某月某日・子供の日。
ウォルヴァンシア王宮の上空には、得体の知れない、いや、原産地の知れない大魚、いや、巨大な怪魚がわんさかと浮いていた……。



……。





あらあら♪





きゃっきゃっ♪凄いね~、おっきなお魚さんがいっぱぁ~い♪


某月某日・子供の日。
ウォルヴァンシア王宮の上空には、得体の知れない、いや、原産地の知れない大魚、いや、巨大な怪魚がわんさかと浮いていた……。



いかがでしょう?ユーディス様達がお暮しになっている世界では、丁度今日は子供の日だとか……。ユキ姫様に喜んで頂けるよう、魔術師団一同、心を込めて用意させて頂きました。





捕獲にはちょぉ~っと手間取りましたけど、やはり、ユキ姫様に喜んで頂くにはこれくらいしないと、と思いまして♪





シャァアアアアアアアア!!





ハフハフ……。





アギャアアアアアアアアアッ!!





……。





……あ~、ルイヴェル、セレスフィーナ。





はい。





なんでございましょう?





幸希がどう説明したのかは……、まぁ、子供だから仕方ないのだろうが、……その、子供の日に飾る『鯉のぼり』というのはね。……今、私達の頭上で奇声を上げているとんでも怪魚集団の事ではないんだよ。





……は?





……え。





魚の形はしているのだが……、布で作った偽物なんだよ。





……。





……。


小さな王兄姫殿下の父親であり、この国の王兄であるユーディスからの、――衝撃の事実!!
双子の王宮医師だけでなく、その場に集まっていた今回の協力者である魔術師団員達にも戦慄が走る!!



布……、ですか。





ごめんなさいね~。私がちゃんと説明しておけば良かったわ。でも、……まさか、怪魚の類を調達してくるなんて……。





ははっ。普通思いませんよね。俺もルイが魔術師団員達と出ていく時に内容を聞いてたんですけど……、絶対変だって思いましたし。


魔術師団員達の群れからひょっこりと現れたのは、ウォルヴァンシア王宮二階の大図書館で司書をしているアイノスだ。
彼の悪気のない笑顔をじっとりと見た団員達が、じゃあ一言でいいから事前に突っ込めよ!!と、恨みがましい目で睨みつけている。こっそりと……。



きゃっきゃっ!!でも、お魚さんいっぱいで楽しいよぉ~!!


魔術師団員一同
(((ユキ姫様ぁあああああっ!!)))
(感涙)



だが、……あれは鯉のぼりじゃないんだろう?





申し訳ありません、ユキ姫様……。もう少し、詳しく『子供の日』についてお聞きしていれば。





鯉のぼりより迫力あるよ~!!生きてるお魚さんがい~っぱい泳いでるもん!!すごいすご~い!!





ユキ……。





ユキ姫様ぁ……っ。


確かに、普通の鯉のぼりなど比べ物にならないほどの大迫力だろう……。
だが、王宮の上空で悠々と泳いでいる巨大魚や怪魚達の姿を見てしまった城下の民達は、皆、それぞれに絶叫しながら世界の終わりが来たのか!?と身震いしているのだが……。



ん?





なんかきた~♪





心清き幼子よ……。今日は子供の日。特別に〇つ集めずとも、汝の願いを三つかな――





ぁあああああああああ~~……。





物語の境界線を考えろ……!!





最後まで言わせなくて良かったわ……。





あははっ。……っていうか、今の誰が捕獲してきたの?(滝汗)





知らん。





すっごくおっきかったね~♪





まぁ、ユキ姫様が喜んでくれてるから、いいんじゃないかな。


自分の為に用意された、非常にシュールなお空の光景を見上げながらはしゃぐ王兄姫の頭を、かわるがわるに撫でていく団員達。
子供は小さい事なんて気にしない。
楽しかったり面白ければなんでもいいのだ。



皆、元気になってくれたようで何よりね~。





ふぅ、そうだね……。だが、





どうしたの?ユーディス。





子供の日、はまぁいいとして、……鯉のぼりは、大抵……、男の子のためのもの、じゃなかったかな?





ユーディス……。お口チャックしましょうね。





はぁ……。まぁ、男の子でも、女の子でも、子供達の健康とこれからを願うものに変わりはない、か。





ふふ、そうよ。皆で楽しく今日を過ごせれば、何も問題はないもの。





ニヤッ!!ニヤニヤッ!!(泳ぎながら自分アピール)





可愛いね~♪





……なぁ、セレス姉さん。





なぁに?





ユキの為と思い、捕獲してきたが……。実際、可愛い、と例えられる魚は一匹もいないと思うんだが……。





……ルイヴェル、お口チャック♪


魔術師団員達
「「「コクコク!!」」」



子供って、もしかしたら、世界で一番心が広いのかもしれないね。ふふ。





きゃっきゃっ!!皆、ユキの為に可愛いお魚さんいっぱい、ありがとうなのぉ~!!


愛らしい王兄姫殿下が満足ならば、それでよし。
その場にいた大人全員は、若干遠い目をしながら、大空を泳ぐ『鯉のぼり』に関してのコメントを飲み込むのだった。
