃ってるから、お早めにお願いね!


心臓に悪いことを言うルオから逃げるように、俺は台本を持って教室を出た…そうだ、結局配役確かめてないや…まあ、現地まで行けば分かるか…



この格好で堂々と公に出るのはちょっと気が引けるけど…まあ、文化祭だし…





せっかく合法的にこの格好ができるなら、楽しんでいかなきゃソンだよね!





みんな、お待たせーー





きゃっ…キャラメリゼ!?





ふえあっ!?


一瞬背筋が凍った。
反射的にドアの後に飛び退き、それから冷静に先程の言葉と声を反芻する…今の声は…



キャラメリゼ!?どこどこ!?





ははっ、違うよアラモードさん。あれはサヴァランだ。





あっ…そ、そう、ですよね…ですよね…





ベルリーナ…


一度深く息をつき、再度体育館に入室する…うわ…すごいかわいい格好してる…ベルリーナも役者側だったんだ…



あー、でも、言われてみれば似てるかもな…この前新聞記事で見たのと





知らず知らずのうちに触発されちゃったのかもね!





サヴァランが怪盗かぁ…絶対ないけど、カッコいいかもしれないね!!


……『絶対ない』は率直に傷つくけど…まあいいや。そのままみんなの輪の中に入るため、前へ進もうとすると、複雑な表情をしたベルリーナがこちらへ足早に歩み寄ってきた…待って!!心の準備がまだ出来てない!!!!!



や、やあリー…





裾がほつれてます。こちらへ





は、はい……


…やっぱり…怒ってるよね…クラスメートに目配せをし、俺はもう一度体育館の外へ出た。ほかの教室とは違う重い鉄扉を閉じ、背にはそれを、前にはベルリーナという板挟みの構図…この前は逆だったのになぁ…



あの…





私も、あなたのことは大嫌いです





う……


心が折れそう…当然だけど、相当根に持たれてる…



あれは…その…!えっと……俺にも、聞かれたくないことがあったというか、地雷だったというか…その…だから……





……ごめん…





…………





正体、バレちゃいけないのでしょう?もっと自覚を持って行動してください。心臓に悪いです


それだけ言うと、ベルリーナは鉄扉に手をかけ、それを押し開いた。先に言ってしまう前に、何か言っておきたくて口を開きかけるが、そこから言葉が紡がれることは無かった。紡がれたのは、ただこの一音



………ジュリエットは、私です。劇にまで私情を持ち込むつもりはありませんので、よろしくお願いします。ロミオさん





………………へ……?


ベルリーナを通した鉄扉は、重い音を立てて俺を閉め出した。



だめだああああ!!!全然集中できなかったあああああ!!!!


初めての練習の成果は最悪。ベルリーナの顔をまともに見れないというところとから始まり、最後には、台本を持って参加しているにもかかわらず、自分の台詞が飛んでしまったのだ。何やってるんだ俺は…!



……こんなんで大丈夫なのかなぁ…上手くできる気がしない…





応えなきゃ…いけないのになぁ…


なんだか泣きたい気分だ。幸い屋上には誰もいないし…少しセンチになっていても、誰にも文句は言われないだろう…



……「ジュリエット…私は、君を信じたい」


この言葉を君に言えたら…どんなに楽になれただろう。プライドなんて捨てて、まっすぐに声を掛けられたら…



……君を、信じたいよ…





……ここに来るのも、ずいぶん久しぶりな気がしますね…





ブリュレさん…





寝息…?





ブ、ブリュレさん!?なんでここに…





……寝てる…?です…?





……





……「私を信じて、ロミオ様。私の気持ちは、本物です。」





……





隣、失礼しますよ。





…お休みなさい


