家に帰ると靴を脱ぎ、
肩にかけていたカバンから、
A4サイズの用紙を取り出した。



ただいまー。


家に帰ると靴を脱ぎ、
肩にかけていたカバンから、
A4サイズの用紙を取り出した。
そして、
リビングへと向かい扉を開ける。
リビングに入ると、
テレビを観ながらソファーに座る女性がいた。
扉が開いた音が聞こえたので、
女性は振り返ってそちらを見た。



おかえり、美咲。





ただいま、お母さん。


美咲は答えると、
リビングの扉を閉めた。
母は、
美咲がそわそわしているのが気になり、
何かを察して声をかける。



その手に持ってる紙はどうしたの?


待ってましたと言わんばかりに笑顔になって、
その紙を母の前で広げて見せた。



ジャジャーン!
物理96点!





凄いじゃない!
ノートに付箋ビッシリ付けて、勉強してたもんね。





うん。
色ペンで書いた時より、付箋を貼った方が頭に入りやすいの。


ほとんどの解答に赤い丸がついていて、
結果としてはかなり良かった。
母も娘の努力を知っていたので、
一緒に喜んだ。



よーし。
今夜はご馳走にしよう。





やったぁ!





ふふ。





えへへ。


母はソファーから立ち上がって腕をまくると、
喜ぶ美咲の頭をポンと撫でて、
キッチンへと向かった。
夕食の準備も終わり、
テーブルに並んだご馳走を見渡す。



えー。
こんなに作ったの!





そうよ。
お祝いだからね。


並んだ食事の数々に驚くと、
母は調理器具を洗いながら鼻唄混じりに答えた。
そんなやりとりも束の間。
仕事を終えた父が帰宅し、
リビングへとやってきた。



ただいまー。
おっ、夕飯豪華だな。
また美咲が何か頑張ったのか?





うん。
物理のテストで96点だったの。





へー。
偉いな、美咲。


父は美咲からテストを手渡され、
用紙のあちこちを眺めながら頷き、
感心していた。
洗い物が終わると母も席へと座って、
三人一緒に手を合わせて食事を始めた。
ある日の休日。
学校が春休み中ということで、
いつもよりゆっくりと寝ていた。
カーテンの隙間から入った陽の光で目が覚めると、
顔を洗うために少し寝ぼけたまま部屋を出て、
欠伸をしながら階段を降りていく。



ん?


洗面所に向かう廊下の途中で、
ふとリビングの扉が開いてることに気付く。
軽く覗き込むと、
母が鼻唄混じりに棚の掃除をしていた。



ふふん。





お母さん、おはよ。





おはよう。
今日もゆっくり寝てたわね。





うん。
昨日も夜更かししちゃった。





やっぱり。
朝ごはん作ってあげるから、顔洗ってきなさい。


母は、
手に持っていた写真立てをいったん棚に戻して、
キッチンへ向かう。



はーい。


洗面所からリビングに戻ると、
テーブルには、
トースト、目玉焼き、ウィンナーが皿に盛られ、
隣にはホットココアが置いてあった。



ありがとう。
ココア飲みたかったんだ。


席に着くと、
ココアが入ったマグカップを両手で持ち、
ゆっくりと口元に近づける。



ふー、ふー。


少し冷ましてから飲み始めると、
心地良い甘さから笑みが零れる。
母は向かいの席に座り頬杖をついて、
その様子を微笑ましく眺めている。



そうだ。
春休み明けに進路希望の調査があるんだけど、まだハッキリしなくて悩んでるの。





そう。
将来就きたい仕事とかはないの?





お母さんみたいに料理が上手だったら、調理師とか良かったんだけどね。
私下手だからダメだと思う。





練習すれば大丈夫よ。
それに、料理上手だと男の胃袋掴めるわよ。


母がドヤ顔でガッツポーズをするので、
少しからかってみようと思った。



お母さんの料理に、お父さん惚れちゃったんだもんね。





まぁね。
って、料理だけじゃなくて全部よ。


ノリツッコミをするとお互いに笑いあった。



何にしても、美咲がやりたいことに挑戦しなさい。
どんなに遠回りに見えても、それが自分のやりたいことなら、色んな形で実現するから。
ね?





うん。
ありがとう、お母さん。


美咲は母の言葉が嬉しくて、
そのままトーストを頬張った。



ねー、美咲。
夜ご飯一緒に食べれるなんて珍しいね。


春休みの終わり頃、
美咲は友達とファミレスに来ていた。
そして、
デザートを食べながらトークを楽しむ。



うん。
今日は、お父さんとお母さんの結婚記念日だから、二人っきりにしてあげたんだ。
今頃豪華なレストランで食事中かな。


両親の仲の良さは、
美咲にとって自慢だった。



へー、仲良いね。
私の親なんて全然だわ。


友達はストローをプラプラと口に咥えて、
両親を思い浮かべながら呆れていた。
それからも、
女子高生ならではのトークで盛り上がるのだが、
途中で時計が目に入り、
20時を回っていたので解散した。



ただいまー。


家に到着し、
玄関に入ったのだが、
明かりはなく真っ暗だった。



まだ帰って来てないんだ。


靴を脱ぎ、
廊下の電気を点けると、
階段を登って自分の部屋へと向かう。
