周囲をはばかるような小声で問いかける奏の声に、するすると庭の立ち木の間から蓮蛇が現れる。



もしもーし。
蓮蛇さん来てます?


周囲をはばかるような小声で問いかける奏の声に、するすると庭の立ち木の間から蓮蛇が現れる。



やあ。
なにか御用かな?





あの、質問、なんですけど。





質問?
答えられることならいいんだけど。


とぐろを巻いて聞く姿勢になった蓮蛇に対して奏が口火を切る。



男の人ってどんな女の子が好きなんですか?





ふむ。
男の好きな女性、か。
難しい問題だ。


目をつぶりゆらゆらと鎌首をもたげて揺れる蓮蛇は独り言のように話を続ける。



容姿から好きになるのか。
性格から好きになるのか。
容姿からなら容姿のどの点から?
髪の艶か、胸の大きさか、腰の細さか、お尻の大きさか。
性格なら明るいからか、引っ込み思案からか、包容力からか。
人を好きになる理由はこんなにも取り留めなく、数多い。





あ、あの。





さらに人は自らが気づいて居ない。
或いは全く自覚がないどころか「その人に出会うまで関心のなかった部分」にも惹かれてしまう。





うー、簡単にお願いします……。





好みを知りたい、好きになってもらいたいならまず交友を持たないとお話にならないってことだね。
もし自覚のある好みから外れていても「もしかして」ということがあるからね。





ああー、好きになってほしい人がいるとかじゃないんです。
ちょっとした好奇心でー……。





ふむ?


蓮蛇の先を促すような言葉に、奏は頬をかきながら、あははと笑っていった。



他に男の子?っていうか男性?の知り合いいなかったので聞いてみたかっただけなんです。
好きな男の子とか……正直、わからない、です。


照れて頬を染める奏。
それを見て蓮蛇は内心酷く安堵する。
この娘の胸中には、いまだ誰もいないのだ、と。



ふふ、しかし驚いたよ。
奏にはもう春が来たのかと思ってね。





は、春なんて!あたしなんて、頭もよくないし、可愛くないし……。
私のことを好きになってくれる人なんているのかな……。





そう自分を卑下したものではないよ。
奏はふんわりした雰囲気で相手を包み込むところがあるし。
顔だって十分に可愛い。
君のことを可愛くないなんていう男は半分以上「じゃあお前の顔はどうなんだ」っていうところだろうね。





や、やだなー……そんなこと、ないですよ。





いいや、君はかわいいよ奏。
だから自信をもって、男は君を狙っていると警戒してね。





そ、それって蓮蛇さんも対象だったりー?


あははーと笑う奏に、蓮蛇はとぼけたように答えを返す。



ま、警戒する相手に私を入れるかは奏にお任せするよ。





え゛。怒りました?





怒ってはいないよ。
ただねえ、口説かれて蛇に脈があるなら警戒しなさい。
私は前々世から君のことを好いているんだからね。





ええええーーーーー!


夕暮れの寺の陰に。
結界に阻まれた叫びが籠った。
