第3幕
駆け抜けろ、
C.ザ・リッパー!!
後編
第3幕
駆け抜けろ、
C.ザ・リッパー!!
後編
多少混乱している頭を冷やしつつ、私は薄暗い地下道を進んでいた。目的のポイントまであと少し…



それにしても…さっきの男…





っ…まだ痛むな…しばらく引かないもしれない…


くっきりと手の痕が残っている左手首をさすり、先程のことを思い返す…



あの男…何者だったんだろう…?市警官には見えなかったし、もしそうだったとしたら、カジノが無事なはずがないし…それに、あの言葉…


あの独特な感じ…どこかで聞いたことがある響きだった…英語でも、ドイツ語でも、スペイン語でもない…あれは…



……っと…ここか


地上へのマンホールに続くハシゴを上り、思い鉄扉を持ち上げる…これが朝だったら悲惨だっただろうな…街灯の光が差し込み、思わず目を伏せてしまった。



……?にしては明るすぎやしないか…?いくら位地下道を通ってきたとしても…この光は…


まるで、昼のようではないか…?



怪盗キャラメリゼ…!本当に出てきやがった!!





なっ…!?


ファウスト…?違う、この声は…!



おい!捕まえろ!!





逃がすんじゃねえぞ!!





っ!


地上に出かけていた上体を引き戻し、地下道に舞い戻る…どうなってる…?先読みされた…!?



あの光…そうか、懐中電灯か…!でもどうして…あれではまるで、ここに来ることがわかっていたみたいじゃないか…!!


幸い合流ポイントはいくつか用意していた。咄嗟のことで、相手も追いかけては来ていないようだ。とにかく、なんとかして合流しなきゃ…!



いたぞ!こっちだ!!





チッ…!





逃げられると思うなよ!!





なんで!!





いい加減諦めな!!





嘘だろう!?


おかしい…こんなのおかしい…!全滅だ!!何が起こっている…?こんなに行動が先読みされるなんておかしい…!!



地下には何かあるのかもしれない…地上に出て逃げた方が安全か…


その方が合流もしやすい…最悪、拠点にたどり着ければ…!!



………まだ、誰もいない…


いつも通り屋根を渡って逃げよう…その方が捕まりにくいし、何より、慣れてなければ足を取られやすいから都合がいい…
私はフックショットで、適当な建物の屋根に登った。風が強い…足を滑らせないように気をつけなきゃ…



これで少しは逃げやすくなったか…さてーー





Oyosuodoir





っ!


進行方向とは逆の位置…そこに、3人の人影が見えた。屋根の上までは街灯の光が届いていないから、よく見ることが出来ない。でも…今の発音は…



Iasotasn,omomiugasasn,akerininohnogawutuizaniedusoy.Obukinamakesetukadasi!





Asassotihsor





Awakettamusoy…


ジャポネズ…それに、この声…月の光で、その姿が鮮明に映し出される…



やあ、怪盗キャラメリゼ。はじめまして…僕達はヱトセトラ探偵社というものだ





僕達の目的は、君を捕らえることじゃない。そのワイングラス…返してもらえないかな?





チアキ…!?なんで…!?





へ?僕の名前…知ってるの?





さすが怪盗。敵の調べも完璧なんだね…


違うけど…ここは話を合わせた方が良いな…



…ええ、少しばかり。





でも、いろいろと調べ不足だった様だ。君たちの仲間には、魔術師でも存在しているのかな?





魔術師ね…面白いことを聞くね、怪盗さん。





でもごめんね。敵に手の内を明かす様な真似はしたくないんだ。それから…あまり手荒なことをして、大問題にもしたくない。


チアキがちらと背後を振り返る。そこには二人の男が立っていた。そのうち一人は、先ほど私の手を掴んだ男だ…なるほど、探偵だったのか。



僕の後ろにいるこの人…彼は日本武道の達人でね。君が素直に動かないなら、実力行使に出るしかなくなる…





逃げようとかって言う考えは、捨てた方が身のためだよ。君がそのワイングラスを持っている限り、僕たちやカジノの人達には君の居場所は筒抜けだからね。





へえ…細工はワイングラスにあるんだ…
後で調べさせて貰うよ





その「後」は君には訪れない。僕と違って、あの人は気が短いんだ。早く、ワイングラスを置いて立ち去ってくれ。





Non、ごめんねレディ。君たちが依頼を受けた様に、私も依頼を受けた身なんだ。このワイングラスは渡せない。





…そう。





……Oduanatt?





……Ademedisat…





……Ayettiiak?





………怪盗さん、君はもう少し自分を大切にした方が良いよ。





…残念だ。


チアキがつぶやいた瞬間、その背後から男が飛び出してきた。間合いが一気につまり、男の拳が眼前に迫る…



Asiohsakarokuusayriinadoy!!





おっと


私はそれをくるりと半回転して受け流す。そしてーー



またね、探偵諸君





Ioamete!!





An…!?





Aubani!!


私は後ろ向きのまま屋根から飛び降りた。背を下にして、そのまま地上にーー
たたき付けられることはなく、私はすっぽりとファウストの腕の中に収まった。



遅い





あなたがむやみやたらに動き回るからです…あと軽すぎますよ、あなた…





ダイエット中なんだ♪





全く…とりあえずお暇しましょう





あ…まって、ワイングラスがーー





発信器のことなら安心してください。車に入ればジャミングで妨害されますから…その間に探して外しておいてください。





ハッシンキ?じゃみんぐ?





ちゃんと説明しますから…早く乗ってください。もう市警にも連絡してしまったんです。





わ、わかった


私が後部座席に乗り込むと、車は音を立てずに動き出した。程なくしてパトカーのサイレンが近づいて来る…



これなら、依頼を失敗してもチアキたちにとばっちりが飛ぶこともないだろう…





まだ安心しきるのは早いですよ。ワイングラスのどこかに、小さな機械がついているはずです。それを外して、外に捨ててください





わかった。


ワイングラスをよく見てみると、グラスの底に黒いボタンの様なものがついていることがわかった。明らかに異質なそれを、私は窓から投げ捨てた。ファウストによると、これが居場所を遠隔で伝える装置なのだそう…そんなものは、想像の世界の話しだと思っていた…本当に存在するなんて…



相手は…あの、物作り大国『ニッポン』の連中です。実在してもおかしくありません。





ニッポン…また面倒なのが出てきたなぁ…





まあ、あなたなら問題ないでしょう…着きましたよ





ああ、ありがとう。


拠点に入って仮面とマントを外す…はあ…今日は疲れた…



さすがにお疲れですね





しかし…科学兵器が出てきましたか…対策を考えなければなりませんね





うん…そうしてもらえると助かる。俺には対応し切れないよ…





機械に弱い怪盗ですか…ふふ、なかなか滑稽ですね!





人事だと思って…





じゃ、俺帰るね。次の目星がついたら連絡ちょうだい





おや、もう帰ってしまわれるのですか?





明日は大事な用事があるんだ。寝坊すると大変だからね





そうですか…でも、一杯くらいつきあってくれませんか?せっかくいいお酒も手に入ったのですし…





せっかくだけど、また日を改めてね。





…………





わかりました。では、あなたの都合が良いときにでも…





ああ、それまで、楽しみにしておくよ♪


残念そうなファウストを尻目に、俺は拠点から出た。空には小さな星が沢山散りばめられている…



明日…楽しみだなぁ…♪


少し上機嫌で、俺は家まで戻り、そのまま眠りについた--



…そうですね…ちゃんと待ちましょう。焦らずに、ゆっくりと…





器が、完全体になるその日まで…


次の日、俺は予定より少し早い時間に目が覚め、待ち合わせにも少し早く向かうことにした。レディを待たせるなんて、紳士のすることじゃないからね♪



母さん、ちょっと行ってくる!!





あ、待ってサヴァラン!





最近越してきた方が、挨拶に来てくださったわよ。挨拶だけでもして行きなさい





越してきた方?


カウンターに改めて目を向けると、そこには見覚えのある三人組がいた…



げっ…!!





ボンジュール、サヴァランくん!朝早くにごめんね!!





……Amizak…





Osiut?Umusokett





Osueduso!サヴァラン=ブリュレuknnedus!!





前は本当に雑談しただけだったからね…ちゃんと自己紹介しておこうと思って。





僕たちは、日本出探偵社をやっているんだ…その名も『ヱトセトラ探偵社』!





あ、ああ…ヱトセトラ探偵社…





昨日聞いたなんて口が裂けても言えない…!!





僕は、そこで助手兼通訳をしている…チアキ・ツイタチ。で、こっちの背の高い人が、レンマ・モモイグサさん!





Obuoyrukazatinamikokamerosuinanattaroynneduker。Ekitarihsetayuroy!





えっと…困ったら呼んでくれ、だそうだよ。





で、こっちがムチウ・イサトさん!僕のバディだよ!





……Oyorihsuk。





よろしく、だって!





百戦さんも言ってたけど、困ったことがあったら何でも相談してね!絶対に力になるから!!





Ohsappanonihsogotaha、diihsappiadattekodan。





Oserahiawaniedukadasi!!!!!!





ふふ、ありがとう。是非頼らせて貰うよ。





うん!





急いでるのに、引き留めちゃってごめんね。





いや、こちらこそ…何のもてなしもできなくてごめんよ。後日必ず。





本当?じゃあ、楽しみにしてるよ♪





行ってらっしゃい、サヴァランくん!





ああ、行ってきます!!


何とかやり過ごせた…そう思ったが…



…怪盗キャラメリゼ





え…?


ムチウとすれ違った瞬間、彼が確かにそうつぶやき、俺に嗤いかけたのがわかったーー



あ…大事なこと伝え忘れちゃった…





…………


第3幕
グラスオブシュヴァイン
La Fin
『ベルリーナ=スノーボール』
