何もない殺風景な部屋に、そのおじいさんはたったひとりでいた。
何もない殺風景な部屋に、そのおじいさんはたったひとりでいた。



博士。オ姫サマヲオ連レイタシマシタ。





おお、チャーリー、久しぶりだな。
うん? 今なんといった?





……。





お……おおおおお!


おじいさんは感極まった様子で、あたしを抱きしめた。
知らない人だったがその抱擁は家族愛に満ちたものであたしの体を気遣いいたわっているのが分かり、不思議と不愉快ではなかった。



ん……だれ……?





目覚めたのか! よかった、
本当に良かった!!





ソレトモウ一人……。





……。





わわっ、なんじゃこの娘さんは!?
大怪我しとるじゃないか!!





オ姫サマノゴ友人ト、ソノ散ラバッタ 構成素材ノスベテデス。


ご丁寧にチャーリーはあたしの体と血と内容物をすべて運んできてくれたらしい。
おかげで簡素だった部屋は瞬く間にケチャップまみれになった。
おじいさんはチャーリーとしばらく話し合うと、落胆した様子であたしに向き直った。



そうか……やはりあの研究は
失敗じゃったか……。





失敗? オ姫サマハ目覚メ転移ハ成功シタノデス。実験ハ成功デハナイノデスカ?





いや、ワシの娘や孫の魂はこの子には 宿らんかった。今この子の中にいるのはおそらくその娘さんの魂じゃろう。 その猫に殺された瞬間に何かのはずみで傍にいた魂が憑依したんじゃろうな。


見るからに科学者という風体のおじいさんが魂とか宿るとかいうのを、あたしは不思議に聞いていた。



おじいさんは、幽霊とか信じてるの?





ああ。変かね?





へん……じゃないけど……。





まあ、ワシら生き物はいつかは死ぬ。 霊長といいつつ自然の摂理には逆らえん家族や仲間や自分の死に畏れや哀しみを抱くのは、科学者だって同じさ。





さあ、時間を無駄にしたな。
始めるぞ、チャーリー。





何ヲスルノデスカ、博士?





決まってる。その娘さんの魂を、元の体に戻すのさ。やっていいかな、お嬢さん?





……うん。


何もない部屋で何をするのかと思ったら、おじいさんはチャーリーの中から工具と電極のようなものを引っ張り出し、あたしと元の体とチャーリーと三人をつないだ。



姫サマト同調確認。物質転移ト変換ノ 処理ニ縮退炉ト演算回路オ借リシマス。





……ふぁい。


口にくわえた電極から膨大なデータが行き交うのを感じる。
好奇心でチャーリーを覗いてみると、彼の視点からあたしと博士と元の体を見下ろせる感じになった。
身体がふわふわと浮いていて、なんとも気分がいい。



ふふっ。





覗くのはいいが、チャーリーの
邪魔だけはせんようにな。





あ、はい。


見られていたと分かり、つい頬が火照ってしまう。
同時にこんなおじいさんがいてくれたらいいだろうな、なんてことを考えてしまった。
それがいけなかったのだろうか。



この子の脳とこの娘さんの体を再構築し元に戻す。もともとは一人の人間じゃ。必ずうまく行く……!





!? 脳ト体ノ同期ガ取レマセン。何カ 外部カラノ干渉ヲ受ケテイル模様デス!





なんじゃと!? 無線なんぞつかって
おらんぞ? 発信源はわかるか!?





特定デキマセン。体ノ壊死ガ急激ニ
進行中! コノママデハ……。





くっ、仕方ない。予定変更。壊れた体をこの子で補完するんじゃ。元の体が朽ちてしまっては元も子もない。できるか?





同期完了。干渉モ問題アリマセン。
肉体ノ再構築可能デス。





ふう。よし、では再構築開始!





……。





……。


