声の主はジュピターだった。



…………ル。





…………って、





ハル、起きろって。





お、やっと起きたか。


声の主はジュピターだった。



おはよーっす。
ジュピター、っへ
まだ夜じゃないっすか。





そう真夜中だ。
覚えてるか?
訓練場裏ルール。





リーベの
スペシャルケーキしか
覚えてなっす。





真夜中の特訓だよ。
食堂でやってるってやつ。





おおおおーーーっす。
そう言えばそんなこと。
特訓、気になるっす。





おいおい
うるさいぞ。
シャセツが起きる。
今日はオイラ達二人で
行くって言ってただろ。





分かったっす。
静かにするっす!





もういいや。
行こう。


訓練場の宿舎は四人部屋。現在ハルとジュピター、そしてシャセツが同じ部屋なのだ。
物音を立てないようこっそり移動する二人。背中を向け横向きに寝ているシャセツは熟睡してそうだ。



…………がに…………ってす。


寝言だ。何を言ってるか聞き取れないが、明らかな寝言だ。



シャセツも寝てる時は
可愛いもんっすね。





ウヒィッ!!


寝言を笑うハルの鼻っ柱に、シャセツの手刀が走る。あわや鼻が真っ二つに分断されて風通しがよくなる一歩手前だった。シャセツはハルの声に反応して、寝たまま手刀を繰り出してきたみたいだ。そして、静かにベッドに戻って寝息を立て始めた。



寝てても恐ろしいな。
オイラはなるべく
関わらないでおこう。





ジュ、ジュピター。
早くここを出るっす。


二人は逃げるように部屋を出て行った。
真夜中の訓練場は、誰もおらずシンと静まりかえっている。薄気味悪いと感じる者もいれば、ハルやジュピターと同じくワクワクする者もいるだろう。



どんな特訓やってるんすかね。





それもそうだけど
この状況が既に
楽しすぎるな。





ジュピターもっすか。
自分もっす。





くくく。
そりゃそうだよな。
おっ!?
食堂が見えてきたぞ。


食堂に入ると真っ暗だった。



あら、何かの間違いか?





あ、あの先じゃないっすか。


食堂の奥には、明かりが洩れる扉があった。必然、誘われるようにハルとジュピターはその扉に導かれた。
従業員が待機するスタッフルームだろうか。茶瓶やら鍋やらがあちこちにあり、お世辞にも片付いていない。そこに、目に覚えのある顔があった。



フフフ、
お待ちしていました。


結晶師ニグだ。
声に抑揚があり、昼間と少し違う印象が見受けられる。



おおーー♪
グニさんじゃないっすか。





グニって。
グニグニしてそうな
名前になるだろ。
すんません、グミさん。





グミだってグニグニしてる
じゃないっすか。





え?
じゃ、どっちだ?





…………


存分に失礼なセリフを交わすハルジュピ。二人の失礼さ加減に言葉を失う結晶師ニグは、沈黙という意思表示で抵抗してみせた。



やっぱり誰かいるじゃん。
フィンクス、こっちよ。


扉の方から軽い口調の若い女性の声がした。部屋に居た三人の視線が一斉にそちらに集まる。



おっ!?
裏ルールまじだったのか?
シャインの言った通りだな。


裏ルールを聞きつけたのか、男女の声が近づいてくる。彼等は一体誰なのか? そして結晶師ニグがいる訳は? そもそも裏ルールの秘密特訓とは?
ハルジュピの前に現れた
一組の男女
新たな出会いは
別れの始まりを意味していた
三度目の出がらしより
薄い確率を越え
混沌なる渦にも似た
運命の歯車は動き出す!
次回!!
~錬章~ 52
秘密特訓
過酷な猛特訓を
乗り越えることが出来るか!
お楽しみに
