正蔵さんの死の報せは翌日、花楓さんの掠れ切った声で僕に届いた。
正蔵さんの死の報せは翌日、花楓さんの掠れ切った声で僕に届いた。
手続きが進んでいくほど、正蔵さんの死が褪せていくようだった。
僕は遺族ではない。
ただ参列者と肩を並べていた。
肩を震わせる花楓さんは、それでも毅然と背筋を伸ばしていた。
舞花ちゃんは、なにが起きているのかわからないというような顔で、お母さんにしがみついていた。
時折眠っている正蔵さんのほうをみつめながら。
静かな葬式だった。
僕はどうすればいいかわからなかった。
素直に悲しんでいいのかわからなかった。
悲しむ権利があるのかわからなかった。
ただ一度、それでも止まらない涙を、小さな手がぬぐいに来てくれた。



おにいちゃん、だいじょうぶ?





なかないで


さらに溢れる涙をみて、その小さな手は、僕の頭をなで始めた。



ないているひとがいたらね、あたまをなでるといいんだって、おじいちゃんがいってたの


その言葉にまた涙が溢れ出す。
小さな手は、ずっと僕を撫で続けていた。
優しく、優しく、止まらない涙につられそうなのを、我慢しながら。



……情けない話だよ、僕はあの時、舞花に慰められてた


冷めきったカプチーノに、思い出したように手を伸ばした由宇は、一瞬みせた穏やかな表情をまたすぐにきつく変化させる。
そう、まだだ。



……由宇が、結んだ契約は?





うん、それは、これから





時間屋は、僕の人生を、という提案を、すぐには受け入れなかった





時屋吉野から、時間を、という言葉を引き出せたあの時、僕はすこし、気分がよかったよ


おじいちゃんの死の話で悲しみに引きずられそうになっていたのを、その言葉でなんとか元に戻す。
言いたいことはたくさんある。
どうして、と。
訊きたいことだって、たくさんある。
でもまだ、言葉にならなかった。
おじいちゃんの契約、おばあちゃんのこと、由宇のこと。
言わなければいけないことだってあるはずなのに、私はなにも言葉にならなかった。
……違う。言葉にならなかったんじゃない、できないのだ。
なぜなら、彼のほんとうの年齢と、「人生を買ってほしい」という提案の意味が結びついて、嫌な予感がしてならなかったからだ。
第二十四話へ、続く。
