……どういうつもりだ

何がでしょうか？

とぼけるな！！ 何故奴が、あの鬼が軍議を指揮しているのだ！！ 次の指揮官となるのは松尾弾正の実子たる私のはずだ！！

……おそれながら、松尾家家臣全員、更には機内の弾正様に恩のある大名が参加されております

……なに？

柳……柳生殿は弾正様が亡くなられたその日に大名に檄文を出しました。『松尾弾正の敵討ちのために、一度だけ力をお貸しください』と

今も参陣した将らに頭を下げ、力を貸すようにと自ら頼み込んでおられる。作法もろくに知らずとも、その熱意に撃たれた家臣大名は数知れず。実に見事ではありませんか

……秀政よ、其方は父上の頃より松尾家のために働いてもらっている。その忠義に関してはもはや疑っていまい。だが、これはあまりに過ぎた行為だ

貴様がつくべきは誰だ！？ 貴様が従うべきはダレだ！？ あの鬼ではなく私だろう！！ いい加減目を覚ましたらどうだ！！

久道様、貴方は父上の死よりも妖怪や柳に対する憎悪の方が勝るというのですか

……何？

柳……柳生殿は、純粋に弾正様の仇討ちを望んでいるのです。同族を討つために、種族の違う我々に頭を下げるとは、並の者にできる芸当ではございません

それに応えたいと思うことの、何がいけないのでしょう。弾正様の仇討ちに燃える気持ちは、我々とて同じはずです

秀政、奴は所詮鬼だ。人でない者がどれだけ背伸びをしようと、人でなしでしかない

例え鬼であろうと、志を掲げし者は武士です

…………っ

……久道様、度重なる無礼をお許しください。この戦の後で減俸でも切腹でも喜んで致しましょう

ですが、それもこの戦の後で。この老忠の我儘をお聞き入れください

…………っ！！

雅信殿、まさか来ていただけるとは

私は今は根無し草……戦働きで生計を立てるしかない故

それに、鬼である其方が人間をどう率いるのか、興味がある。弾正様の恩も返さねばなりませぬし

はい。ありがとうございます

柳生殿、肩に力が入り過ぎですぞ。深呼吸でもされたら如何か？

やはり、先導する側になるのは初めてですからね……どうしても緊張してしまいます

忠政殿も、私の補佐をしていただき感謝いたします。なんとお礼をすればよいのか……

礼など不要だ。其方には先の戦で助けられた借りがあるし、弾正様の無念を晴らしたいのも同じだ。其方は鬼である前に、立派な武士だ。その誇りを忘れるな

…………はいっ

柳生殿、どうぞ皆に檄を！ 此度の指揮官は其方です！

皆さん、初めまして。僕は柳生。見ての通り、鬼です

ですが、松尾弾正様の慈悲により生かされ、2年間捕虜として生かされてきました

松尾弾正は私に様々なことを教えてくれた。父と呼んでもいいほどに、尊敬すべき方でした。皆さんほどではないかもしれませんが、殿についていこうと心から思っていました

その松尾弾正が先日暗殺されました。他でもない妖怪の手によって

同じ妖怪である私が皆を率いることに不満や憤りを感じる方もいると思います。すべて甘んじて受け止めます。それでも、今回だけ私についてきてください

そして、この戦で終わらせます。松尾弾正様の仇であり、妖怪軍の実質的な指揮官・覚を討ちます！！